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「痴れ者が⋯」


ー私は言えるに決まっているー


自分の発した声に

私の意識は鮮明になった。


やはり

あの男が現れると〝悪夢〟でしかないな。


ーまた夢で⋯かー


次に相見えるのならば

何故に私の夢に現れるのかを問いてみよう。


躯を起こすと

生徒会室にあるソファであった事に気付く。


当たりを見渡すと

ソファ横のサイドテーブルに

私のローブが丁寧に畳まれ

その上に救いの鐘を象った胸飾りや

帽子が置かれていた。


設置された会議用の長机では

副会長と補佐が眠り落ちている。


二人にそれぞれブランケットを掛け

暖炉に薪をくべ直すと

私は生徒会室を後にした。


今日はホリデーだ。

ゆっくり眠ると良い。


シャワーを浴び

制服にアイロンを掛けると

私服に着替えて鐘楼へと向かう。


日課の掃除を熟しながらも

胸中を巡るのは彼等の事ばかりだ。


「やぁ、ロロ!

なんだい心ここに在らずだねぇ!」


ー出たな、忌々しいー


そう口に出しそうになり

ハンカチで抑え言葉を飲み込む。


「今日はお前達の

苔を落とす約束だったな。

全員一列に並んで待っていたまえ」


敢えて問答を無視して

忌々しいガーゴイル達を並ばせる。


此奴等に一つ何か話そうものなら

十や百となって跳ね返って来るだろう。


ー夢の話などして、揶揄われても堪らんー


無心にならねばと

取り出したブラシでガーゴイル達の

石膏の表面を磨く。


人の如く一々気持ち良さそうに声を出したり

目を細めたりする様に

魔力で動いている忌々しい存在の癖にと

いつも嫌悪感を感じてしまう。


人の如くといえば、セイリュウも

あの男曰く、人では無いと言っていた。


彼も魔力で生命が吹き込まれた存在なのか?


きっとそれを可能としているのは

結晶の彼女の中に棲み憑く

どの世界にも必ず存在するという生命の神


「不死鳥⋯か」


あの男の方の世界の不死鳥の魔力が

セイリュウの生命の源なのか?


「不死鳥って、フェニックスの事かい?」


ーしくじったー


思わず声に出してしまった言葉を

あれ程気を付けていたのに

忌々しい存在に聞かれてしまった。


「ロロはフェニックスを

唯の御伽噺だと思うかい?」


無視してしまおうと思ったが

ガーゴイルの言葉に何やら意味深な含みを感じ

私はブラシの手を止める。


「では聞こう。

この世界にもフェニックスは

実在しているのかね?」


まともな応えなど

期待してはいなかった。


元々、此奴等は唯の石の塊だったのだから。


「あぁ!居るとも!

ロロも、よおく知っている筈さ!

大聖堂にも像が有るだろう?」


ピタリと

私の中でピースが当て嵌った気がした。


「悪いが、残りの者は次の休日に!」


矢継ぎ早にそう告げると

私は鐘楼の階段を一目散に駆け下りた。


向かった先は

忌々しいが彼奴等に教えられた大聖堂だ。


扉を開けると、休日なだけあって

祈りを捧げる人々で溢れていた。


神の前で不躾な真似はできないと

早鐘の様な動悸と呼吸を落ち着かせる様に

深く息を吸い込み

姿勢を正して丁寧に一歩一歩と

早る気持ちを抑え進む。


人混みを抜けると

荘厳な十字架の許で両手を拡げ

全てをお受止めくださる様な微笑みを浮かべて

天使に囲まれた聖女様の像が現れた。


「マリア様⋯」


私の瞳から止めどなく

大粒の涙が零れ落ちる。


ー良かった⋯ー


私がいる世界での彼女は

少なくとも幸せだったのだな。


夢で見た結晶の彼女の

悲壮な顔では無く、慈愛に満ちたお顔に

私は安堵の祈りを捧げた。


聖女がお産みになった神の子は

処刑から3日後に復活を遂げてなさる。


ーそういう事か⋯ー


不死鳥は彼女から神の子へ

継がれていたのか。


私の世界での不死鳥は

光の神のまま存在しているという事だろう。


初めてガーゴイルに感謝を感じていた。


戻ったら早々に

残りの奴等の掃除をしてやろう。


その前に

顔も洗わねばな。


ハンカチで涙を拭い

踵を返して聖女像を後にする。


「あぁ⋯神よ」


立ち去ろうとする私の耳に

祈りを捧げる一人の女性の

悲痛の呻きが聴こえた。


「どうして⋯

どうか、どうか!

貴女の御元から夫をお返しください⋯」


ぶわりと

私の背を冷たい物が駆け上がった。


速歩で大聖堂の出口へと向かおうと

歩を進める事に

過ぎ行く人々の祈りの声が耳に入ってくる。


「何故、俺だけ⋯」

「ご慈悲を、 どうか哀れな私をお救いください」

「アイツが憎い⋯神よ、どうか罰を!」


耳を塞いでも

声だけを中に綴じ込んでしまったかの如く

私に纏わりついてくる。


《⋯助けて》


逃げる様に進む私の脚が

ビクリと止まる。


「あぁ⋯やめてくれ」


ーその先は、見たくない!ー


《助けて!お兄様》


想い虚しく

堰き止められた水が激流となる様に

猛り狂った炎が私に噴き上げた。


炎の奥で小さな影が

無惨に朽ち落ちていく⋯


「やめろぉぉぉぉっ!!!」


炎の豪流に腕を延ばすも

脚は進む事を拒み

その場に崩れ落ちる事しか出来なかった。


あの時の様に

何も出来ずに見ているしか⋯


魔法が顕現した今ですら

私はあの子を救えないのか?


床を、爪が割れ剥がれる程の力で掻いた。


何度も⋯何度も。


ー罪の炎よ

どうか私も焼き払ってはくれまいかー


チリッと

指先から溢れていた血が火を産み

炎となる。


燃える腕で自身を抱きしめ

私の躯が炎に包まれていく。


「女神よ⋯」


聖女像を見上げた時

私は戦慄した。


そして

瞬時に察した。


「んふ⋯

んっふふふ!

そうか!そういう事か!

貴様も闇に呑まれていたのだな!?」


女神像は血涙を溢れさせながら

微笑みを浮かべている。


何とおぞましい光景であろうか。


そうだ。

この世界の不死鳥も

神でさえも

本当に光の存在であれば

あの子はあんな風に死ぬ事は無かったのだ!!


ーならば私は

貴様などでは無く

あの子に誓う!ー


私はやり遂げてみせる。


魔法を、魔力を根絶させ

二度とお前の様な不幸で

人々の心を悲痛に歪ませないように。


闇を光に⋯

魔を無に⋯

変えてみせよう。


「私がこの手で

皆に平和をもたらすのだ!!」


私の躯を包んでいた罪の炎は

より激しさを増した

くすぶる欲望と化して燃え上がる。


「ダーク・ファイアっっっ!!」


私の躯と共に燃え盛る錫杖を携え

地を蹴り上がると

血涙を流す聖女像へと振り挿頭す。


バリッ!

聖女像に錫杖が降り落とされようとした瞬間

景色は玻璃の様に砕け散り

その奥から

赤黒く大きく開かれた巨大な口の様なものが

視界に拡がった。


「な⋯っ!?」


宙に投げ出された私の躯は

為す術なく

大きく開かれたその口腔内に飲み込まれる。

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