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「……よし、やっと終わったぁ〜」
本社に送るメールを送信して一息つく。一日中立ち仕事をしているおかげて凝りまくった身体をぐいっと背伸びして解すと、少しだけ身体が軽くなった気がした。
社長になってからしばらく経って、ようやくこの立場に慣れてきた気がする。まだ上手くいかないこともあるけれど、周りに助けてもらいながらなんとかやっていけるようになった。
気がつけば時計の針は10を指していて、今日も遅くまで残業をしてしまったと反省する。きっと今頃家ではリンヒョンが待っているというのに、これではまた二人でいる時間が減ってしまう。
「ミラク」
「……えっ、リンヒョン?」
店を出てすぐのところでリンヒョンに声をかけられて、思わず声が裏返ってしまった。まさかこんな所で会うなんて思っていなかったから。
「なんで…」
「最近帰り遅いから心配で待ってた」
「だったら連絡くれれば良かったのに……ごめん。どれくらい待ってたんですか?」
「そんなに待ってないよ。はやく帰ろ」
そう言ってヒョンは俺の手を引っ張って歩く。
俺の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれることに、またひとつヒョンの好きなところを見つけた。
家に着くと、先にお風呂を済ませていいと言われたのでお言葉に甘えて浴室に向かう。最近寒いせいか身体が冷えてしまっていて、お湯がじんわり身体に染み渡るのを感じる。
お風呂から上がって髪を乾かしていると、ふわりと味噌のいい香りがして気づいた。
慌ててリビングに出ると既にテーブルには2人分の料理が並べつつあった。
しまった。またヒョンに晩御飯を作らせてしまった。手伝いもしていないなんて。
「ほぼ作り置きしておいたやつだからちょっと適当だけど」
「これのどこが適当なんですか………手伝えなくてごめんなさい」
「いーから。食べよ」
自分の不甲斐なさを痛感しながら席に着く。
目の前には美味しそうな料理が並んでいて、見ただけでお腹が空いてくる。
ヒョンは本当に何でも出来るし、こうして俺のこともちゃんと見てくれている。いつも家事も率先してやってくれる。
だから俺が出来ることは……と、箸を持つ手に力が篭った。
「今日の顧客メモはもう書き終わったの?」
「うん。丁度いま終わった」
お風呂から上がって同じ匂いになったヒョンがベッドに入ってくる。いつの間にか定位置になったヒョンの腕に頭を乗せ、顔をじっと見つめる。
やっぱりかっこいいなぁ……。ヒョンには自然と視線を引き付けてしまうカリスマ性がある気がする。カッコよくて、自慢の先輩であり恋人。
…ヒョンは俺のどこを好きになったんだろう。なんてことを考えていると、いつの間にか彼に頭を撫でられていたようで、急に恥ずかしくなってくる。
そしてだんだんその手つきがいやらしくなってきて、これはまずいと思いヒョンの手を引き剥がした。
「どうしたの、元気無いじゃん」
「………べつに」
「また考え込んでるでしょ。ちゃんと言わなきゃ」
「……………おれ、いつもヒョンにばっか頼ってる、帰り待たせちゃうし、ご飯もヒョンが作ってばっかで……」
そう言うとヒョンは目を見開いた。そしていつかの時のように俺の頬を掴んで引っ張った。ヒョンは強制的に笑顔になった俺の顔を見てふっと優しく微笑む。
「ミラク、なんでそんなにかわいいの」
「…は?」
「俺のことばっか考えてくれてるの、ほんと健気で可愛い」
「な……っ、」
「男なんて好きな人にはとことん頼って欲しいもんでしょ。俺、尽くしたいタイプだから」
「おれだって……尽くしたいもん」
ヒョンみたいに出来るかはわからないけれど、 それでも出来ることはしたい。俺だって。
俺の答えを聞いたヒョンは満足そうに微笑んで、そしてそのままキスをされる。
「俺はミラクに頼りまくってるけどね」
「ぇ……どこが?」
「ミラクに甘えてばっかだし、てか俺ミラクいないと無理だし」
頼られている自覚は無かったのでヒョンの言葉にピンと来なかったけど、彼がそう言うならきっとそうなのだろう。
でも、俺だって。もうヒョンがいないと生きていけない……なんて、恥ずかしくて言えないけれど。
「じゃあ俺のお願い聞いてくれる?」
「…!なんでも聞く」
「ミラクからキスして」
「ぇ、」
「ほら早く」
予想していなかった急なお願いに頭が真っ白になる。でもヒョンは優しいから俺が嫌がるような事は絶対にしないし、ちゃんと応えてあげたい。そう思って、ヒョンの唇にそっと自分の唇を重ねる。ちゅ、と意図せずリップ音が出てしまって更に恥ずかしくなる。
「…………これで、いいの?」
「ん?なに、これじゃ足りない?」
「ち、ちが、っんん……ぁ、っんぅ、ん、」
するとすぐに後頭部に手を回され、抵抗する間もなく舌を捩じ込まれる。逃げる俺の舌を捕まえては絡め取り、強く吸われて背筋がぞくぞくする。そして何度も角度を変えては口付けられ、次第に息が上がっていく。
「は……っぅん、んんっ……っは、ぁ」
やっと開放された頃には俺はもうくたくたで、ヒョンに身体を預けることしか出来なかった。
「他の人になんでも聞くなんて言っちゃダメだよ。男なんて何するかわかんないんだから」
「言わないもん。……ヒョン、だけ」
一瞬ヒョンの目が驚いたように大きくなった気がしたけど、すぐにいつもの顔に戻ってから笑った。
「ほんと、ミラクには叶わないや」
「な…に?」
「俺にはミラクがいるだけで幸せだってこと」
「そんなの、俺なにもできてない」
「何もしなくていいの。俺の傍から離れなければそれでいい。それ以上幸せなことはない」
相変わらず納得いかない答えだったけど、俺がいることでヒョンが幸せだと言ってくれるならそれでいいのかもしれない。俺も、ヒョンと出会う前はどうやって生きていたのかぼんやりと霧がかかったように思い出せない。いつの間にか俺の身体もヒョンがいなきゃダメになってしまった。
「ぁ……ひょ、ん、」
「かわいい。おれのミラク」
「んん……っぁ、や、ぅ……」
ヒョンに触れられると、頭がふわふわしてしまう。何も考えられなくなって、結局溶けてしまう。指先が、腰が、じんわり痺れていく。
「好きだよ、ミラク」
「おれも……すき」
ヒョンから与えられる熱が心地よくて、このまま溶けてひとつになれたらいいのになんて馬鹿なことを考える。そんな俺の考えを見透かしているかのように、ヒョンは微笑んで俺を優しく抱きしめた。
……これからゆっくり、尽くしていけばいい。
今はこうして抱きしめ合っているだけで満たされているのだから、それでいいのかも。いつか自分に自信を持てるように。ヒョンの自慢の恋人でいられるように。きっと、いつか。
END