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🎸さん、今作は名前だけです・・・
もう仕事は終わったという涼架を誘い、二人は海で遊んだ帰りにたまに通っていた近所の喫茶店で再会を祝した。
涼架は数日間の出張で地元に戻ってきていたのだという。
再会したときはどこか困っていたように見えた涼架も、アイスコーヒーを片手にしばらく昔話や近況に花を咲かせるうちに、明るい笑顔を見せるようになった。
大学で若井という友達ができたと伝えたときは
「元貴のこと、ちゃんとわかってくれる人に会えたんだね。あの時学校辞めずに頑張って良かったね」
と自分のことのように喜んでくれた。
だが元貴は、再会した時の涼架が気になって仕方がなかった。
「ねえ、りょうちゃん。さっき俺と会ったとき、ちょっと困ってなかった?」
「あっ・・・えっと」
涼架はまた視線をさまよわせ、下を向いてしまった。
「・・・俺と会うの、嫌だった?」
答えを聞くのが怖い。でも聞かずにはいられなかった。
「違うっ、そうじゃない!!」
今までどんな時でも穏やかで声を荒げたことのない涼架が、元貴の前で初めて大声を出した。
「じゃあ、どうして?」
そのことに驚きながらも、元貴は問いかけた。
無言の数十秒が過ぎ、涼架がやっと顔を上げて元貴を見つめた。
「大学に入って、卒業して働き始めていろんな人に出会った。でも、なかなか自分をありのままに見せられるような人がいなくて。元貴の隣にいるときが一番、自分らしくいられたんだってわかったんだよね」
涼架の言葉に、あの頃涼架に抱いていた気持ちがよみがえり、元貴は胸が熱くなった。
「一度会うともうダメになっちゃうって、会って話をしたら帰りたくなくなっちゃうと思ったから、だから・・・」
もしかして、彼も少しは自分と同じ想いを抱いてくれているのだろうか。
「俺はね、りょうちゃんがいなくなって、改めてりょうちゃんの存在の大きさに気づいた。親友と呼べる相手はできたけど、りょうちゃんと過ごした日々のこと、ずっと忘れたことはないよ」
涼架の顔を見つめ、元貴は勇気を出して言葉を紡いだ。
「りょうちゃん。あの、俺・・・」
口を開こうとした瞬間、喉がひりついて声が出ない。震える手をアイスコーヒーのグラスに伸ばし、冷たさに縋るように握りしめた。
涼架は黙って元貴を見つめている。
その優しい眼差しが、余計に元貴の心をかき乱した。
「俺…その、言わなきゃって思ってたことがあるんだ」
元貴の震える声に、涼架はゆっくりと頷いた。その静かな仕草が、元貴の背中をそっと押してくれた。
「ずっと…ただの幼馴染って思えなくて。あの夏の祭りの日から、いや違うな。きっともっと前から・・・優しくてちょっとドジで天然で。いつも自分のことより人のことに真剣になれる。そんなりょうちゃんの全部が好きだって、その気持ちを認めるのが怖くて逃げてたんだ」
「俺、りょうちゃんのこと…好きなんだ。」
元貴の言葉に、一瞬の沈黙が重く漂った。
時間が止まったかのように、二人の間にはただ、喫茶店のBGMと、元貴の心臓の激しい鼓動だけが響いている。
元貴は目を閉じて、涼架に拒絶される瞬間を覚悟した。
だが、聞こえてきたのは、予想外に穏やかで優しい声だった。
「…ありがとう、元貴。その気持ち、すごく嬉しい」
元貴は恐る恐る目を開けた。
涼架は涙を浮かべながらも、まるで太陽のような向日葵のような、あの頃と変わらない屈託のない笑顔を浮かべていた。
その言葉に元貴は、胸の中が少しだけ軽くなるのを感じた。
「僕もずっと考えてたんだ」
涼架はそう言って、元貴の手をそっと包み込むように握った。
「上京して元貴と会えなくなって、なかなか連絡もできなかったでしょ?元貴に会いたい、声が聞きたいって思ってた。自分で望んで上京したのに、ずっと苦しかった。さっき若井くんと親友になれたって聞いたときも、本当は素直に喜べなかったんだ。離れて初めて、元貴のことが好きだって気が付いたんだよ」
涼架の言葉に、元貴の目の奥が熱くなる。
込み上げてくる感情を抑えきれず、元貴は涼架の手を強く握り返した。
「もう二度と…離れたくない」
「僕も離れたくない。元貴とずっといっしょにいたい」
涼架は微笑みながらそう告げ、元貴の言葉を静かに受け入れた。
数年の時を経て、お互いを想う気持ちをようやく打ち明けた二人は、ゆっくりと新しい未来へと歩み始めた。
二人が再び出会ってから、季節は二度巡った。
涼架は東京での仕事を辞めて地元に戻り、幼少から高校卒業まで習っていたピアノの腕を活かして、ピアノ教室を始めた。
最初は出張を理由に元貴と会っていたが、本当はただ、この街に、そして元貴のそばにいたかったのだ。
東京でそれなりに成功はしたけれど、心の中はいつも空っぽだった。元貴と過ごした日々だけが、彼の心を埋める唯一の光だった。
涼架が地元に戻ってきてから、二人は毎日のように顔を合わせた。
仕事が終われば一緒にご飯を食べ、休みの日はまるで高校生の頃に戻ったかのように、自転車を漕いであの入り江へ向かった。
ある日、夏の夕暮れ時、二人は入り江の岩場に座っていた。遠くに水平線に沈みゆく太陽が、海面をオレンジとピンクに染めている。
「ねえ覚えてる?高校最後の夏、ここで夏が終わったらどうなるのかなって、元貴に聞いたこと」
涼架が、静かに言った。
元貴は黙って頷く。あの日の涼架の少し寂しそうな横顔が、今も鮮明に心に残っている。
「あれから、もうずいぶん経ったね」
「うん、そうだね」
「僕は元貴と再会できて、こうやってずっと一緒にいられるようになって、本当に幸せだよ」
涼架の言葉に、元貴は目を細めた。あの頃はわからなかった。離ればなれになることが、あんなにも辛く、そして再び出会えたことがこんなにも奇跡的なことだなんて。
「俺もだよ」
元貴は、そう言って涼架の手をそっと握った。涼架は驚いたように元貴を見たが、すぐに穏やかな笑顔で握り返した。
太陽が完全に沈み、夜の帳が降りる。空には満月が輝き、海面には月の光の道ができていた。
二人は、新しい季節を共に歩み始めた。もう、離れることはない。
二人の未来は、あの日の夕焼け空のようにどこまでも広く、そして優しい色に染まっていた。
夏が絡むストーリーなので何とか8月中に終わらせたかった。
もっと心理描写とかしっかり書けたら良かったんですけど、私の力量ではこれが精いっぱいでした💦
🍏さんの夏の代表曲をモチーフにと思ったのに、どうしてこんなお話になったのか自分でも謎です。
右も左もわからないまま書いたので、めちゃくちゃな文章でごめんなさい。
読んでくださった方、評価をくださった方とてもうれしかったです。
ありがとうございました。