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カヨコだぁ…最後の抱きつくシーンが想像出来るんじゃ~ マコトはマコトハだった
「──出ない…。」
やけに静けさを感じる、便利屋の事務所。照明の明かりが、少し寂しげな背中を照らす。
「……カヨコ課長もやっぱり不安なのね。」
「あ、社長。」
始まりは突然だった。数日前、先生が連絡も無しに失踪した。キヴォトス中が大騒ぎになっていて、連邦生徒会も取り上げていた。
「……社長も不安じゃないの、信頼してる先生が失踪したんだから。」
「わ、私は大丈夫よ。」
社長は慌てて答える。しかしその中で、臆病で素早く動く色の薄い瞳がちらついて来る。
「……ごめん社長、ちょっと遅いけど買い物に行ってくる。」
少し薄暗い街、風が爽やかで心地良い。黎明はまだ遠く、鶏は鳴く時でない。
「……あれさえ買えばすればいいかな。」
事務的な、はたまた気分転換ともいえる行動。冷えつつもどこか暖かい風は髪をなびかせる。
商店街には、いつも通りの賑わいと、どこか感じられる静けさがある。少し重い足取りを感じながら、私は進んだ。
「あー…いらっしゃいませ…」
少し表情の硬い店員が、店に迎え入れる。初対面では見慣れた光景。店員は気まずそうな、怯えているような、どうとも表現し難い様子を浮かべていた。
別によくあることだ。が、慣れはまだ知らない。
「ありがとうございました〜……」
買い物を終え、私は街道へ出る。さっきまでは目立たなかった寒気に、白い息を漏らす。
「あ、すみません。ちょっといいですか?……」
「………。」
自然と私は警戒を強める。見覚えのある顔、あの夜の日の警察。態度の違う、きっと疲れているのだろうか。
「──だから、こんな時間に何してたのか聞いてるんですよ!」
「だから何もしてないって……」
素っ気なく、往生際が悪い会話は長く続く。どれほどの時間が経ったか数えてはいない。
「皆口を揃ってそう言うんですよ!言えばすぐ終わるんですから!」
警察は声に荒さが増えている。反面、私も警察も顔には疲れが浮かんでいることは見なくても分かる。いつかどこかが破裂してしまいそうな感情の中、微かに足音が聞こえてきた。
“あの、すみません……”
割り込むように、それでも聞き慣れた声が聞こえる。よく聞き慣れた、それでも飽きることも無いような声。
「ああ、シャーレの……、まあいいですよ。今度こそは怪しい行動はしないでくださいね……」
諦めて帰っていく警察を無視し、先生の方を見る。いつも通りの、変わり無い先生。
“ちょっ…カヨコ!?……”
先生を押し倒し、私は先生に抱きついていた。感情は風に流されるちぎれ雲のような、それか肩の荷が下りたような。
表現の仕方が分からなくて、それでいて清々しかった。
“……カヨコ、起き上がって。”
「…………。」
私は先生の胸に顔を埋めていた。熱を帯びる頬を隠すように、腕の力を強めていた。紙一枚の隙もなく直に触れる先生の身体は、私の涙腺を刺激する。
「……先生。」
私は、顔を上げた。涙が絶妙に出かかって、顔は赤くなっていた。
「……いや、やっぱなんでもない。」
“……カヨコ?”
顔の筋肉が少し上がり、先生もそこと無く微笑んでいるような気もした。私は立ち上がって、ふと空を見た。静かな、それでいて綺麗な夜空の神秘が、私の目に赤色に映る。
“……とりあえず、戻ろっか。”
「──そうだね。」
「あぁああぁッ──!!イロハ──!!!」
夜中でさえ騒がしいゲヘナ学園、爆発音が響き渡っていた。煙の中からは、無傷の風紀委員長が出てきていた。
「だから無茶だって言ったんですよ!?先生を攫って風紀委員を脅すなんて……」
見渡す限り、煙が立ち上る地獄絵図。紫色の角に月が反射し、重圧感さえも感じられる足音が響いていた。
「……先生を攫ったんだよね。場所は……?」
「……キキキッ……逃げられたというか……その……なんだな……」
額に、マシンガンの銃口が触れる。マコトに冷や汗が流れ、手には焦りが見える。
「…………。」
ヒナがその銃から発射するまで、数秒ほどしか時間はかからなかった。