目を覚ましたら、そこは教会のような場所で、私自身は教壇の前に立っていた。
教会の席には、年齢層もバラバラに沢山の人々がいて、私の顔をしっかりと見つめていた。
(何これ…、宗教?)
すると、私の口は滑らかに喋り出した。
「皆さん。本日は、お集まり頂いて幸いでございます。今、ここにいる方々は誰しもが生活に困り、
社会に苦しんでいる方々だと思われます。…ですが、もう大丈夫です。神は、明けても暮れても皆さんのことを
見ておられます。どれだけ理不尽で辛いことがあろうと、必死に生きようと奮起する皆さんの努力を、神々が見ていないわけ
がありません。神は、我々人間に様々な試練を与え、成長させようとしておられるのです。
私たちは、今こそ手を取り合って協力すべきです」
どうやら私は、宗教の教祖として転生したらしい。
私から見れば噓くさい話だが、席に座っている人々は目を潤ませて頭を下げた。
「おぉ…。今まで苦しい生活をしてきたが、それは全て神様の試練だったのか…」
「こんな私たちのことでも、ちゃんと神様は見て下さっているんだねぇ…」
私の口は、更に訴えかけた。
「皆さん。神を信じて前に進めば、きっと希望の光が見えてきます。
その第一歩として、私たちは、皆さんのために無償で物資を提供致します」
その瞬間、教会の中が歓喜の声で埋め尽くされた。
「皆さんが救われるのならば、私は何でもしたい。それが神の望みならば、神の意思ならば」
私は両手を握りしめて祈るように言った。
なかなかいい人生じゃないか?
誰からも尊敬されて、慕われる。
救世主と、もてはやされているが、今回の転生した人間は純粋なのだろう。
調子に乗ることなんてせず、自身の役割だという物資の提供を行った。
すると、突然
「すみません」
と声をかけられた。
「はい、何でしょう」
私は振り向こうとした。
その瞬間。
ドスッ
鈍い、音がした。
お腹が燃えるように熱くなって、私は倒れ込んだ。
見れば、槍が私の腹に深く刺さっている。
教会内に悲鳴が響き渡った。
刺したであろう犯人は、他の人たちに抑えられていたが、睨み付けるように私を見ていた。
「…この…ッ、偽善者が!」
犯人は心の底から憎しみを露わにして叫んだ。
視界がぼやけていく。
転生した人間は、とても優しい救世主だった。
人が幸せになれるように、無償の愛を分け与えた。
しかし、悪に騙され殺されてしまった。
こんなの、私が求めていた転生人生じゃない。
私は転がっていた転生林檎を手に取った。
(転生しよう)
私は林檎を齧った。
体に電流が走った。
コメント
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