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お母さんとばっちゃんからのメッセージを受け取った私達は、直ぐに帰還することにした。正直交流も中途半端な感じがするけど、次回に楽しめば問題はない筈。
もちろんジョンさんにお別れのメッセージを送るのも忘れない。
どんな用件か分からないから、次に地球へやって来る時期は未定と知らせた。考えてみたら、分からないのは始めてかもしれない。
ISSの宇宙飛行士の皆さんにもライトを点滅させて挨拶し、そのままプラネット号で太陽系を離脱。ゲートへ進入した。これから一週間は極彩色の空間だ。
「荷物の整理と、調査レポートを纏めないとね。アリア、フェル。時間はあるから焦らずゆっくりとやろう」
『畏まりました、ティナ』
「はい!」
今回はタンカー1隻分と言うとんでもない量になっちゃったけど、それでもアード全体を見れば少なすぎる。地球より人口が少ないと言っても億単位は居るからね。
食べ物の取り扱いについてはばっちゃんに任せるつもりだ。
そして今回は地球各国の有名な調味料や料理の缶詰も用意して貰った。前回は合衆国産のものが中心だったけど、レパートリーは豊富な方がいい筈。そして個人的な欲求もありまして……。
「あー……暖まるぅ……」
「不思議な味のスープですね」
私達が飲んでいるのは日本人の魂、味噌汁だ。要は粉末のインスタント味噌汁なんだけど、前世でもお世話になった味は健在だ。味噌の種類で味が変わるけど、日本人なら黙って味噌汁を吸うべし。
歓迎会とかでは色んな料理が用意されたけど、流石に味噌汁は無かったんだよねぇ。
「味噌汁、味噌スープだよ。優しい味付けで美味しいでしょ?フェル」
「はい」
フェルも笑顔で味わってくれてるみたいだし、気に入って貰えたようだ。
このインスタント味噌汁を始めとして、日本の缶詰やインスタント食品もたくさん用意して貰った。もちろんフランスの缶詰やらもたくさんあるけど、生憎前世では縁がなかったからなぁ。いや、美味しいけどやっぱり日本食を贔屓にしてしまいそうだ。
よし。
「ちょっとキッチンを使うから、待ってて」
「……?」
フェルが首を傾げてる。可愛い。いや、そうじゃなくて。せっかく手に入ったんだから前世以来の和食を食べよう。
先ずはお米。保存方法に気を付ければすんごく長持ちする日本人の魂(二個目)。今回は調理が簡単な非常食用のご飯だ。お湯を入れると化学反応で炊き上がるタイプのもので、前世でも食べたことはあるけど中々美味しかった。
あれから数十年。どんな進化を遂げたか楽しみだ。
お味噌汁はインスタントがあるからいいとして、やっぱり魚と漬け物も要る。
あっ、でも漬け物はフェルの口に合うか分からないから今回は泣く泣くお見送り。
代わりに保存食としてアジの干物と鰹節、醤油を用意。
取り敢えずご飯、味噌汁、アジの干物、鰹節だ。漬け物や豆腐もほしいけど、今回は我慢。さあ召し上がれ。
「優しい味付けですね」
「さっぱりしてるのが良いよね」
「はい。このお米?と言う穀物も美味しいです!」
「分かってるねぇ、フェル」
お米は日本食に必要不可欠だ。今回は簡単なものしか用意できなかったけど、日本へ行く機会があれば本場の味をフェルに楽しんで貰いたいかな。
そんな感じで七日間は今回手に入れた食材を使った料理の研究で時間が過ぎ去っていった。生鮮食品は無かったから缶詰なんかの保存食品を使った。
新鮮な食材に比べたら味は劣るけど、まあ調味料もたくさん手に入ったんだ。
それに、前世の記憶がある私以外のアード人やリーフ人の大半は無味無臭の栄養スティックが主食だからね。どんな味だろうと喜んでくれると思う。
七日後、無事にアード星系へたどり着いて本星の軌道上にある浮きドックへ入港。特に問題もなく軌道エレベーターを使って故郷へ帰還した。
「開発局へ報告へ行くから、フェルは先に帰ってて」
宇宙開発局の側には移民管理局があるし、リーフ人も出入りするからフェルを近付けたくない。
「わかりました。では、また後で」
「うん、後でね」
フェルと別れてザッカル局長に今回の成果を纏めたレポートを提出した。
「ふむ、交流は順調のようだな。それに、観光資源の開拓か」
「交流が本格化したら、アード人が好みそうな場所もたくさんありますから」
「ふっ、気の早いことだ。レポートには目を通しておく」
「お願いします。あっ、これお土産です」
トランクから幾つかの缶詰を局長へ差し出した。賄賂?ソンナモノジャナイヨ?
「なんだ、賄賂か?」
「まさか、いつも局長にはお世話になっていますから」
「受け取っておこう。今後も交流を続けるつもりなのだろう?全面的なバックアップは難しいが、出来る限りの事はしよう」
「ありがとうございます」
少しずつ賛同者を増やしていかないと。それに、私達だけじゃ地球側も不安だろうし、誰かを連れていきたい。取り敢えずお母さんに相談してみよう。
「ただいまー」
「おや、お帰りなさい。地球はどうだったかな?」
家に帰宅すると、珍しくお父さんがリビングで寛いでいた。魔法省の職員であり高名な魔法使いでもあるお父さんは多忙だ。基本的にアード中を飛び回っているから、家に帰ってくることは滅多にない。
まあ、それでもお母さんや私に対して定期的にメッセージを送ってくれるマメな性格をしてるけど。
「楽しかったよ。お父さんが家に居るなんて珍しいね?」
「ちょっとした休暇を……いや、いい加減休めと言われてしまってね」
「お父さんは働きすぎだよ。たまには休まないと体を壊すよ?」
お父さんは優しくて生真面目な人だ。前世の社会では間違いなく損をするタイプかな。
「はははっ、耳が痛いな。そのトランクはお土産かな?」
「こっちはばっちゃんに渡す分だよ。お父さん達へのお土産はこっちにあるから」
ポーチを指しながら私も椅子に座った。ちょっと休んでばっちゃんの所へ……あっ、そうだ。
「お母さんは?それにフェルも居ないし」
「ティアンナなら、さっきフェルちゃんを連れて出ていったよ。里の集会所で待っていると言ってたかな」
「集会所で?」
「里長も居て、大切な話があるそうだよ」
「ばっちゃんも居るの?」
何だろう、気になるな。呼び戻したのはお母さんとばっちゃんだし。
いや、考えても仕方ないか。取り敢えずお土産を置いて集会所へ行こう。