神隠し事件の時、傑が取り込んでいた呪霊は、最近、祓われてしまった。傑は、死刑対象の呪詛師等に、呪霊の術式を施していた。呪詛師が死刑になった後、仲間の呪詛師や雇い主に気づかれない上、此の術式は、記憶を読み取る事が出来る。だから、雇い主や、未だ、他者に呪いをかけ続けている、知り合いの呪詛師等も辿れる。中々便利な術式だったのだが、最近、呪詛師に祓われてしまったのだ。そもそもが、其処まで強い呪霊では無かったので、仕方が無い。
だが、呪霊が祓われるまで気が付かなかったが、まさか、其の呪霊の術式が、自らに掛かっているとは思わなかった。
(硝子)「夏油。」
(傑)「…硝子……。」
(硝子)「元気ないじゃん。」
「如何した?」
(傑)「…悟……の事なんだけど…。」
「硝子は……。」
(硝子)「嗚呼、五条の事か。」
(傑)「ッお、思い出したのかい?!」
(硝子)「うん。」
(傑)「………。」
「…ずっと感じていた喪失感の正体が分かったよ。」
(硝子)「嗚呼、私もだ。」
「五条の事で、私がずっとモヤモヤしてたのは、なんか癪だな。」
(傑)「………。」
「…悟、私と関わりたく無くて、私達から記憶を消したんだってさ。」
「悟に対して、嫌な態度を取ってしまっていたし…。」
「…でも、まさか、彼処まで拒絶されるとは思ってなかったんだけどね。」
(硝子)「………。」
(傑)「悟に嫌われた理由には、心当たりがあるんだ。」
(硝子)「違うだろ。」
(傑)「え。」
(硝子)「夏油と関わりたく無いからって理由じゃ無いと思う。」
「まぁ、少なくとも、私は違うと思うよ。」
「夏油だって分かってるだろ?何時も五条と一緒に居たんだから。」
「五条は、敢えて突き放す様な事を言って、自分から嫌われようとする時がある。」
「本心とは、真逆の事を言う時がある。」
(傑)「………。」
(硝子)「アイツ、そう言う所だけは気遣うからな。」
「大丈夫じゃない癖に、大丈夫って言ったりさ。」
(傑)「………。」
(硝子)「分かってるだろ。五条の事は、お前が一番。」
(傑)「…でも、本心かも知れない。」
「本当に悟は、私の事が嫌いなのかも知れない。」
(硝子)「はぁ……。」
「…夏油さぁ。」
「何で五条の事になるとそうなるの?」
「普段から、もうちょっとそんな感じなら良いのにさ。」
(傑)「………。」
(硝子)「アイツが、お前の事嫌いな訳が無いだろ。」
(傑)「何でそう言い切れるんだい?」
(硝子)「勘。」
(傑)「えぇ……。」
(硝子)「記憶を無くしてた期間があったとは言え、何年お前らと一緒に過ごしてきたと思ってんの?」
「まぁ、本当のとこは、五条本人に聞かないと分からないけどさ。」
(傑)「…嗚呼……。」
(硝子)「夏油なら大丈夫でしょ。」
(傑)「…え……。」
(硝子)「五条が一番信頼してて、気を許してるのは夏油だよ。」
「はぁ……。」
感情任せになって、傑に対して怒鳴ってしまった事が、ぐるぐると、五条の頭の中を支配していた。自室に戻り、一人になった途端に、余計に、罪悪感が五条に重く伸し掛かった。謝ろうにも謝れない。だが、此れで、傑から関わってくる事も、きっと、もう無いだろう。
そう、五条は思った。
そうだ、自分の望み通りになったのだ。なのに、安堵感よりも、罪悪感と孤独感を感じてしまうのは、我が儘という物だろう。
「…ごめん……。」
五条は、自分の両腕の中へ顔を埋めた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!