カチャリ
「ねぇ、スイ。お母様達はまだ、ヘニベチルダから帰ってこないの?」
「お嬢様。ご両親が2年も帰って来ていないのが、心配なのは分かりますが、そう毎日聞かれますと、私(わたくし)の気も滅入ります。」
「あら、給料減らして欲しいなら、素直に言ってよね。」
「やめてくださいッ‼」
「これ以上減らされると、私の首が飛ぶのも時間の問題なんですよッ‼!」
「まぁ今日は紅茶が美味しく淹れれているから、無しにしてあげるわ。」
お嬢様のその言葉に、私はそっと胸を撫で下ろす。
「スイ、もう下がって良いわ。」
「分かりました。給料を減らす以外でしたら、また後ほどお呼びください。」
一切の汚れの無い廊下を、私はコツコツと音を鳴らせて、進んだ。
︙
リニー様のご両親が海外へ出張に向かわれたのは、今から2年前の冬だった。
何でも、リニー様のご両親はこの国のトップとまでは言わずとも、一二を争うほどの権力を持った企業の社長と秘書だ。
そんな企業もこの国、ラスエクタだけでは、まだ足り無いとのお考えになられたのでしょうか。
16歳になったリニーお嬢様は、アカデミーを卒業しなければならなかった為、専属執事とその他大勢の使用人と共に、ラスエクタに残されることになった。
そして、リニーお嬢様の専属執事として働いている私、スイ・クレイトンはお嬢様が14歳になる頃に、歳が近いということで専属執事として迎えられた。
単刀直入に言うと私は、リニーお嬢様に恋情を抱いている。しかしそれは、叶うことはなく、叶ってはいけないものだった。
冷静に考えれば分かる話だ。
いわば、使用人と名家のお嬢様との恋愛。許されるはずはない。でも、私はお嬢様の側で一生を捧げ、仕えていきたい。
しかしながら、一言だけお嬢様に言いたいことがあります。
「鈍感過ぎでしょ…。」
いやまぁ、分かる。名家のお嬢様が恋愛に疎いのは。でも限度ってあるじゃ無いですか!
どこまで箱入りだったんだと、問いただしたくなる程には、お嬢様は鈍感で、私の渾身とも言えるようなアプローチにも、全くを持って照れないどころか、気付いてすらいない素振りだった。
お嬢様が何時か、恋情というモノを知り、理解するときが来たのなら、きっとそれは天変地異が起こる前兆なのでしょうね。
そんなふうに思考を巡らせ、頬を緩ませていると、お嬢様の
「スイー!!」
という、私を呼ぶ声が聞こえた。
急いで向かって到着すると、
「ねぇ、遅くないかしら?」
と言われてしまった。
「お嬢様の部屋にある、無駄に多い装飾品の埃を払っていたのでお許しを。」
「スイ。」
なんだ? と疑問に思いながらも、呼ばれたのでお嬢様の側まで行く。
ピッッ
でこぴんを食らった。
「あの装飾品、貴方が昔私にくれたものも、入っているわよ?」
「え、お嬢様そんな昔のものを、まだ持ってたんですか?」
「古いでしょうし、もう処分しますね。」
「嫌よ。だってアレは貴方が私にくれたものでしょ?私は例え使用人だろうと、人から貰ったものは、置いておく主義なのよ。」
もう、この人は、そうやって私を喜ばせる。
「ありがとうございます。」
そう言って私が微笑むと、お嬢様は少し顔を背けてしまった。
「ねぇスイ。明日ってスケジュールの予定は何も無いわよね?」
「はい、ありませんよ。」
「なら、一緒にあの花畑に行きましょう。」
「分かりました。車の手配を進めておきますね。」
「あ! 後は、籠を持っていきましょう。」
「お母様達が帰ってきたときに、摘んだ花を見れば、きっと喜んでくれるでしょうし!」
「分かりました。ではもう下がって、明日の用意を進めさせて頂きます。」
朝日の柔らかな光と、春を告げる鳥達の鳴き声で私は目が覚めた。
シワの一つも無かったベッドから降りて侍女を呼んだ。
「ねぇ、今日は花摘みに行くから、動きやすいワンピースにしてもいいかしら?」
「勿論で御座います。お嬢様。」
そう言って侍女の、リアは黙々と数多くのワンピースを持って来て、私に選ぶよう促してきた。
「飾りにブローチが付いているものは無いかしら?」
「でしたら、此方は如何でしょうか?」
「良いわね、これ。」
「じゃあこれにするわ。」
リアにそう告げると、瞬く間に着替えが終わっていた。
「それじゃあ行ってくるわね。ありがとうリア。」
「言ってらっしゃいませ。」
花が綻ぶような笑顔で、リアはそう言った
春になったからか、使用人の笑顔が増えた気がする。
長い廊下を歩き終え、屋敷の外まで行くと、スイと屋敷に使えている運転手が、私を待っていた。
「おはようございます。お嬢様」
スイはリアと同じ様な、花が綻ぶような笑みで私にそう告げた。
少し胸が高鳴ったのは、不整脈なのかも知れない。
スイが車の扉を、ガチャリと開けて私を座らせる。もう目的地を知らされているのか、スイが助手席に座ると、運転手は
「発車いたしますね。」
と言って、車を走らせた。
少し車に揺らされていると、運転手の到着した。という声で、ポヤポヤとしていた意識から目を覚ます。
降りる時も、スイが扉を開けてくれた。
「ありがとうね。」
「とんでもありません。」
と、またもや微笑まれた。
徒歩で小道を歩いて行くと、大きなサクラの木が花弁を散らばせていた。
此処には、昔に東の国から来た者がサクラという木の苗木を、植えたそうだ。
なんでも、この国の少女に恋をした、東の国の少年は、少女が少年の語る話の中で、最も好んでいたサクラの花を一目見たい。と、言っていたからだからだそうだ。
しかし、少女は脚が悪く、長距離の移動は困難を極めた。
そのため、少年は一時的にラスエクタから離れ、東の国からサクラの苗木を持って帰ってきた。
そうして成長したサクラの木が、今私達が見ている大木だ。
「綺麗ねぇ…。」
「そうですね。お嬢様の今日の御召し物と色合いがとても良いですね。」
「あら?スイ、貴方の頭に花弁が付いているわよ?」
「えッ!?すみません。何処か教えて頂いても宜しいでしょうか?」
そう言ってスイは、頭を私の方へ向けた。
「ほら、此処よ。」
私はさっと、花弁を摘む。
「貴方への、プレゼントよ。」
「ならお嬢様の頭についている、この花弁は、私からのお嬢様への、贈り物としますね。」
「贈り物とされると、何時までも捨てれないじゃない。」
「これで私が職を無くしても養ってくださいね!」
そんなスイの、冗談めかした戯言にも何故か、何時もなら、一定のリズムを刻んでいる筈の、心臓が暴れ出していた。
やはり不整脈なのかもしれないわね。
私はそう思った。
「じゃあスイ、彼処のクロッカスを摘みに行きましょう。」
「きっとお母様達が喜んでくれるわ!」
「分かりました。籠はお持ちしますね。」
「ねぇスイ。クロッカスの花言葉って知っているかしら?」
「確か、貴方を待っています。でしたっけ?」
「大丈夫です。きっと奥様方は喜んで下さいますよ。」
私の心を読んだのかと思うような、スイの励ましの言葉に思わず笑みが溢れる。
「えぇ。ありがとう。」
そう言って私は、スイに微笑んでやった。
私ばっかりが不整脈なのは腹が立つから、スイも同じ目に合えばいい。という少しの悪意も込めて。
すると、余りにも私の笑顔が酷かったのか、スイは顔をそらしてしまった。
そんなに酷かったのかな……?
「お嬢様。もうお昼時なので屋敷に戻りましょう。」
「えぇ、もうかなりの量も摘めたしね。」
私達は立ち上がり、運転手が待機している場所まで歩いて行った。
一話目のお話はここまでとなっております!
今回、初めての作品が共同作品と言う事でとても緊張しております…。
私、句読点を打つのが絶望的に下手くそで、申し訳無い……。
余談ですが、スイ君の名前は『スイ・クレイトン』で、お嬢様は『リニー・シトリン』となっております。
リニーちゃんやスイ君は、私と共同でこの作品を作ってくれる、さらちゃんとの雑談の中で産まれた子です。
なのでオリジナルキャラとなっています。
そしてリニーちゃんが14歳のときにスイ君は専属執事となりました!
スイ君のほうが、リニーちゃんよりも一つ年上というところが私のお気に入りポイントです。
では、そろそろ雑談も締めたいと思います。
閲覧ありがとうございました。
(次話はさらちゃんです。)
コメント
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2話目はsaraちゃんの方にてあがっております😌