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――鈴木陽翔の視点――
「……俺、美咲が好きなんだ」
それを最初に自覚したのは、高1の秋だった。
美咲の笑顔は、ずっと太陽みたいだった。
誰にでも明るくて、どんなときでもポジティブで。
落ち込んでるやつにも自然と声をかけるし、空気が沈んだら、明るく盛り上げてくれる。
それは、俺の親友――拓海に対してもそうだった。
むしろ、彼女の一番自然な笑顔は、いつも拓海の隣にあった気がする。
俺は知ってた。
拓海が美咲を、特別に想ってること。
でも、あいつは絶対に言わなかった。
美咲のことを「幼馴染」としか呼ばなかったし、「好き」とも一度も言わなかった。
だから、俺はあいつの気持ちを――確信が持てなかった。
そして、ある日。
勇気を出して、美咲に気持ちを伝えた。
「俺、美咲のこと、好き。付き合ってほしい」
美咲は、一瞬驚いた顔をしたあと、笑って言った。
「ありがとう。……陽翔くんのこと、ちゃんと考えさせて?」
それから数日後。
彼女から「お願いします」と返事がきた。
俺は、うれしかった。
本当にうれしかった。
初めて、心から誰かを好きになって、それが叶ったから。
でも、その裏で――
拓海が、どんな顔をしてたのかを、俺は見てしまった。
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「……拓海、ごめん。俺、美咲と付き合ってるって話、ちゃんとしたかった」
夕暮れのグラウンド。
俺は真正面からあいつに伝えた。
拓海は、笑った。
驚いたふりをして、軽く肩を叩いて、
「まじか。おめでとー」
って、軽い声で言った。
でもその目は、どこか遠くを見ていた。
あいつがあんな顔をしたの、俺は初めて見た。
「なあ、陽翔。お前、本気で美咲のこと……好きか?」
「……ああ。マジで、好きだよ」
その瞬間、拓海は静かにうなずいた。
それ以上、何も言わなかった。
俺は――
あいつに恋人を奪ったんじゃないかって、自分を責めた。
でも、後戻りはできなかった。
俺は、本気だったから。
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優菜のことも、知ってた。
視線に気づくのは、俺の得意分野だ。
優菜はいつも俺を見てた。気づかれないようにしてたけど、わかってた。
でも、俺は優菜の気持ちに答えることができなかった。
「陽翔くんって、優しすぎるよね」
そう言われたとき、俺は笑った。
「俺、たぶん、そんな優しくないよ」
だって俺は、親友の“好き”を知ってて、自分の“好き”を通したから。
恋と友情。
どっちも大切で、どっちも本気だった。
だからこそ、俺は今、罪悪感と愛情の狭間にいる。
拓海の前では、どこかで“申し訳なさ”が顔を出す。
でも、美咲の前では、絶対に幸せにしようと思う。
だって、俺が彼女を選んだから。
嘘じゃなく、全部本気だから。
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そして最近、拓海の様子が変わってきた。
少しずつ、だけど確かに――
あいつが“前に進もうとしている”のが、伝わってくる。
この前、珍しく俺に相談してきた。
「杏奈って、どんな子か知ってる?」
俺は、正直ちょっと驚いた。
だって、あいつが“誰か”に興味を持ってるのが、嬉しかったから。
もしかしたら、俺たちの時間は、少しずつだけど――ちゃんと前に進んでるのかもしれない。
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俺が守りたいのは、ただひとつ。
美咲を、ちゃんと笑顔にすること。
それと同時に、
親友・拓海の“これから”を、心から応援できるようになること。
恋と友情の間で、まだ答えは出せていない。
でも、どちらも――俺の「大切な人」だから。