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10周年を記念して、私なりに魔王という人間を解釈したお祝い文です。激重魔王の起源? みたいな。
(お祝いっぽくないですが、私としては最高の賛辞のつもり)
生きている価値を、ずっと考えているのだと思う。
生まれてきた意味を、ずっと求めているのだと思う。
深淵の闇に葬られた光を、ずっと探しているのだと思う。
光の当たらない場所に目を凝らして、踏み躙られてしまうささやかなものをこそ護りたいと、烏滸がましいほどの大義を掲げている、とんだ偽善で欺瞞で自己満足な人生を送っている。
人間が誰しも一度は考えるであろう疑問に縛られて、自分で自分の首を絞め続ける自殺行為を何度となく繰り返してきた。悲嘆し枯渇し嘲笑し渇望して、満たされない欲に潰されて死にたくなるのだ。世界を呪って自分を祟って、人を憎んで世間を恨んで、それでもどうしようもなく焦がれて止まない愛に手を伸ばす。
そうやって生きてきたし、そうやって生きていくのだろうし、そうやって生きていくしかないのだろう。
そうやって生きていく術しか俺は持っていない。
大切なものを失くし、愛するものを亡くし、それでも続いていく日々に絶望しているくせに、どこかで希望を信じて、信じただけ裏切られて、憎んで、恨んで、だけど心底愛おしく思って。
俺という存在があろうがなかろうが変わらずに回り続ける、回り続けるしかない、無情で、非情で、不条理で、不公平で、だけどどこまでも平等な世界。
俺たちは今日もその世界で息をしていかなければならない。死ぬ理由がないから生きていくしかない。どれだけ苦しくても辛くても悲しくても、世界は止まることなく動き続ける。
生きていくしかないのなら、せめて楽に呼吸ができるようにしたかった。俺にとっての処方薬は音楽だった。
音楽だけが俺を自由にして、音楽だけが俺を慰めてくれた。音楽が俺に生きる意味と価値を与えてくれた。
その音楽を通して、俺は得難い人を手に入れた。
誰にも分かってもらえなくてもいいと思っているのに、あなたに見つけて欲しいと願う。
誰にも見つかりたくないと思っているのに、あなたに知っていて欲しいと歌う。
誰にも気づいて欲しくないと思っているのに、あなたに傍にいて欲しいと手を伸ばした。
矛盾だらけのチグハグな感情に溺れてこのまま消えてしまえたのなら、その方がずっと楽なのに、俺が消えるときはあなたに傍にいて欲しいなんて、浅ましくも望んでしまう。
全てを投げ捨てて、放り出して、逃げ出したくなって、できもしない欲望を飲み下して自嘲する。
全ての肩書きをなくした俺に、何の価値がある? 何の意味がある? ただの人に成り下がった俺を、誰が求めてくれると言うのだろう。無価値で無意味なものに、人は興味の一欠片も示さない。いつだって人は功利に支配されているのだから、得がなければさっさと切り捨てるだろう。時間と共に風化して、俺という存在なんて初めから存在しなかったかのように扱われるだろう。
だから俺は書くしかなかった。歌うしかなかった。それしか方法がなかった。
俺が俺であるために、俺であることを証明するために、俺という存在を世界に遺すために。
それと同時に、あなたという存在を俺という存在と共にあったと世界に示すために。あなたという存在が俺が生きた世界に確かに息づいていたと認めさせるために。俺とあなたは常に共に在ったと、世界を構成する人々の記憶に刻みつけるために。
きっとあなたはそんなことをしなくたって、世界にその存在を誇示することができただろう。そのくらいにあなたは輝いて、俺には眩しすぎるほどのひとだから。愛と孤独と清らかさと醜さを併せ持つ、愛さずにはいられない、手を伸ばさずにはいられない存在だから。
だからね、俺が紡いだ言葉は全て、あなたへの恋文であり遺言なんだ。
あなたへの恋文であり遺言である俺の手掛けた楽曲は全て、非情な世界に向けての挑戦状であり、無情な世間への恨み言であり、息づく人々へのどうしようもないほどの愛の賛歌でもあってほしい。
俺の“本当”なんて誰にも分かってもらわなくていい。
ただあなたにだけは分かっていてほしい。
俺の“真実”なんて誰にも見つけてもらわなくていい。
ただあなたにだけは知っていてほしい。
俺の“存在”なんて誰にも気付いてもらわなくていい。
ただあなたにだけは俺の傍にいてほしい。
他の誰かなんて要らないから、あなたにだけは、俺の鼓動が止まるその日まで、俺の呼吸が終わるその瞬間まで、俺の目が何も映さなくなるその時まで、ただ、俺だけのために生きていて欲しい。限りある時を俺のためだけに使って欲しい。
俺の鼓動に唇を寄せて、俺の呼吸に耳を澄ませて、俺の目を見て微笑んで欲しい。
俺が何度でもあなたの存在を世界に刻み込むから。
俺が遺したあなたへの“愛”によって、人々が生き続ける限り何度でもあなたに命を吹き込むから。
人々の記憶が、打ち立てた記録の数々が、あなたを何度でも蘇らせるから。
そうやって、100年後も200年後も、俺たちの生きた証を未来永劫繋いでみせるから。
だから涼ちゃん、……それから若井も。
これからもずっと俺の傍にいてよ。
緑色にその身を染めた東京のシンボルを遠くに見つめながら、今日という日の終わりを想う。
今日1日で、どれだけの人の記憶に残せただろう。どれだけの人が俺たちの存在を言葉にしただろう。俺の名前を、若井の名前を、涼ちゃんの名前を、Mrs.の名前を、Mrs.の楽曲の名前を、どれだけの人が目にしただろう。どれだけの人が旋律を口ずさんだだろう。どれだけの人の中に俺たちは生きているのだろう。誰かの日々の素材になることができたのだろう。
どれだけの人に、生きる意味を与えてもらったのだろう。どれだけの人に、俺の愛する人に命を注いでもらったのだろう。
ひとりひとりの言葉が、記憶が、俺たちを永遠へと導いてくれる。
「……元貴?」
ぼんやりと外を見つめる俺の耳に、やわらかな春の陽射しのような声が届いた。振り返って視線を向けると、バスローブを羽織った涼ちゃんがふんわりと笑って、佇む俺にそっと寄り添うように横に並んだ。
涼ちゃんの手を握る。指を絡ませて、強くははない力で包み込むように。
お風呂上がりだからなのかいつもは冷たい手はあたたかで、張り詰めていた糸が緩むような安心感を俺にもたらした。
なにに緊張していたのか自分でも分からない。たくさんの鎧を身に纏って、何枚もの仮面を被って、がむしゃらにずっと走り抜けてきた。10年前に比べれば自分の中に余裕が生まれ、自分のやりたいこととなすべきことの均衡が取れるようになってきた。このタイミングでこれをやるべきだ、これを出すならいつがいいのか、自分の想いと行動が不協和音を奏でることは少なくなっている。5年前に比べてもそうだ。今の自分たちは「どうするべきか」よりも「どうしたいか」を大切にできている。誰にも強制されることなく、やりたいことをやれている。
それはひとえに涼ちゃんと若井がMrs.を護ってくれているからであり、俺の楽曲に誠実に真摯に愛を持って向き合ってくれるからである。感謝してもしきれない。2人がいなければ、こんなに景色を見ることはできなかった。
だけど、いつまで経っても俺の中に巣食う孤独と枯渇は無くならない。なくなってしまえばそれこそ歌えなくなるのかもしれないが、息苦しさはずっと消えないままだ。
少しでも呼吸をしやすいように、そう願って紡ぐ言葉に今日も生かされて、毎秒殺されていく。
せっかく積み上げたものを誰かに壊されるのが嫌で大事にしまい込んで、愛でて慈しんで、最期を自分の手で迎えさせてあげたくなる。いつだって変わらない何かを探して、求めて、焦がれて、最後は自分の手で壊してしまいたくなる。キラキラと輝いているうちに、最高に幸福だと笑える瞬間に、死んでしまいたくなる。
「……ねぇ、元貴」
しっとりと、夜に濡れるような声だった。
明け方に起きて朝から多くの番組に出演して、街の中に出没して、ライブ配信まで行って、疲れているだろうに、なんでそんな甘やかな声が出せるの?
なんでそんな、俺が大好きでたまらないって声で俺を呼んでくれるの? その声を聞くと、無性に泣きたくなるんだよ、俺。凝り固まった部分が解れていって、なりふり構わず泣き叫びたくなるんだよ。
「……どうしたの」
掠れてしまわないように気をつけたつもりなのに、涼ちゃんの声の魔力は強くてそれは叶わなかった。涼ちゃんは俺の頭に自分の頭を乗せるように寄りかかると、繋いだ手にぎゅっと力を込めた。
「どんな元貴も愛してるよ」
息を呑んで目を見開いた。
「自分が空っぽになるまで楽曲に向き合っている瞬間も、ブランディングして作り上げた大森元貴を演じているときも、歌っているときの表現者として君臨している間も、若井や俺とふざけている子どもみたいな姿も、何もかもを脱ぎ捨てたただの大森元貴も、全部、愛してる」
ああ、鎧が、仮面が、崩れていく。
いつだって求めていたい。
いつだって探していたい。
いつだって満たされていたい。
いつだって愛して欲しい。
何もなくなって価値も意味もない俺という存在を、認めて欲しい。
みんなが愛する俺は、所詮ただの虚像に過ぎない。俺が表現者として活動する舞台装置に過ぎない。
俺はここにいるのに、俺はどこにもいない。
だけど、涼ちゃんだけは、俺がどこにいても見つけてくれる。
「これから先もきっといろんなことがあって、まだまだいろんな元貴に会えると思うけど、これだけは変わらない」
涼ちゃんがゆっくりと俺を抱き締めた。
「俺は、元貴を、元貴に係る全てを、元貴を構成する何もかもを、何があってもいつになっても、永遠に愛してる」
ぽん、ぽん、と俺の頭を涼ちゃんが優しく撫でる。
あやすような手つきはただただあったかくて慈愛に満ちている。
涼ちゃんのくれる愛は、無償で無限で宝石を集めたような祝詞だ。
「寂しくなったらハグしよう? 息がしにくいならキスしよう? 消えてしまいたくなるなら何度でも抱き合って、溶けてひとつになるくらい愛し合おう?」
俺の頬に熱いものが流れていく。
「俺は、ずっと元貴の傍にいる。傍にいたい。……いさせて、くれる?」
「……ったり、まえ……ッ」
ぎゅぅ、としがみつく。バスローブのやわらかな素材に指が食い込むほど強く、握り締める。
「……ふふ、かわいいね、もとき」
甘い笑い声は俺の心臓を優しく撫でた。
涼ちゃん、俺の世界、俺の唯一。
あなたの言葉は俺を生かし、あなたの笑顔は俺に価値を与えてくれる。あなたがいる、それだけで俺は生きる意味を持つことができるのかもしれない。
「若井が寂しがってるよ、きっと」
俺たちより先にシャワーを浴びてベッドルームに引っ込んでいる若井を気遣う涼ちゃんに、もう少しだけ、とわがままを言う。
「もう、しょうがないなぁ」
「……寂しいときはハグしてくれるんでしょ」
さっきそう言ったじゃん。
じと、と視線を向けると、涼ちゃんが甘苦く笑った。
「ふふ、そうだよ。寂しさなんて俺が食べてあげる」
やわく、あまく、まろやかに時が過ぎる。
今日という日が、俺たちの記念すべき日が、始まりの日が終わり、また始まっていく。
「……明日も忙しいけど、どうする?」
艶っぽい声で涼ちゃんが声を落として囁いた。
答えのわかりきっている質問に、意味なんてあるのだろうか。
答える代わりに涼ちゃんの頬を両手で包んで笑みをかたどる唇を塞いだ。
溶けてひとつになるくらい愛し合おうか。
終。
満たされると書けなくなるというか、自分の作品の必要性を見出せなくなるときがあります、まさに昨日がそう。素敵な文章を拝読すると、なんて無価値なものを生み出しているんだろうという思いに駆られます。
だけど、私の書いた文章が誰かの記憶に残り、彼らの存在を永遠に紡ぐ一石となれたなら、それほど幸せなことはありません。
10周年、本当におめでとうございます。
ラブコメみたいな話を書いたから、皆様に忘れ去られる前に『かくれんぼ。』の続きに着手しようか……またなんも考えずに始めるか……公式若様の愛がすごいからそっち書こうかなぁ。
コメント
4件
魔王さまありがとうございます❤️ ほんと彼は繊細で、優しい人だからこそ、色んな事に気づいて傷ついて…を繰り返しながら生きてきたんだろうなぁって思います。 だから、彼にとって2人は気を許せる大切な人なんでしょうね✨ 私も、keiさんの作品どれも大好きです🥰 毎回泣いたり、キュンとしたり、とにかく大好きなので、これからもずっと応援しています✨
読みましたよ!これぞ魔王って感じがします☺️こんなイメージだぁと思いながら読んでました…読んでましたら、公式様がさらに配信とか配信とかされましてほんとにちょっと待って状態です🤣 一つ言えるのはKeiさんの作品本当に大好きなので無価値ではないです✨これからも楽しみにしてます☺️ かくれんぼ。も捨てがたいですが、最近の若様の愛が大きいのでそれも見たいですねぇ💙💛(アレでもいいですよ笑)