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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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あの日は涼しい秋の始まりの日だった。雲ひとつない青空へだんだんと顔をのぞかせる朝日が薄暗い住宅街に差し込んでいく。そんな清々しい朝だった。俺は起きてからどこかボーッとしていた。スマホを見るとまだ時間にはかなり余裕がある。ゆっくり着替えて、朝食はオレンジジュース。歯を磨いて、髪をセットし、いつも通り家を出た。甲高い鳥のさえずりが静かな街へ溶け込んでいく。青いような、灰色のような一本道の通学路。俺以外には誰もいない孤独な道を一人歩く。

──────ブーン……

右側から車の音が近づいてくる。止まる気配が一切感じられなかったので、俺は十字路の手前で立ち止まっていた。

──────ブーン……

徐々に近づいてくる白いトラックが見える。

──────ブーン……

本当にスピード落とさないなぁ。全く、事故ったらどうすん……

──────ドンッ!

一瞬だった。俺は大きな放物線を描き飛んだ。そして、やがて硬くてひんやりと冷たいコンクリートにへと落っこちた。青と灰色の世界が真っ赤に染っていく。

『俺死ぬんだ』

自分の死を初めて悟った瞬間だった。走馬灯など見る余裕もなかった。

──────ガシャンッ!ビービービー……

トラックがどこかへ突っ込んだ音。それをかき消すようにして、自分の鼓動と呼吸音が大きく聞こえる。徐々にぼやけ始めた視界は、フェードアウトしていく。意識も遠のいていく。


真っ赤に染った綺麗な空。校庭に響くカラスの鳴き声。冷たい風となって私に吹き付けるのは、乾いた秋の空気。なびくスカート。

『最後にこんな景色観れて良かったな。でも、もうちょっと長生きしたかったな。来世ではきっと……』

野球部が練習している声。吹奏楽部のまばらな演奏。何の変哲もない秋の学校の放課後。唯一いつもと違うのは、屋上に裸足で立ち尽くす私と、ローファーの上に優しく置かれた『遺書』。

「最期は静かに。」

そう呟いて私は、飛び立った。未練はなかった。決していい人生ではなかったけど、悪くもなかった。心残りがあるとするならば、こんな選択しかできなかったことだけ。もっといい道もあっただろうに。どこで踏み外したのかな。

──────ドンッ!


僕は生まれつき難病にかかっていた。医者も5歳までしか生きられないと言っていたらしく、両親は深く悲しんだという。しかし何故か僕は7歳になっても死ななかった。病気が治り始めたのだという。そして小学3年生の春には完治してしまった。そこからはとても楽しかった。物心付いた時からずっと同じ入院生活だった僕にとって、外の世界はまるで遊園地のようだった。本当の遊園地にも連れて行って貰った。写真や動画でしか見た事がなかった外の世界。日常の当たり前を僕は人一倍楽しんだ。その後地元の中学へ進学し、沢山勉強して高校は公立の進学校へと通っていた。でも、やっぱり人生は理不尽なものだ。高校2年生の秋、病気が再発した。入院生活へと逆戻り。両親は泣いていた。そこまでにできた友だちは、よくお見舞いに来てくれた。でもある夜の事だった。

──────ピー……

なんの前触れもなく、眠るように僕は死んだ。お父さん、お母さん、親不孝な息子でごめんなさい。あーあ、せっかく友だちもできたのになぁ……


暑い……ゆっくり瞼を開くと、ギラギラの日光が瞳を差した。

『ここはどこだ?砂……浜……?』

背中からは鉄板のように温まったサラサラの砂の感触。波の音。

『俺は確かトラックに撥ねられて……』

そうだった。全てを思い出した。あの朝俺は暴走したトラックに撥ねられた。ゆっくり体勢を起こす。周りには俺以外にも人がいた。俺を入れて10人くらいか。そしてその中には見覚えのある顔が2人。

「おい、起きろ!月川!」

クラスメイトの月川葵。小学校から高校まで同じ学校に通っている。決して仲が良かった訳ではないが、家の方向が近かったため帰り道に話すことがあった。そして俺の知っているやつがもう1人。

「お前もこんなとこで何してんだよ、佐伯!」

佐伯裕人。中学の頃の同級生。俺や月川など多くは地元の高校に進学したが、佐伯は少し離れた進学校に通っていた。噂で聞いた話では、幼少期の病気が再発したとかなんとか。同じクラスには中2の1年間しか一緒になってなかったし、特に仲良くもなかったから、中学卒業後は関わりがなかった。そんな2人がなぜ知らないビーチに倒れているのかは未だ謎だった。

「あれ……ここどこ?伊吹くんと……佐伯くん?なんだこんなところに?」

月川が目を覚ました。

「俺も分からない。トラックに撥ねられて、目が覚めたらここにいた。」

「私は……学校の屋上から飛び降りて……」

「は?今なんて?」

思わず聞き返した。月川は決して活発な性格ではなかったが、それなりに周りと上手くやっていた。そんな月川が自殺?驚いて声が出なかった。

「伊吹くんこそ、なんで今日学校に来なかったの?」

「だから今日通学路でトラックに撥ねられて……ちょっと待て、俺はどんな扱いになってたんだ?」

「事情があって休みって先生言ってたけど。」

おかしい。確かに俺が家を出た時間が早かったから通学路に誰もいないのはわかる。でも事故現場はかなり学校と近かったし、生徒の1人や2人は事故の存在を知っているはずだ。

「学校の通学路でトラックの事故なかったか?」

「あったよ。大型トラックが民家に突っ込む事故。運転手の居眠り運転が原因だって。運転手は重症だったけど他に怪我人は出なかったって。」

一体どういうことだろうか。俺の死体は消えたのか?いや、死んでいなかったとして血は?俺の体はどこへ行った。そしてなぜ今俺は普通に生きている?怪我ひとつない。事故の前の姿と同じだ。話を聞く限り月川も自殺したらしいし、本当になんなんだよ。頭は混乱する一方だった。

「ここは……?」

後ろから声がした。

「おい、佐伯。」

そこには既に体制を起こした佐伯がいた。

「えーと君は……櫻井君……だっけ?それに後ろにいるのは……月川……さん?」

どうやら佐伯も俺たちのことを覚えていたらしい。

「そっか、僕病室で1人で死んだんだ。これは夢か?それとも天国か?」

佐伯が呟いた。

「お前も死んだのか?一体どうなってるんだよ。」

その後俺と月川が知りうる全ての情報をまとまらないままバラバラに佐伯に話した。佐伯の話もまとめると、俺たちが死んだ日にちはみんな2021年8月27日の金曜日だった。俺は朝、月川は夕方、佐伯は夜、と時間はバラバラだったらしい。

周りにいる知らない人間もだんだんと目を覚ましている。みんな混乱しているようだ。そして最後の1人が起きた時、奴は来た。


「皆さん、起きられたようで。おはようございます。大丈夫ですか?夏バテはしていませんか?」

誰かの声がした。若い男性だろうか。でも姿が見えない。

「おい、誰だ!」

金髪、タトゥー、見るからに不良っぽい人が声を出すと、

「おっと失礼。」

と一言。

空中から謎の発光が起こる。眩しくてよく見えない。発光が収まると1人の男が宙に浮いていた。俺が想像してたよりも少し若い男。

「私は神(ゲームマスター)です。皆さんを脱出ゲームへとご招待致しました。これから挑戦者(プレイヤー)の皆さんには、命を懸けて脱出ゲームをしていただきます。」

挑戦者?と呼ばれるであろう俺たち10人はみんなポカーンとしている。

「かける命なんてねえよ。俺はもう死んだんだ。」

遠くから男の渋い声が聞こえる。

「そうよ、私も死んだのよ。」

「俺も。」

「俺もだ!」

挑戦者はみんな同じようなことを口に出していた。

「はいはい、お静かに。これからゲームの詳細をお話ししますから。」

神が話を始めた。

「ここに集まって貰った10人の挑戦者は皆、無念にも寿命が残っているのに2021年の8月27日に亡くなった方々です。事故、自殺、特別に若くして病死した方もお呼びしました。先程申し上げた通り、皆さんには脱出ゲームに参加していただきます。しかし無人島からの脱出ではありません。この世界は私が作り出したいわゆるパラレルワールドです。この島以外に島はないし、人は10人しか存在しません。では何から脱出していただくかと言うと、『人狼ゲーム』から脱出していただきます。」

言っていることがわからなかった。脱出ゲームも人狼も知っているが、とりあえず頭が混乱していて、理解が追いつかなかった。

「さらに詳しい話をしますね。これから皆さんには人狼ゲームをしてもらいます。ただし普通の人狼ではありません。普通の人狼はターン制でゲームが進行しますが、これから皆さんにやっていただく人狼にはそんなものは存在しません。人狼は好きな時に人間を殺して結構です。そして役職は、人狼と人間、の2つのみ!人狼1人、人間9人で戦ってもらいます。勝利条件は人狼を見つけ出して殺せば人間陣営の勝ち、残り1人になるまで人狼が人間を殺し続ければ人狼陣営の勝ちとなります。人間陣営が勝った場合はゲーム終了時に生き残っている挑戦者を、人狼陣営が勝った場合は人狼と生き残った1人の人間を2021年の8月27日午前0時に生き返らせましょう。もちろん病気の方は完治させた状態で。」

まだ完全には理解できなかったが、ある程度言いたいことはわかった。

「それで人狼の決定ですが……既に決定しております。皆様よりも一足先にこの世界に転送され、私から説明を受けた人狼がこの10人の中に紛れ混んでおります。」

鳥肌がたった。もうこの中に人間8人を殺そうとしている殺人鬼がいることに。そして、その人狼が同級生かもしれないということに。

「あと皆さんにはこれからこの無人島でゲームに参加していただくわけなので、最低限のサバイバル道具と地図、それからスマートフォンを1人1セット贈らせて頂きます。スマホは島のどこでも電波が通りますが、持ち主が亡くなるとそのスマホは使えなくなります。魚や動物、果物や野菜などは毎日午前0時にリセットされるので無くなることはありません。また、島の東部にはログハウスがあり、お風呂やキッチン、10人分の寝床も用意させて頂いております。」

かなり挑戦者に優しいルールのようだ。野宿をしなくてもいいし、食料にも困らない。

「最後に1番重要なルールを説明します。ズバリ『人狼の殺し方』です。人間が人狼を殺す場合、従来の方法では殺すことができません。皆さん、ご自身の左手をご覧下さい。」

今まで全く気づかなかったが、そこには金属製の腕輪のようなものが付いていた。

「その腕輪には人狼のみを殺せる特別なシステムが付いております。大きなボタンがあると思います。そのボタンを押しながら誰かの名前を叫んだ場合、もしその人物が人狼なら、即座に人狼の腕輪から高圧電流が流れ人狼を殺すことができます。このシステムを使うための特別仕様として、他人の頭の上の方を見て目を細めると、名前が表示されます。ただし腕輪を使えるのは1人1回。しかも人狼ではない人物の名前を叫べば、自分に電流が流れゲームオーバーです。まあ、このルールがないとみんなでいる時に人狼が集団虐殺できてしまいますからね。」

腕輪には赤くて大きなボタンがひとつ付いている。

「それではそろそろ始めましょうか。皆さん、自分の命がかかっていますからね。では、ご武運を!」

神はそう言って微笑むと、また光を発し、次の瞬間には消えていた。まだ他の挑戦者はその場に立ち尽くしていた。俺も何をどうすればいいか分からない。こうして俺たちの生き残りをかけたゲームが始まった。

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