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第9話
nmmn
rtkg
学パロ
付き合っている設定
第8話の続き
文化祭の熱気がようやく収まり、校舎には片付けのざわめきだけが残っていた。
教室の床にはテープの残骸や紙くずが散らばり、机を元の位置に戻す男子たちの笑い声が飛び交う。
「おい、リト、その机もうちょい右!」
「カゲツ、こっちの飾り外してくれ!」
クラスの連帯感に包まれながらも、リトとカゲツはいつものようにペアで動いていた。自然と隣にいる。何も言わなくても作業が噛み合う。それはもはや日常になっていたが、周囲から見ればあまりにもわかりやすい距離感だった。
「なあ……やっぱり怪しくね?」
「今日とか、視線合いすぎ。いやもうカップルだろ」
片付けの合間に聞こえる声に、カゲツは肩をすくめた。
(……またや。どうしても、目立ってしまう)
リトは聞こえないふりをしているが、横顔はわずかに笑っている。まるで隠す気がないみたいで、カゲツの心臓は落ち着かなくなる。
休憩が入り、教室の空気が和んだときだった。
一人のクラスメイトがニヤリと笑って声を張り上げた。
「なあ、宇佐美。お前と叢雲ってさ……本当に付き合ってんの?」
一瞬、空気が止まった。
笑い混じりの問いかけだが、皆が耳をそばだてている。
からかい半分、興味半分――だが答え次第では、これまでの噂が一気に確信に変わる。
カゲツは慌てて否定しようと口を開きかけた。
「な、何言って――」
しかし、それより早くリトの声が響いた。
「……ああ、そうだよ」
教室が凍りついた。
数秒後、「マジかよ!」「やっぱりな!」とどよめきが走る。笑い声と驚きの声が入り混じり、空気が一気に熱を帯びる。
「えっ、ほんとに?」「ずっと一緒だもんな!」
「叢雲、隠すの下手すぎだろ~」
ざわめきが渦のように広がっていく中、教室の中心に立たされた居心地の悪さがカゲツを包み込んだ。
カゲツの頭は真っ白になっていた。
(うそ……。リト、ほんとに言っちゃった……!)
必死に否定したいのに、視線を向けるとリトが落ち着いた表情でこちらを見ていた。まるで「大丈夫」とでも言うように。
その穏やかな瞳に射抜かれると、反論の言葉が喉で溶けて消えてしまう。
「ほら見ろ! 俺の勘、当たってた!」
「お似合いだしな、隠す必要なかっただろ!」
笑いながら肩を叩かれるカゲツ。からかいはあっても、誰一人として否定的な言葉はない。意外なほど、受け入れられている。
むしろ「青春だな~」と冷やかされる空気に変わっていた。
そのことに、カゲツ自身が一番驚いていた。
(バレたら終わりだと思ってたのに……こんなふうに……)
休憩が終わり、再び作業に戻る中で、カゲツは廊下に出て息を整えた。
胸はまだ早鐘のように鳴っている。
そこへ、背後から静かな声がした。
「……ごめんな、勝手に言っちゃって」
振り返ると、リトが少し照れた笑顔で立っていた。
「でもさ、もう隠すの無理だろ。俺はカゲツを隠したくなかった」
「勝手すぎるやろ……」カゲツは俯き、唇を噛む。
「ぼく、怖かったんやぞ。今だって、足震えてる」
リトはゆっくり歩み寄り、カゲツの肩を抱いた。
「でも、みんな案外大したこと言わなかっただろ。……俺がそばにいる。だからもう大丈夫」
その言葉に、カゲツの胸の緊張が少しずつ解けていく。
リトの体温が、背中から伝わってくる。
「……ずるい。リトにそう言われると、信じたくなる」
リトはカゲツの髪をくしゃりと撫で、柔らかく囁いた。
「じゃあ、信じて。俺はカゲツとずっと一緒にいる」
窓の外では夕焼けが校庭を赤く染めていた。文化祭の余韻に包まれた教室の隅で、二人はようやく、隠すことのない関係を手に入れたのだった。