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謙信side
俺の今の人生での楽しみは、
ひとつだけだった。
颯斗といる時間。
それだけ。
公園で寝転んでる時も、
海で走ってる時も、
どうでもいいことで笑ってる時も、
その瞬間だけは、ちゃんと息ができた。
でも、それ以外の時間は、
正直しんどかった。
理由なんて、うまく言えない。
ただ、胸の奥がずっと重かった。
颯斗の前では笑えてたけど、
ひとりになると、急に静かになる。
冬のある日。
雪が降ってた。
颯「さっむ……」
颯斗がマフラーに顔埋めながら言う。
謙「颯斗鼻赤い、かわいい」
颯「うるさい」
白い息が重なる。
謙「今日海行くとか言わなくてよかった笑」
颯「凍るわ笑」
駅前のいつもの分かれ道。
ここで、毎回バイバイする。
颯「じゃあな」
颯斗が手を上げる。
俺は少しだけ、立ち止まる。
今なら、言えるかもしれない。
――しんどいって。
――たまに、消えたくなるって。
でも。
颯斗の顔を見る。
笑ってる。
俺といる時間を、楽しそうに。
それを壊したくなかった。
謙「……なあ颯斗」
颯「ん?」
言葉が喉で止まる。
雪が肩に積もる。
謙「なんでもない」
颯「なんだよ笑」
謙「また明日ね」
少しだけ、強く言った。
颯斗はいつも通り。
颯「おう、また明日」
当たり前みたいに。
俺は笑った。
その言葉が、こんなにあったかいのに。
俺には、
その“明日”が来なかった。
(もし、あの時)
もう一回やり直せるなら。
「なあ颯斗」
「ん?」
「俺さ、ちょっとしんどい」
きっとお前は、
「は?なんで早く言わなかったんだよ」
って怒るだろうな。
「俺、そんな頼りない?」
って。
「一人で抱えんな」
って。
そう言って、無理やり隣に座るんだろ。
「海行くぞ」
「寒いって」
「走ればあったかい」
くだらない理屈で。
でもきっと、
そのくだらなさに救われてた。
本当は、分かってた。
颯斗は鈍いけど、優しい。
俺が言えば、ちゃんと聞いてくれた。
それでも言えなかったのは、
弱いところを見せたくなかったから。
颯斗の中での俺は、
笑ってる俺のままでいたかった。
「また明日ね」
あの言葉が、
最後になるなんて思ってなかった。
いや、
少しだけ、分かってたのかもしれない。
だから強く言った。
ちゃんと目を見て。
“また明日”って。
今でも思う。
あの雪の日、
振り返って、
「やっぱもう少し一緒に帰ろ」
って言えばよかった。
颯斗はきっと、
「は?寂しがりかよ」
って笑って、
隣に戻ってきてくれたのに。
俺の人生の楽しみは、
本当にそれだけだった。
颯斗といる時間。
だから最後も、
あいつの笑顔を見れたことだけは、
少しだけ、救いだった。