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全ての始まりは親に捨てられたことだった。
うちは元々貧乏で、父親はギャンブルばっかしていて、母親もそんな父親にうんざりしていて、部屋によく様々な男を連れ込んでいた。私の本当の父親も、誰だかわからない。
私が10にも満たない頃、母親が出ていった。当然のことだろうと、幼いながら理解していた。
それから私が父親に捨てられるまでさほど時間は掛からなかった。
「壁炉の家は君を歓迎するよ」
なにも信じられない。
なにも信じたくない。
私の中にあるのはただ2つ
「生」への執着と人に対する「不信感」だけ―――
―――「っ!御父様!」
ぎゅぅっ…!
「っと…全く、ラルヴェは相変わらず甘えん坊だ。」
「えへへ…御父様に会えたのが嬉しくて…」
何もない。
「そうかい…」
ゆっくりと頭を撫でられる
「生」にしがみつくなら、なんでもいい。
例え媚を売ろうと、体を売ろうと、自分を殺そうと、
「生きていればいい」と
―部屋の隅のラベンダーの花が開く
「御父様」は忙しく、滅多に会えない。
だけど壁炉の家の子供を厳しく、そして優しく愛している。
…よく、血も繋がってない子供を愛せる。
血が繋がってるはずだった両親に愛されなかったのに
御父様は、今日はフォンテーヌの神に会いに行くようだ。
私はにこにこと笑いながら見送る。
「?何を言っている、君も来るんだ、ラルヴェ」
何を言ってるかわからなかった
御父様曰く、私があまり外に出てないのを気に掛けているらしい
…この人は、お人好しだ。
断る理由もないから、二つ返事で了承した
…逃げ道は、いくら用意したって構わないから
「…や、やぁ…「召使」…久しぶりじゃあないか…」
なにやら、随分と御父様に怯えている
これが水神…?
随分と神には程遠い
ふと、彼女と目が合う
「…「召使」、彼女は?」
御父様は私を前に出すと私の腰を引いて紹介する
「…この子は、私の子のラルヴェ、あまり外に出たがらないんだ。」
「…仲良くしてやってくれ」
御父様の声が響く。
「よろしくお願いしますっ!フリーナ様!」
いつもと一緒の、甲高くて嘘みたいな態度
媚を売って、売って、売って、売りまくる
それ以外、知らないから
「…あ、あぁ、よろしく…さて…お、お茶にでもしようか…!」
「あぁ」
―私を引く御父様の手は力強かった
「さぁ、今回はケーキも用意したし、自由にするといい。」
と言って水神がソファに座る
御父様も前のソファ座る
私は御父様の横に立つ。立場を弁えないと
「…?何故立っている、君も座りなさい」
…?
何故?あくまで私は付き添いなのに
疑問符が浮かび上がるが、一先ず言うとおりに御父様から一人分離して座る
「離れるな」
そう言って御父様は私の腰を強く引いて近づかせる
更に疑問が浮かび上がるが、御父様の言うとおりに離れないでおく
こんなことで信用を失っては意味がないから
笑顔で
愛想よく
オーバーで
嘘らしくなく
自然にする
水神は気分を良くした。
「そうだね…!あの時の審判は非常に滑稽だったよ!例えば…」
「ふふ、さすがフリーナ様!」
そう言うだけで水神は更に気分を良くして話し続ける
チョロい、ただそれだけだった。
「……」
私の腰を持つ御父様の力が強くなる
「…そろそろ時間だ、帰ろう」
…?特に予定もないのに
私の腰を引きながら御父様は立ち上がる
「ケーキをありがとう、フリーナ殿。」
そう言って御父様は私を連れて部屋を出る
―出る際の水神の瞳は、何処か哀れんでいた
………
ガシッという効果音が似合う程強く、手首を掴まれる
部屋を出て数歩歩き、御父様がこちらを向く
ダンッ!!…
御父様は手首を掴んだまま私を壁に押し付け横に手を置く
手首が燃えるように熱い
「…裏切るのか?」
低く呟かれる
「君は私の子だ。だが、フリーナ殿に対するあの態度」
「…どういうことか説明してくれるか?ラルヴェ」
ギリギリ…と手首が鈍く音を出す
「…御父様の顔に泥を塗らないようにと、少しでも信頼を得ようとしました。」
咄嗟の言い訳にしては良いのではないか?
心の中で呟きながら御父様と目を合わせる
赤黒く光る、月のような眼差しに答える
「…そうか」
私の言葉を聞くと御父様は手を緩めて少し離れる
「…彼女にあそこまでしなくていい、わかったね?」
「わかりました。御父様」
にこりと笑いながら従順に
御父様は褒めるように頭を撫でて私の手を引く
―この人の指は、どこまでも冷徹で、温かい。
日記を書いている
それが私のすべてを壊した。私のすべてが壊された。
ありもしない態度に皆騙されて、バカみたいに思う
ただ、それを心に思うだけではストレスが溜まる
だから私は日記に書いていた。
御父様のことも、リネたちのことも、水神のことも、全部。
…すべて、滑稽だった
…それは私もだった。
「戻ってきたのか」
私の部屋の中心に御父様がいた
それだけだったら良かった。別に部屋に入られてもどうでも良かった。
「…お…とう……さま…それ……!」
パキ
「あぁ、これかい?机に置いてあったからなんだと思ってね。」
パキ
「っあ…ぁ……!」
パキ…パキ…!
「しまっておこうと思ったが…興味深い内容でね…」
「すべて魅入ってしまった。」
パリン、と音を立てて何かが崩れる
知られた、何もかも
すべて…すべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべてすべて
全部が、崩れさった……
力が入らず膝をつく
声を出したいが絞りでない
自分のすべてが知られた…
こんなに怖いことだなんて…思わなかった…
―パリ…とラベンダーを踏みつける音
赤く灯された影が俯く私を覆う
彼女は口を開く
――――「知っていた」と
「私が知らないとでも思っていたのか?自分の子供のことだ、最初からわかりきっていた」
「だが、必死に私に取り繕う君を見ていると愛らしい気持ちが湧いてくる」
「言っただろう?壁炉の家は君を裏切らないと」
「だが、それなしにしても、私個人が君を愛そう…偽った君でも、本当でも」
「愛しているよ。ラルヴェ」
テッセンのツルが巻き付くように、それは熱く、強く抱きとめられる
いっそ嫌ってくれれば楽だった。そうしたら離れられたのに
今この瞬間だけでわかる…
…この人《アルレッキーノ》から、逃れることはできないと
恐怖に涙が溢れる
それですらこの人は愛らしそうに涙を拭う
拒否しようと震える体で遠ざかる
それですらこの人は愛らしそうに強く抱きしめる
まるで、私の「物」と言うように
「ふふ…やはり素直ではないね。だが、それすら愛おしい」
「今日は特別だ、今夜は私の部屋で眠りに着こう…」
私に構わず抱き上げる
恐怖で目の前のこの人の服を掴んでしまう
「…全く、ラルヴェは相変わらず甘えん坊だ。」
ちがう…なにもかも…ちがう…!
こんなの…なにも……!
「愛している…ラルヴェ」
部屋の隅の花瓶にはテッセンが巻きついていた。