テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
99
天夏@100人目指し中
113
13
388
高校生パロ
二月十四日。
学校中がいつもより少しだけそわそわしていた。
「今日、何の日か知ってる?」
「バレンタインだろ?」
「あの人に渡す?」
そんな会話があちこちから聞こえる。
一方、生徒会室。
「おはようございます。」
瀬麗梛はいつも通り扉を開けた。
「……あれ?」
机の上には、小さな箱が一つ。
『会長へ』
可愛らしい文字で書かれたメッセージカード。
「チョコだ。」
瀬麗梛は嬉しそうに笑う。
「義理チョコかな。」
その一言で――
「「「「…………。」」」」
部屋の空気が止まった。
「会長。」
怜が静かに口を開く。
「……義理だと思うんですか?」
「え?」
「だって、みんな仲良くしてくれるし。」
瀬麗梛は不思議そうに首をかしげた。
「だからお礼じゃないかな?」
四人は顔を見合わせる。
(違う。)
(絶対違う。)
(会長……。)
(無自覚すぎます。)
一時間目が終わる頃には。
机の中。
ロッカー。
下駄箱。
生徒会室。
ありとあらゆる場所にチョコが置かれていた。
「また増えてる……。」
瀬麗梛は困ったように笑う。
「こんなに食べきれないよ。」
「会長。」
來執がそっと箱を抱えた。
「僕も持ちます!」
「ありがとう。」
瀬凪も紙袋を持ち上げる。
「今年もすごいねぇ。」
隋星は箱を一つずつ確認していた。
「名前が書いてある物はまとめましょう。」
「うん!」
昼休み。
生徒会室の机は、チョコレートで埋め尽くされていた。
「……。」
怜は一つ一つ丁寧に見ていく。
「これも。」
「これも。」
「これも。」
「全部、本命ですね。」
「え?」
瀬麗梛は目を丸くした。
「そんなわけないよ。」
「会長。」
瀬凪が苦笑する。
「普通、義理チョコに何時間もかけてラッピングしない。」
「リボンも手紙も付けない。」
「そうなの?」
「そうです。」
四人が同時に頷いた。
瀬麗梛は少しだけ困った顔になる。
「でも……。」
「せっかくもらったし、大事に食べないと。」
その優しさに、四人は苦笑するしかなかった。
その時。
隋星の手が止まる。
「……。」
「どうしたの?」
瀬麗梛が尋ねる。
隋星は一つの包みを見つめたまま言った。
「これだけ、少し様子がおかしいです。」
怜も隣に来る。
「確かに……。」
包装は丁寧だった。
でも、不自然なところがいくつかある。
「念のため。」
怜は先生を呼びに行った。
事情を説明すると、先生は真剣な表情で頷く。
「ありがとう。」
「気付いてくれて助かった。」
「これは学校で預かる。」
「はい。」
瀬麗梛は少し心配そうだった。
「大丈夫かな……。」
「大丈夫です。」
隋星が穏やかに微笑む。
「先生が対応してくれますから。」
「そっか。」
瀬麗梛は安心したように笑った。
放課後。
「さて。」
瀬凪が積み上がった箱を見る。
「どうする?」
「全部持って帰れる?」
「無理かも。」
瀬麗梛は苦笑する。
「じゃあ。」
來執が手を挙げた。
「僕たちも持ちます!」
「俺も。」
「僕も。」
「もちろんです。」
結局。
五人で手分けしてチョコを運ぶことになった。
廊下を歩く姿を見て、生徒たちは思わず振り返る。
「見て。」
「会長、またあんなにもらってる。」
「人気すごいなぁ。」
「でも後輩たちが全部持ってる。」
「仲良しだね。」
学校を出た帰り道。
「会長。」
怜が静かに尋ねる。
「全部食べるつもりですか?」
「もちろん。」
「せっかくもらったから。」
「……。」
四人は少しだけ黙る。
來執がぽつりと言った。
「少しだけ。」
「少しだけ、羨ましいです。」
瀬麗梛は足を止める。
「え?」
「だって。」
瀬凪が笑う。
「俺たちより、会長の方が人気だし。」
「そんなことないよ。」
瀬麗梛は首を振った。
「みんなだって、たくさんもらってたじゃない。」
「でも。」
隋星が優しく微笑む。
「瀬麗梛にもらえるチョコは、一つもありません。」
「え?」
「え?」
瀬麗梛はきょとんとする。
四人は顔を見合わせた。
そして、小さく笑った。
(今年は、まだ渡せない。)
(きっといつか。)
(ちゃんと伝えられる日が来たら。)
夕日に照らされた五人の影が、ゆっくりと長く伸びていく。
今年のバレンタインも、笑顔で終わった。
……少しだけ、切ない気持ちを胸にしまいながら。
**第五話 終**
コメント
5件
バレンタイン回、すごく良かったです!瀬麗梛会長が「義理チョコかな」って言った瞬間の空気の止まり具合、読んでて思わず笑っちゃいました。無自覚な会長と、それを見守る四人の距離感が絶妙で、甘くてほろ苦い感じがバレンタインにぴったりでした。不審な包みに気づいた隋星さんの観察力もカッコよかったです!