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藍
10
アセクシュアル。
LGBTQ+、性的マイノリティの一つだ。
誰にも恋をしない。恋愛感情を持たない、持てない。
別にトラウマとかがあるわけではなく、先天的に感情がない。
その特性ゆえ結婚ができない。また性的な行為に嫌悪感を抱く人もいるため、子供ができることもない。世間から厳しい目で見られることもあるそうだ。
彼女はそんなマイノリティを抱えた女の子。
私の世界で一番大事な。
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「暑ぅ…………。」
私の隣を歩いている彼女はそうぼそっと呟いた。
「まあまあ、今日で学校も終わりなんだしさ…」
そう励ましの言葉を送った相手の首筋にはそこに沿うように汗が滴り落ち、高く結い上げているポニーテールの毛束が首に引っ付いた。制服のシャツがところどころ肌に張り付いて透けているのにも気づいていないみたいだった。堂々と出ているうなじは夜中の光みたいに人を惹きつけていた。ただの年頃の女子高生には刺激が強かった。思わず私の汚らしい欲望が体を支配し、首の曲線を伝う液を舐め取ってしまいたくなった。
「1学期ももう終わりか〜…、」
「早かったね…、次は運動会か…、苦手だなぁ…。」
「大丈夫でしょ〜、私なんて、体力テストの総合結果Dだよ?」
「D!?そんな数値存在するの?ww」
「書いてあったんだよ…、私だって取りたくてD取ってるわけじゃないし!!」
他愛もない会話。
高校生になるまで。これがタイムリミット。
彼女と過ごす時間は一瞬だ。きっとあと2年だってすぐ過ぎてしまうんだ。
もっと大切にしなきゃ、もっと大事な話をしなきゃ。
「あははっ…、おかしい。」
彼女が笑っている顔を見るのが大好きだ。私みたいに汚い感情が織り混じっていない純真な笑顔。あなたにはこのままでいて欲しい、なんて身勝手な願いを勝手に持っていた。
彼女が私の知らない間に誰かと仲良くなっていた時には身を焦がすような身勝手な怒りと自己嫌悪に襲われた。
彼女にもし何か奇跡が起こって恋人が出来てしまったらと想像した時にはとても強い悲しみと肥大化した後悔に胸を痛めた。
大好き。
そんな3文字では説明できない。
楽しい
だけじゃない
嬉しい
だけでもない
悲しい
じゃない
恋しい
でもない
人間の持てる限り全ての感情を混ぜたような思いを向けていた。
私の全てを捧げたってあなたは私に振り向きやしない。
この身を投げて生まれ変わったってきっと私じゃあなたに好きになってもらえない。
ある日からあなたへ劣情を抱いた。
もしかしたらこの恋心よりも先だったのかもしれない。
今となっては分からないけれど。
ただ身勝手に好きになって拗らせて諦めようとして悲しんで。
あなたの隣にいるのがそんな私でごめんね。
もっと私に魅力があったら?
もっと出会うのが早かったら?
頭に浮かぶのはそんなどうしようもない疑問ばかり。
私があなたへ送る言葉は全部私の思いが乗っている。
恋愛的な感情に苦手意識があるあなたの天敵だ。
どうして私と一緒にいてくれてるんだろう。
友達としてでも好意を向けてくれているなら嬉しい、と思った。
「じゃあね、また二学期に!」
いつのまにか彼女の家の前だった。
「うん、また二学期!」
そう言って手を振った。
また夏休みが終わっても、今日と同じように暑い中登校して、暑い中帰る。
また二年生になっても、三年生になっても。
それ以降は今の私には考えられない。
彼女がいない人生なんてもう思い出せない。
小学4年生以前の記憶もない。
私の走馬灯はきっと彼女で埋め尽くされていることだろう。
汚くて痛々しいこの依存が不健全なことくらいとっくに分かってる。
いつか道を分つ時が来るとしても、今だけは自己愛に浸らせて。
コメント
1件
藍さん、第1話読ませていただきました。 アセクシュアルの彼女に対する「私」の執着と自己嫌悪の混ざり合った感情が、とても痛々しくて美しかったです。「走馬灯はきっと彼女で埋め尽くされている」という一文に、この依存の深さと切なさが全て詰まっている気がしました。 暑い夏の日の些細な会話の裏で、こんなにも重い感情が渦巻いている——その対比がたまらなく胸に響きます。続きが気になります🌷