テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#スクラッチャーズ
K-Takasaka
328
K-Takasaka
195
巨大サイコロの内部で、何かがかみ合う音が響いていた。
赤く点滅していた六つの数字が、ひとつずつ消えていく。
六。
五。
四。
三。
二。
最後に残った数字が、白い光を放った。
――一。
部屋を染めていた赤い照明が消え、床の上に白い文字が浮かび上がる。
『一の目――全員で一歩』
メバルは、構えた銃をゆっくり下ろした。
「敵対ルールは終わったの?」
『敵対ルールを終了します』
五人の腕輪から警告音が消える。
カキが大きく息を吐いた。
「よかった……。メバルちゃん、本当に撃つかと思ったぞ」
「撃ってないでしょ! 床を撃っただけ!」
「でも、すごい顔してた」
「カキちゃんだって、拳を振り回してたじゃん!」
「俺は本気じゃなかった!」
「床がへこんでたけど?」
ミステーが陥没した床を見つめる。
「床は、カキの本気を受け止められなかった」
「俺の本気、そんなに重いのか!?」
「話は後だ」
マサカゲが巨大サイコロを見上げた。
「一の目のルールを確認する。全員で一歩、ということは、五人が同時に一歩進まなければならない」
空中に新たな表示が浮かんだ。
『現在位置から、全員が同時に一歩進んでください』
『一人でも足並みが乱れた場合、ルール違反と判定します』
『違反した場合、全員の腕輪に罰則を実行します』
メバルが床を見る。
五人の立っている場所から、前方には白いマスが並んでいる。
しかし、五人の前にあるマスは、同じ形ではなかった。
メバルの前には、細長い白いマス。
カキの前には、少し高く盛り上がった黒いマス。
マサカゲの前には、表面が濡れているように光るマス。
ミステーの前には、無数の細い線が入ったマス。
アオノの前には、中央に小さな円が描かれたマス。
「同じ一歩でも、場所によって仕掛けが違う可能性がある」
アオノが冷静に分析する。
「全員が同時に進む必要があるなら、誰かが動けなくなった場合も全員が失敗する」
「つまり、カキちゃんが転んだら全員アウト?」
メバルが尋ねる。
「可能性が高い」
カキが盛り上がった黒いマスを見た。
「じゃあ、俺のところだけ先に調べればいいな!」
「待て。勝手に踏んだら失敗だ」
「一歩進めばいいんだろ? ちょっとぐらいなら――」
カキが足を上げる。
マサカゲがすぐに腕をつかんだ。
「カキ、動くな」
「でも、調べないと危ないぞ」
「調べるために踏んだ瞬間、ルール違反になる」
カキは足を上げたまま固まった。
「このままなら大丈夫か?」
「その姿勢を維持できるなら」
「何分?」
「表示されていない」
「無理だろ!」
カキが足を下ろそうとした瞬間、腕輪が赤く点滅した。
『移動を検知』
五人の足元に、細い赤い線が走る。
『一歩の実行を開始してください』
「まだ開始してないのに、検知されてる!」
メバルが叫ぶ。
マサカゲは五人の足元を見比べた。
「全員、同じ方向へ進む。右足から出す。歩幅は三十センチ程度。俺が合図する」
「分かった!」
カキが大きくうなずく。
「右足を出して、三十センチ進めばいいんだな!」
「声が大きい。集中しろ」
ミステーが自分の足元を見た。
「僕は左足から出したい」
「右足で統一する」
「僕の右足は、左足と相談しないと動かない」
「足に意思決定をさせるな!」
メバルがすかさず突っ込んだ。
マサカゲは五人の位置を確認した。
「タイミングを合わせる。三、二、一――」
五人が同時に右足を出した。
その瞬間、床のマスが一斉に変形した。
メバルの前の白いマスが、斜めに傾く。
カキの前の黒いマスが盛り上がる。
マサカゲのマスから、水のような液体が広がる。
ミステーのマスに刻まれた線が、細い溝へ変わる。
アオノのマスの中央から、円柱状の装置が飛び出した。
「うわっ!」
メバルの足が滑った。
しかし、カキが腕を伸ばし、メバルの肩を支える。
「メバルちゃん、動くな!」
「動けないよ!」
カキ自身も、盛り上がったマスの上でバランスを崩していた。
「カキ、足を固定しろ!」
マサカゲが指示を飛ばす。
「もう固定してる! でも床が俺を押してくる!」
マサカゲの足元から広がった液体は、靴底を滑らせるものだった。
彼は足を踏ん張り、姿勢を保つ。
ミステーの前では、細い溝が次々に開いていた。
「ミステー、足を上げるな!」
「上げていない。床が足を避けている」
「床に避ける意思はない!」
アオノは、目の前に飛び出した円柱を見つめていた。
「これは圧力センサー。一定の力が加わると、隣のマスが回転する」
「つまり、踏んだら回るの?」
メバルが聞く。
「そう」
「じゃあ、アオノちゃんのところが一番危ないじゃん!」
「正確には、全員の位置が連動しているため、誰かの動作が全員に影響する」
床の下から、歯車が回る音が響いた。
五人の足元に、赤い線が伸びていく。
『一歩の完了条件――全員が足を着地させること』
『ただし、着地の順番がずれた場合、失敗と判定します』
「着地も同時!?」
メバルの声が裏返った。
「今、まだ足を上げたままだよね?」
「そうだ」
マサカゲの額に汗が浮かぶ。
「俺が合図するまで、誰も足を下ろすな」
カキが苦しそうに笑う。
「マサカゲ、早くしてくれ! この床、俺の足を押し返してくる!」
「あと五秒、姿勢を維持しろ」
「五秒が長い!」
「四秒」
「数えるならもっと早く!」
「三秒」
ミステーが足元を見たままつぶやく。
「僕の足が、独立した」
「ミステーちゃん、何を言ってるの!?」
「靴だけが先に進もうとしている」
ミステーの靴が、細い溝に引っ張られて少し動いた。
腕輪が激しく点滅する。
『不規則な動きを確認』
『ルール違反まで、三秒』
「ミステー、足を止めろ!」
「止めている」
「靴を止めろ!」
メバルが手を伸ばそうとする。
「メバル、動くな!」
マサカゲが制止した。
「誰か一人でも姿勢を崩せば全員失敗だ」
「でも、ミステーちゃんが!」
「アオノ、対処できるか?」
「可能。ただし、私も動く必要がある」
「動くな!」
アオノが円柱状の装置を見つめる。
「なら、動かないまま処理する」
彼は腰から小型の工具を取り出した。
片足を上げた状態のまま、工具を投げる。
工具は円柱の側面に当たり、装置の隙間へ正確に入り込んだ。
ガキン、と音が響く。
ミステーの靴を引っ張っていた溝が停止した。
「固定した」
「アオノちゃん、今のどうやったの!?」
「投げた」
「説明が短い!」
マサカゲが全員を見渡す。
「今だ。ゆっくり着地する。三、二、一!」
五人の足が、同時に床へ触れた。
ドン、と重い音が広間に響く。
赤い線が消え、床の仕掛けが停止した。
『一歩の完了を確認』
『残り移動距離――二十四マス』
メバルが息を吐いた。
「一歩だけで、こんなに大変なの?」
『次の一歩を実行してください』
全員の顔から、疲労が消えた。
「まだやるの!?」
カキが叫ぶ。
『一の目が継続している間、参加者は一歩ずつ移動しなければなりません』
『移動を拒否した場合、罰則を実行します』
「何歩歩けば終わるんだよ!」
「表示では、二十四マス」
マサカゲが答える。
「つまり、あと二十四回、今の動作を繰り返す」
メバルが頭を抱えた。
「こんなときにKさんがいたらなぁ……。きっと、黙って全部先にやってくれるのに」
五人の間に、短い沈黙が落ちた。
K-Tがいれば、危険な床の上でも迷わず前に出ていた。
誰かが転びそうになれば支え、誰かが動けなくなれば自分が代わりに危険を受けていた。
そして、きっといつものように言う。
――問題ない。
カキが拳を握る。
「でも、Kさんがいないからって止まるわけにはいかないだろ!」
マサカゲがうなずいた。
「そうだ。俺たちだけで突破する」
「次は、僕が最初に進む」
ミステーが言った。
「ミステーちゃんが最初に動いたら、全員が不安になるよ!」
「では、最後に進む」
「それも不安!」
巨大サイコロが、再び回転を始めた。
今度は、数字の一が白く輝いたまま、ほかの面まで赤く染まっていく。
アオノがサイコロを見上げた。
「出目が変化している」
「一のルールが終わるんじゃないの?」
「違う。複数のルールが重なる可能性がある」
サイコロの表面に、新たな文字が表示された。
『次の一歩より、全員同時』
その下に、別の赤い文字が浮かび上がる。
『ただし、次の区画では足元を見てはならない』
メバルが目を見開いた。
「足元を見ないで、全員同時に一歩?」
床の先には、深い穴がいくつも開いていた。
その向こう側に、次の赤いチェックポイントが浮かんでいる。
マサカゲが息をのむ。
「見ずに進めということか」
「全員で一歩、しかも下を見ない」
カキが穴を見つめた。
「これ、誰かが落ちたら……」
ミステーが静かに答えた。
「一歩ではなく、落下になる」
「それを言われると、余計に怖いよ!」
巨大サイコロが回転を止めた。
床の穴から、冷たい風が吹き上がる。
五人は互いの肩に手を置き、足元を見ないように前を向いた。
次の一歩が、始まろうとしていた。
コメント
1件
第8話読了!「全員で一歩」っていうルール、めちゃくちゃ緊張感あって面白かったわ。一人ずつ違う仕掛けのマスの前で、同時に同じ歩幅で着地しないとダメってキツすぎる!カキとメバルの掛け合いでシリアスになりすぎないバランスが好き。アオノが片足立ちのまま工具投げてミステーの靴固定するところ、めっちゃカッコよかった。K-Tさんがいないけど、5人だけで突破しようとする流れにグッときたな。最後の「足元を見るな」ルール追加、続きが気になりすぎる🔥