テラーノベル
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「ニールセン公! 大変です! レナ様が!」
九条がシュトルムクラータを後にした翌日。レナが無残な姿で発見された。
「誰か! 回復術を使える者はおらぬのか!!」
「【|強化回復術《グランドヒール》】!」
野次馬を掻き分け駆け寄って来たミアがレナに回復術を掛けるも、時すでに遅し。
恐らく死亡の原因だろう胸の傷はすぐに癒えたが、意識が戻る事はなかった。
「レナ! 目を開けろ! レナぁぁ!」
既に動くことはないレナを抱き上げ必死に呼びかけるノースヴェッジ卿。
そのはずみでレナの手から零れ落ちたのは、婚約式で交換した誓いの短剣だった。
今回の式典のためにと短剣の意匠を話し合う二人の姿は仲睦まじく、誰が見ても円満な家庭を築けるであろうと信じて疑わぬほど。
それも今や風前の灯火。全てが幻想であったかのように思われ、母であるイザベラは床にペタリと座り込むとレナに覆いかぶさるよう泣き崩れた。
「なぜだ……。あんなにも喜んでいたというのに……。全て嘘だったと言うのか……」
訳もわからず嘆き歯を食いしばるノースヴェッジ卿。
そこに駆け付けたのはアレックスだ。
「レナ!!」
目の前には胸から血を流し倒れているレナと、赤く染まった誓いの短剣。
それが何を意味しているのか理解するのに、そう時間はかからない。
「なぜ……」
膝を折り床に手を突くと、途方に暮れるアレックス。
(なぜこんな事に……。僕が嫌なら身を引いたのに……。なぜ言ってくれなかったんだ……)
その答えは返ってこない。自決という最後の手段を使い、レナはアレックスを否定したのだ。
襲い来る虚脱感に目の焦点は定まらない。それでもアレックスが泣くことはなかった。悲しみよりも、レナに拒絶されたという衝撃が勝っていたのだから。
(あの日々はいったい……。何のために頑張って来たんだ……。これじゃあ僕が道化みたいじゃないか……)
苦悩し、憂い、気は塞ぐ。アレックスの頭の中はめちゃくちゃで、考えはまるで纏まらない。
そんな中、アレックスは落ちていた短剣を手に取った。紅く染まった血刃に映っているのは茫然自失としたアレックスの顔。
(これは夢だ……。この刃で自分を貫けば、悪夢から逃れられるかもしれない。全てを忘れ去ることが出来るかもしれない……)
アレックスは死ぬことに救いを求めた。残された者のことを考えず、全てを投げだそうとしたのだ。
短剣を両手で握りその刃を首元へと向けたその時、アレックスはふと九条の言葉を思い出した。
それはアレックスが死の淵から生還を果たした時に言われたもの。
(|慚愧《ざんき》――生きることが贖罪であるということ……。それが自分の生きる意味……)
一瞬であったが、その言葉でアレックスは冷静になれた。
正常な思考を取り戻し、ぼやけていた辺りの景色が鮮明に見えた。そしてその視界に妙な違和感を覚えたのだ。
目の前には誓いの短剣。それを強く握りしめるアレックスの両手。その手首には、祝いの品として九条から贈られた白い念珠。
その視線をレナに移すと、そこにはあるものがなかったのである。
(念珠……。九条さんから貰ったはずの念珠はどこだ……?)
九条は言っていた。レナがそれを受け取り、結婚式までは身に付けている約束をしたのだと。
しかし、レナの腕にそれらしい物は身につけられていなかった。
「ノースヴェッジ卿。これと似たような赤いブレスレットを見ませんでしたか?」
「アレックス! 貴様こんな時に何を……」
「重要な事なんです!」
その目は真剣だった。芯の通った真っ直ぐな瞳。年上であるノースヴェッジ卿が気圧されてしまうほどの迫力。
「いや……。私は見ていない……。お前は?」
イザベラも涙を拭いながら不思議そうに首を横に振った。
するとアレックスは立ち上がり、勢いよく部屋の中を荒らし始めたのだ。
「アレックス! 何をしている!? 気でも狂ったか!?」
ニールセン公の声はアレックスに届いていないようであった。
ドレッサーから衣装部屋までありとあらゆるものをひっくり返すも、探している物は出てこない。
(九条さんが嘘をつくとは思えない……。ならばそれは奪われたと考えるのが妥当……)
アレックスとレナは婚約公示期間中、部屋から出ることを許されていない。ならば誰かに持ち出されていない限り、念珠はこの部屋になければおかしいのだ。
「レナは自害なんかしていない! 何者かに殺されたんだ!!」
こんな時にも拘らず、ニールセン公はそれを聞いて笑みを浮かべてしまった。
突拍子もないことの言うアレックスが滑稽だったからではない。諦めず、僅かなヒントからその答えに辿り着いたからだ。
しかし、それも誰にも悟られないようなほんの一瞬。
さすがは自分の息子だと褒めてやりたい気持ちをグッと押さえたニールセン公は表情を引き締めると、屋敷に怒号を響かせた。
「今よりこの屋敷を封鎖させていただく! 許可なき者の出入りの一切を禁ずる!」
予想外の宣言にざわつく貴族たち。その中から姿を見せたのはヴィルヘルム。
「少々お待ちくださいニールセン公。なんの権利があってそのような事を? レナ嬢の自害がショックなのは理解しますが、それが他殺であるとは……。何か証拠でもあるのですか?」
「僕がお答えしますヴィルヘルム卿。レナは腕に赤いブレスレットをしていたはず。それがないのです。僕たちは部屋を出ることを禁じられている。ならばそれは、レナを殺した罪人が奪っていったと考えるのが道理でしょう」
「なるほど確かに……。ですが、御両親も存在を知らないブレスレットなぞ本当にあったのですか? アレックス殿の妄想では?」
ヴィルヘルムの言葉に顔を歪ませるアレックスであったが、そこで手を上げたのは一人の使用人の女性。レナの身の回りの世話を任されていた者だ。
「発言をお許しください。昨晩、レナ様は確かに赤いブレスレットをしておりました。ご結婚のお祝いを賜ったのだと仰っていたのを記憶しております」
「ふむ……そうでしたか。それは失礼いたしました。ならばそのブレスレットとやらを持っている者が罪人であるということで、早急に我々の荷物検査をしていただきましょう。そして我々の身の潔白が証明されればすぐにでも帰国させていただく。この分ですと結婚式は中止でしょう?」
「いいや。待たれよヴィルヘルム卿」
「なんです? 葬儀の御予定でもお決まりになりましたか?」
ヴィルヘルムは無表情を貫いているが、ニールセン公に向けた言葉は間違いなく皮肉であった。
アレックスに見抜かれ、思い通りに事が運ばなかった苛立ちの表れでもある。
「ヴィルヘルム卿には迷惑を掛けるが、ブレスレットが出てこなくとも帰国は許可できん。罪人の特定までは御滞在していただこう」
「言いたいことは尤もです。ですが、我々が帰らなければそれこそ一大事になってしまうのでは? 不審に思った我が国が、すぐにでもこの街に軍を派遣して来るかもしれません。それも今までの小競り合いなどではなく本気で……。街一つと我々の帰国。天秤にはかけられぬでしょう?」
「結構だ。それでもあなた方を帰す訳にはいかぬ。我が国の貴族たちを一時的とはいえ拘束するのだ。他国の使者だからと優遇はせず対等に扱わせていただく。どうかご理解いただきたい」
頑なに譲らないニールセン公。その毅然とした態度は、まさに公爵。ヴィルヘルム相手に一歩も引こうとはしない。
だが、アレックスはそれに違和感を覚えていた。
(ヴィルヘルム卿の言う通りだ……。普段のお父様なら、真っ先に考えるのは国の利益のはず……。使者たちを帰し、街を守る事の方が最優先のはずなのに……。僕のことを気に掛けてくれているのか、それとも……)
月城 蓮桜音
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#ロマンスファンタジー
花月夜れん
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こはる
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コメント
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うわああああ!!😭💔 第405話、衝撃すぎるよ…! レナ様が自決じゃなくて**他殺**だったって気づいたアレックスの推理、痺れた…!!一瞬、絶望で死のうとしたのに、九条さんの言葉で踏みとどまって冷静になって、「念珠がない」って気づく流れ、天才か!!しかもニールセン公も息子の推理を信じてヴィルヘルム卿に立ち向かう姿、めっちゃ熱い🔥 ヴィルヘルム卿…このタイミングで帰国迫ってくるの絶対怪しいよね…?次回が待ちきれないよ!!🌸