テラーノベル
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「昨日のこと、覚えてない……?」
翌日、奇跡的に雨が降り続いていた。
時計塔の下で再会した元貴は、昨日の喫茶店で体が透けかけたことなどなかったかのように、穏やかに笑っていた。
「ごめんね、若井くん。
僕は時々、自分でも自分がわからなくなるんだ。
不甲斐ない僕が、雨の中に溶けていっちゃいそうで」
元貴はそう言って、
若井の差す傘の中に一歩踏み込んだ。
狭い傘の下。肩が触れ合う距離で、若井は元貴の体温を感じようと意識を集中させる。
けれど、感じるのは温もりではなく、雨上がりのアスファルトのような、どこか懐かしくて冷たい静寂だけだった。
「元貴さん。
……俺、昨日、古い写真を見つけたんです」
若井はポケットから一枚の複写を取り出した。
大学の図書館の郷土資料に紛れていた、50年前の時計塔落成式の写真。
そこには、今と全く変わらない姿で微笑む元貴と、彼の背中に差された一本の、古びた「青い傘」が写っていた。
「これ……元貴さんですよね?
なんで、50年も前から姿が変わってないんですか」
問いかけた瞬間、雨脚が強まった。
元貴の瞳が、雨粒を映して銀色に揺れる。
「……若井くん。独りきりでいることに慣れすぎるとね、時間は止まってしまうんだよ。
この雨は、僕の涙。街が僕を忘れないように、空がずっと泣いてくれているんだ」
元貴が若井の手首をそっと掴む。
その指先は驚くほど細く、体温奪ってしまうことを恐れるように、すぐに離された。
「僕は、この街の『忘れ物』なんだ。
雨が降る間だけ、誰かの記憶に触れることができる……。
でも、若井くん。
君が僕を見つけてくれたから、僕の時計は少しだけ、未来に向かって震え始めた」
その時、二人の背後で、
時計塔の鐘がゴーンと重く響いた。
雨の中に、本来聞こえるはずのない、子供の笑い声や遠い日のハミングが混ざる。
若井は、傘を持つ手に力を込めた。
「忘れ物だろうと何だろうと、俺が離しません。雨が止んでも、俺があなたの傘になります」
若井の言葉に応えるように、
空に小さな光が差し込んだ。
雲の切れ間から一筋の陽光が地面を叩く。その光が元貴に触れた瞬間、彼の足元から、銀色の飛沫がキラキラと舞い上がった。
「……あ」
陽光に焼かれるように、元貴の姿が薄くなっていく。
若井は咄嗟に彼を抱きしめた。
腕の中に残ったのは、確かな「愛おしさ」と、びしょ濡れのシャツの感触だけだった。
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け 〜 ち ゃ ん .
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コメント
8件
語彙力がありすぎて、物語の背景とかがよりリアルに想像できてとても物語を読むのが楽しいです! 続き楽しみにしてます🫶
やっぱり文章に圧倒されます…😖✨ 本当にどんどん主様の沼に引き込まれる……🫠
あ、そゆこと!? やっと頭の中の歯車が回りだしたw