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「お待たせ」
何も無かったかのように鈴木が戻ってくる。薪は上半身を晒すのが嫌だったため、鈴木のものである毛布にくるまっていた。
「⋯何してんの?」
鈴木は薪に問いかけた。
「俺は上半身をあまり人に見られたくない、ただそれだけだ。」
薪は鈴木の目を見ず、どこかを見つめながら言った。その姿はどこか怒っているようにも見える。
「あー⋯さっきの怒ってる? ごめんって⋯もうしないからさ、 ほら着替え」
「そうじゃない!!」
鈴木の言葉を遮って、薪が声を荒らげた。
「⋯っ自分の感情に失望したんだ!!」
薪は しまった、と思った。今まで明かしていなかった感情を、鈴木に言ってしまったのだ。
「⋯薪。どういう感情なんだ?その失望した感情は」
「⋯っ」
薪は言葉を詰まらせ、机に突っ伏して寝る子供みたいに毛布に顔を埋めた。すると鈴木はゆっくりと薪に近づき、薪の腕を持った。薪の顔が露になる。
「言わなきゃ、分からないでしょ?」
鈴木は困ったような、心配するような、やはり駄々をこねる子供を見ているような。そんな優しい微笑みを向けながら薪に言った。薪は あぁ、この人に隠し事をしても無駄なんだ、と思った。
「⋯」
薪は諦めたように ふ、と笑った。そして薪は鈴木の唇にキスをした。それは1秒も満たない。それでも鈴木にとって10数秒時間が止まった、そんな感覚だった。
「⋯俺も酔ってるのかな」
薪は苦しそうに、その反面やり切った、というように笑った。
「⋯」
鈴木はただひたすらに驚いていた。薪の行動に。そしてその行動は不快ではなくむしろ快感だったことに。親友の唇が自分の唇に触れた。ただその事実だけが心をざわつかせた。そうして薪はしまった、というようにハッとさせた。
「⋯すまなかった 着替え、ありがとう」
薪はそう言って立ち上がろうとした。そのとき
ガタンッ
鈴木は再び薪の腕を捉えた。そしてベットに押し倒した。
「いっ⋯鈴木!!」
薪は少し痛そうにしながら困った顔で鈴木をみた。
「⋯たよ」
「⋯は?な、なんだ」
「不快ではなかったよ」
鈴木は真剣な眼差しで薪をみた。その目にはしっかりと薪が映っていた。
「⋯」
薪は驚きと恥ずかしさで頭がいっぱいだった。というのも今の体制は親友同士であってはならない、普通男同士でならない、その体制だった。薪は体が汗ばんでいくのがわかったが、それは毛布の暑さか部屋の暑さかそれとも他の何か分からずにいた。
「すず⋯き」
目を、逸らせない。身動きが取れない。鈴木にがっちり繋がれた手は動かすことが出来なかった。そして鈴木は薪の首にキスをした。それは何か大切なものを触れるように、壊さないようにしているようなものだった。
「⋯ん」
薪は思わず声が漏れる。薪は触られても大丈夫なタイプでは無い。同時に鈴木の息が上がっていくのを感じた。そして今度は口に、キスをした。やけにキスの生々しい音が部屋に響いた。
長く、甘い、接吻(キス)。鈴木は薪の上唇を噛むようにするキスを何度も繰り返す。唇の感触が心地よい。と、ようやく鈴木の唇が離れる。
「は」
慣れないキス。薪は苦しそうに息を吸った。薪の目じりが煌めく。それは滲んだ涙が間接照明の光を反射しているものだった。
「あ⋯」
鈴木は薪の涙に気づく。
「ご、ごめん薪⋯俺思わず」
と、鈴木の言葉をとめたのは薪のハグだった。弱々しい、ハグ。鈴木は思わず薪の隣に寝るようにして抱きしめ返す。
「⋯まだ酔ってたから」
鈴木は思わず言い訳をする。酔っていたのは事実でもあったが、泥酔というほどでは無かった。薪は一言も発しなかった。鈴木はどうすればいいのか分からず窓を見た。窓の外には光り輝く月があった。そういえば今日はスノームーンだっけ、などと鈴木は思う。今日は月が綺麗だな、とでも言えばいいのか。そう思ったが、今は違うと判断し辞めた。
「⋯」
薪はぎゅ、と先程よりも強く、鈴木の服を強く掴む。まだ離れるな、そう訴えかけているようにも見えるその仕草に鈴木も抱きしめる力を強くする。ちょうど深夜1時を回った。薪はこの感じだときっと寝落ちをするだろう。
「⋯月」
「⋯ん?」
「⋯月、綺麗だな」
薪はいつの間に見ていたのだろう。鈴木は思わず笑みをこぼした。