こんあめ〜、後編というか木兎さん視点!!
れっつごー!!
今までで一番、打ちやすいトス。
こんなセッターがいるのかと、感動で手のひらが震えた。
そしてそれが、他でもない赤葦京治その人であることを、俺は何度心から喜んだだろう。
赤葦は、俺のことをよく分かっていてくれた。
その日の気分、体調、いろんなものを考慮して、打てるだけじゃなく打ちやすい、打っていて気持ち良いトスを上げてくれる。
ずっと、ずっとずっとずっと、俺の隣に本当に寄り添ってくれていたのは、きっと赤葦だけなんだろうと思う。
赤葦にだけは、何一つ遠慮せず俺の全てをぶつけられた。
そしてそれが当たり前だと思っていた。
でも、そうではなかった。
山形に弧を描いて赤葦の手元に吸い込まれたボールが、上がらずにあいつの指先を弄び、ころりと床に転がる。
ボールがバウンドする乾いた音が響く中で、きっとあいつは俺以上に驚いていた。
動かない手。
上がらないボール。
セッターにとって、きっとすごく恐ろしいもの。
「木兎さん、俺…もう、トス上げられません…」
赤葦はいつも通りの声音を装って、今にも泣き出しそうな顔で囁くように言った。
その気遣いと努力が辛かった。
それからは部活にこそ来ているけれど急速に憔悴していって、やがて来ない日が増えていった。
それが何を表しているのか、馬鹿な俺でも想像に難くないのに。
壊れていくあいつを、俺は何もできないまま眺め続けるだけだった。
何度か、体育館裏で吐いている赤葦を見た。
心底辛そうで、くしゃくしゃの髪を掴んで必死に何かに耐えていた。
声をかけたところで、その辛さを取り去ることはきっと俺にはできない。
トスを上げられないセッターの、その辛さを知らない俺には、きっと。
何度も、声をかけようとして、声が出なくなった。
大丈夫、とか、頑張れ、とか、そんなのは言えるはずもなくて、俺は今まで一番赤葦に頼ってきたくせに、一番遠い場所にいる傍観者に甘んじていた。
怖い。
すごく怖かった。
あいつがトスを上げられなくなってから、何度も考えていた。
俺が傷ついた時も、他の奴がしくじった時も、あいつは全てをフォローし励まし、俺たちに前を向かせる。
でもじゃあ、あいつは?と。
あいつが苦しい時、俺たちは一体何ができる?と。
今の状況がその答えなんだろう。
俺たちは赤葦に、何一つ出来やしなかった。
「いい加減に…!喋ってよ!!」
感情に任せてそう叫んだ瞬間、赤葦は身体中の血液が冷えるような光をその両目に湛えて、心底悲しそうで、心底悔しそうな顔をしていた。
そしてふいに口を押さえたと思えばぐらり、と傾いて、咳き込むように赤い花びらを吐いた。
吐血するように、絶え間なく零れ続ける花びらを絶望に満ちた目で見つめ、祈るように少しの間目を閉じてから、俺を抱きしめ返して搾り出したような声で呟く。
「ぼくと、さん…すき、でした…っ」
まるでそれが最後のひと足掻きだったように、背中に回されていた腕から力が抜けていく。
あぁ、神様。
もし本当にいるのなら、今の俺たちを見ているなら、どうか赤葦を連れて行かないで欲しい。
俺は間違えた。
間違えすぎた。
こんなに俺に尽くしてくれた赤葦を最後に少しも救うことができないまま、絶望のうちに死なせるのだけは、どうかやめてあげて欲しい。
今、ようやくこの言葉を聞いて、俺は赤葦が好きだったんだろうと思った。
いや、きっと今この瞬間も好きだ。
薄く赤葦の目が開いて、少しだけ腕に力がこもって、やがてゆっくりと全身が弛緩していく。
また、咳き込む。
絶望色の黒い花が、赤葦の口内から溢れ出る。
それを見て嫌そうに目を閉じて、赤葦は俺の腕の中で動かなくなる。
いつも俺を温めていてくれた体温が、徐々に無機質な冷たさを持ち始める。
「なんで、なんだよ…!」
涙がゆっくりと俺の頬を伝って、赤葦の体へ落ちる。
俺は焼き付ける。
これまでの、今の、いろんな赤葦を見てきた。
でもいざとなったら、俺には何一つできなくて、自分の無力を思い知った。
それでも、足りない。
どれだけ悔い改めても、赤葦はもう戻ってこなくて、赤葦の時間は俺への絶望で止まっている。
それを償い切ることなんて、できる訳もない。
それをしようと思うこと自体、赤葦への冒涜だ。
なら、俺は、俺だけは、他の誰もが忘れ去っても、お前を覚えている。
赤葦京治という人間を構成していた全てを、俺がこの体に刻みつけている。
お前の声を、目を、体温を、何度でも思い出す。
「あかーしー…ごめん、ごめんなぁ……俺も…大好きだよ……」
あともう少しだけ、一緒に居たかった。
もっと、笑顔が見たかった。
辺りに散らばっている黒い花をそっと拾う。
喉の奥から何かが込み上げてきて、俺も、綺麗で黒い花を吐いた。
「大好き…」
他の奴らが何かを叫んでいる。
でももう関係ない。
そっと赤葦の隣に寝転がって、手を握って目を閉じる。
睡魔に逆らわず、優しい眠りに堕ちていく。
俺もです、と微かな声が聞こえて、柔らかな空気に包まれたまま、俺は赤葦を今度こそ追いかける。
綺麗な目が俺を見つめる。
俺も、その目を見つめ返す。
「もう、いいんですか?」
ちょっと笑って、おかしそうにお前は囁く。
「あぁ…もういいよ。あかーしが居れば…俺にはじゅーぶん」
何度かまばたきをして、また照れたように微笑む。
「それじゃあ、いきましょうか」
「…うん」
きっとこれは、許されないことだ。
でも、それでもどうか、少しの間でいいから、嬉しそうな赤葦の隣に立っていたい。
「……あかーし」
はい、とお前が振り向く。
ごめん、と言おうとして、口をつぐんだ。
そしてもう一度息を吸って、吐いて、口を開く。
「…大好き」
さっきまで抱きしめていたのになんだかもう懐かしいような気持ちで、俺はまたお前に抱きつく。
微かに身じろぎしたのが伝わってきても、お構いなしに腕に力を込めていく。
「…木兎さん、痛いです」
慌てて力を緩めると、ふっと笑って逆に強く、強く俺を抱きしめた。
ありがとうございます、と耳元で優しい声がした。
俺は、俺たちはきっと、地獄の果てでも一緒に歩ける。
「俺も、あなたが大好きです…!」
他の何が消え去っても、俺たちだけは、互いの手を離さないで居たいから。
「ん、俺も」
優しい声に包まれて、俺たちはこの世に別れを告げた。
うーん、ハッピーエンドなんだかバッドエンドなんだかよく分かんねぇな!
とりまこれで完結ということで!
短くてごめんね…💦
それじゃ、もしよければ、♡、フォロー、コメント等してくれると嬉しいです!!
おつあめ〜!!
コメント
9件
ええ!!これってハピエだよね?!!良かったァ!! 兎赤の恋を実ってたよォ?!