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おそらく寝室へと向かっているリューを見上げ私は言う。
「リュー、恥ずかしいからもう下ろしてください!」
「体調が悪いと、なぜ言わなかった」
その声からはやはり怒気が感じられて言葉に詰まる。
と、彼は近くにいたメイドさんに声を掛けた。
「身体を冷やすものを寝室へ。それとセレストに医師を呼ぶよう伝えてくれ」
「は、はい! すぐに!」
そのメイドさんが急いで駆けて行くのを見て慌てる。
「お医者さんを呼ぶほどじゃ」
「いつからだ」
被せるように訊かれて、私は正直に答えていく。
「……起きた時にちょっとおかしくて、でもメリーに癒しの魔法をかけてもらって治ったと思ったんですが」
するとリューは眉間の皴を更に深くして黙ってしまった。
……これは、ひょっとしてかなり怒っているのかもしれない。
自分から参加したいと言っておいて、こんな醜態を晒して、大事な会議を中断させてしまった。
情けないったらない。
それから無言のまま寝室に着くと彼は私を優しくベッドに下ろしてくれた。
「ありがとうございます。……あの、早く会議に戻ってください」
でもリューは私の手を祈るように両手で握るとそのまま顔を伏せてしまった。
「リュー?」
「気付けなくて、すまなかった」
「え?」
「朝、俺が気付いていれば……」
怒っていたのかと思ったけれど。
(もしかして、すごく心配させちゃった……?)
「い、いえ、ほんと全然大したことないですし、少し横になっていればすぐに治ります。なので早く会議に」
「会議なんてどうでもいい」
呻くように言われてびっくりする。
「よくないですよ! 皆リューを待ってますから!」
「そうですよ、陛下」
急に入ってきた至極冷静な声。
リューが険しい目つきでその主に視線を移す。
「セレスト、医師は」
「陛下を会議室へお送りした後すぐに手配いたします」
セレストさんの後ろにはローサがワゴンを手に待機しているのが見えた。
「リュー。行ってください」
「……」
再度言うと、リューは一度重い溜息を吐いてから私の手を離した。
「会議が終わったらすぐに戻る。ちゃんと寝ていろ。欲しいものがあったらすぐに誰かに伝えるんだぞ。あぁそれと念のためもう一度あの妖精に癒しの魔法を」
「わ、わかりましたから!」
少し強めに言うとリューはやっと渋々という顔で寝室を出て行った。
それを見送って一息吐く。
(もう、ふたりも見てるのに……)
「頼みましたよ」
「かしこまりました」
セレストさんがリューを追い、ローサがワゴンを押して寝室へ入ってきた。
「お加減はいかがですか、コハル様」
「ありがとう。少し熱っぽいだけで大したことはないんだけどね」
苦笑しながら答えると、ローサは私に一杯の水をくれた。
お礼を言ってそれを飲んでいると彼女が小さく笑った気がした。
「ローサ?」
「あ、いえ……コハル様は本当に陛下に愛されていらっしゃるのだなと。あんな陛下初めて見ました」
微笑ましげに言われて、恥ずかしさでまた顔の熱が上がった気がした。
それを誤魔化すために残りの水を全て飲み干してから小さく言う。
「でも、ちょっと過保護っていうか、心配しすぎじゃない?」
「陛下にとって、コハル様の存在がそれだけ大きいということですわ」
何も返せず再び横になると、ローサは私の額に水で絞った布をのせてくれた。
ひんやりとして気持ちがいい。
「コハル様がこの城に来られてからというもの、陛下の印象は大きく変わりました」
「え?」
「それまでの陛下は、常に厳しいお顔をしていらっしゃいましたから」
ローサと初めてお喋りした日、それを聞いてびっくりしたことを思い出す。
「ですから、先日陛下の笑顔を見た時は本当に驚きました」
「あぁ、あのときの……」
するとローサはまたふふっと笑った。
「アマリーがそのことを皆に話したようで、いつまた陛下の笑顔が見られるだろうと実は皆楽しみにしているんですよ」
「そうなの?」
そんなことになっているとは思わず、私もつい笑ってしまった。
と、ローサがとても優しい目をして続けた。
「コハル様がこの城に来てくださって本当に良かったと私ども使用人皆そう思っております」
「え……?」
「ですから、陛下のためにも、私どものためにも、早く良くなってくださいませね」
熱のせいか、鼻の奥がつんとして涙が出そうになってしまった。
「うん……ありがとう」
「コハルさま~~!」
そのときバンっと勢いよく内扉が開いてメリーが飛び込んできた。
「大丈夫なのですか!? お庭を散歩していたらコハル様が倒れられたと聞いてすっ飛んで来ました!」
メリーが泣きそうな顔で私の枕元に降り立って私はそのもこもこを優しく撫でた。
「大丈夫。ちょっと熱が出ちゃっただけ。というか倒れてなんてないし、なんか大事になってない?」
熱のせいとは違う冷や汗が出てきた。
「大事にもなりますわ。コハル様はこの国にとって大事なお方なのですから」
「その通りなのです! 熱が下がるかわかりませんが、メリーがすぐに癒してさしあげます~!」
そうしてメリーに癒しの魔法を掛けてもらうと身体が楽になって、それから眠気がやってきた。
やはり昨夜は眠りが浅かったのかもしれない。
それに皆の優しさに触れて、昨日までの不安が大分和らいだ気がした。
向こうの世界には帰れなくなってしまったけれど、此処にはリューやメリー、セレストさんやローサたちが居てくれる。
このあったかい場所なら、きっと大丈夫。――そう思うことが出来た。
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