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コメント
1件
うわあ、今回めっちゃ面白かったです…! 凡子さん、作者様から直接メッセージ来るって昇天モノですよね😂 私も推し作家から連絡来たら多分同じリアクションしちゃう。「死んでもいい」って本気で叫びそう。泉堂さんとの約束をバッサリ忘れる感じも凡子さんらしくて笑っちゃいました。次どうなるのか気になりすぎます…!
#シンママ
沙華やや子
548
紫倉 紫
457
つむぎ @1年前受験生
232
ruruha
665
新年度開始の日から、蓮水副部長を一度もみかけないまま、金曜日の仕事が終わった。
しかし、凡子には落胆している時間はない。優香からの情報に加え、瑠璃からはメイクのテクニックを伝授してもらうことになった。
凡子はまったく気づいていなかったが、瑠璃のかわいさは、メイク技術の賜らしい。
SNSで女子が欲しがる情報を発信して、その間に『五十嵐室長はテクニシャン』の宣伝を挟む。もちろん、他の、少しだけ気に入っている小説の宣伝も入れつつ、その中でも一押しは『五十嵐室長はテクニシャン』だと、PRしている。
引き立て役は、世の中に必要なものだ。今の受付の人員にしたって、凡子がいるから、瑠璃のかわいさと、優香の美しさが目立つのだ。凡子は自分の立ち位置を別に悲観していない。人の目を引くと、なんとも思っていない相手にしつこく誘われ、余計な時間をとられる。
泉堂のように、蓮水副部長の貴重な情報をくれる相手ならまだしも、何のメリットもない相手に時間をとられたくない。
凡子は「わたしの人生は、五十嵐室長に捧げる」と本気で思っていた。
とにもかくにも今は、『五十嵐室長はテクニシャン』の読者獲得のために奔走するしかない。
五十嵐室長は、もっと多くの人に愛されるべき存在なのだ。推しの良いところは、たくさんの人と分け合えることだ。恋人となるとそうはいかない。
明日は、休日のモーニングを開拓する日だ。どこへ行くかまだ決めかねている。
夜九時をまわった頃、泉堂からメッセージが来た。
『元気にしてる?』
体は問題ないが、精神的には絶好調とはいえない。
『それなりに元気です』
『それなりならいいよー僕なんて、疲れ切って心も体もぼろぼろだよ』
何時に来て何時に帰っているかも知らない。お昼ご飯を外に食べに行く余裕がない状態なのは、察していた。
『明日なんだけど、会えない?』
『夜ですか?』
フレンチのディナーは、予約しておいた方が良さそうだ。まだ、席はあるだろうか。
『あー、ディナーじゃなくて、どこか甘い物食べに行きたくて、付き合ってもらえないかな』
凡子は返事に迷っていた。泉堂には会って探りを入れたいこともある。桜まつりの後、どこまでつけられたのか気になっている。
『スイーツですね』
『そう、一週間頑張ったご褒美的なやつ』
凡子はスマートフォンに表示された文字を見つめながら「い、一週間頑張ったご褒美のスイーツ……それいい、いける」と、呟いた。
モーニング開拓ももちろん悪くないが、ご褒美スイーツの発信は、きっと喜ばれる。
『行きます! どこか、おすすめあるんですか?』
泉堂にそう返したすぐ後に、SNSからの通知が届いた。ダイレクトメッセージが来たようだ。滅多にないので気になり、凡子はすぐに覗きに行った。
『REN』というアカウントからだ。メッセージより少し前に、フォローもしてくれている。
「フォローのご挨拶かしら」
時々、丁寧にメッセージをくれる人がいる。
凡子はダイレクトメッセージのページを開いた。
『 はじめまして。突然のメッセージ、失礼します。
RENこと、水樹恋と申します。』
最初のふきだしの中を読んで、凡子は「ほぅひゃー」と、変な声を出した。鼓動が速くなり、顔が熱くなっている。
書き込み中の表示が出ている。凡子はモコモコと動く・・・を見つめていた。
ポスっと音がして、メッセージが表示された。
『こちらのお名前はNAMICOさんにされてますが、七海子さんですよね?
違っていたら、ごめんなさい。
折り入ってお願いがあり、メッセージしました。
少し、こちらでお話しできたらと思っています。
よろしくお願いします。』
凡子は、送られてきたメッセージを凝視していた。
作者本人からメッセージをもらえたのなら、昇天するくらいの大事件だ。しかし、相手がもし、作者を騙る不届き者なら許しておけない。
このメッセージだけでは、真偽の判断は難しい。
凡子はひとまず、返信することにした。
『 こちらこそ、初めまして。
あの、水樹恋様でお間違いありませんか?
憧れている方からメッセージをいただいて、夢かもしれないと、少し戸惑っています。』
考えてみると、もし、本物だとしても、証明するのは難しそうだ。仮に、本物だったら、疑うこと自体が失礼になってしまう。
メッセージのやり取りくらい、本人からもらえたと信じて、楽しめばよかったと、凡子は後悔した。
『SNSで、いきなり話しかけられたら、やっぱり警戒しちゃいますよね。
いつも応援してくださっている七海子さんに、喜んでいただけるものをご用意しております。
いつ、反応いただけるかわからなかったので、まだ、保存状態にしてありますが、この後、すぐに、最新話を公開します。
五十嵐室長が、書店で心理学の本を探すシーンがあるので、ご確認ください。』
公開前の最新話の内容。
これほど確かな証拠はない。こうやって書き込んだ時点で、なりすましのわけがないと確信した。
『更新いただけるんですね!
ありがとうございます。涙が出るほど嬉しいです。
すぐ、拝読します。』
凡子はSNSを離れ、投稿サイトを開いた。
メッセージの予告通り、最新話が公開された。
「やばいやばいやばい」
更新も嬉しいが、正真正銘、作者の水樹恋からメッセージがもらえたのだ。
凡子は立ち上がって、歩き回りながら最新話を読んだ。
書店のシーンがあった。
凡子はすっかり他の言葉を忘れてしまい、ひたすら、「やばい」と呟き続けていた。
読み終わり、凡子は、いつも通りサイトにコメントするか、SNSでメッセージするか迷った。
『五十嵐室長はテクニシャン』の全ページに自分の足跡を残す。それは譲れない。
SNSにまず、『サイトにコメントをするのでしばらくお待ちください。』と、書き込んだ。
あまり待たせるわけにもいかないので、今回の感想はあっさり目だった。ただ、忙しいなか更新してくれたことへのお礼はきっちりと書いた。
『お待たせしました』
SNSでダイレクトメールを送った。
『ご満足いただけてよかったです。
七海子さんのコメントには、以前からすごく励まされてました。
最近、定期更新ができていなくて、本当にごめんなさいね。』
「わたしの想い、作者様に、ちゃんと届いてた! 今、死んでもいい。むしろ、死にたい」
凡子はスマートフォンを抱きしめながら声を上げた。
「はっ、すぐにお返事しなくては!」
『とんでもございません。わたしなんて、コメントで感謝をお伝えすることしかできず。恋様からいただいている物の何千分の一もお返しできていません。』
『私の方こそ、七海子さんには本当に感謝してます。今日、こちらにお声かけした理由なんですけどね。本当に私の小説を愛してくださっている七海子さんに、お願いしたいことがあるんです。』
『はい、わたしにできることなら、何でもさせていただきます』
凡子は即答した。
『SNSのお写真を見る限り、都内にお住まいだと思うんですけど、私も都内なんです。そこで、一度お会いできないかと。七海子さんにご相談に乗っていただきたくって。無理でしょうか?』
凡子は「無理無理無理ー、作者様と会うなんて無理ー」と叫んだ後で『わたしで良ければ』と書き込んだ。
すぐに作者から『嬉しい。本当に今、私悩んでいて、もう、書き続けることができないかもって思うこともあって』と、返ってきた。
これは『五十嵐室長はテクニシャン』のファン仲間のためにも、ひと肌もふた肌も脱がなければならないと、凡子は思った。
その時、スマートフォンが震えた。
泉堂が、メッセージアプリの通話機能をつかって、電話してきたのだ。
凡子は、泉堂と明日会う約束の途中だったことを、すっかり忘れていた。