MIGI♡SAKU

【sk】

蓮と付き合いだしてから約２週間。

数ヶ月に渡り押しに押されて絆されて、気付いたら俺も好きになっちゃってた。

付き合い自体は順調で、良好な関係を築けている。

…が、蓮の言動には悩まされることも多かった。

「佐久間くん、トイレ行くの？」

ああ…今日も始まった。

「ほら、手繋いでこ」

「…トイレぐらい１人で行かせてよ」

断るときょとんとした顔をして、なんで？と本当に分かっていない様子の蓮に頭を抱える。

「こらめめ、佐久間子供じゃないんだからあんまり過保護にしないの」

「そんなつもりじゃないんだけど…」

阿部ちゃんが助け船を出してくれて、蓮も大人しく引き下がったのでそそくさと部屋を出る。

付き合うことになってから、待ちきれなかったのかグループラインでお付き合いを即報告した蓮。

みんな猛アタックを知っていたから特に驚きもなく受け入れてくれたけど、まだ心の準備ができていなかった俺は、明日からどんな顔してみんなに会えばいいのかと悩みに悩んだ。

メンバー以外の人がいるときはある程度弁えてくれるけど、メンバーだけの空間になるとずっとべったり。

アピールとかじゃなく、こうしてることが普通ですと言わんばかりにいつも側にいる。

くっつくのは好きだけど、みんなの前で甘い空気を作られるのはどうしても気恥ずかしかった。

メンバー同士の戯れと恋人同士の戯れとでは天と地ほど違う。

蓮の激しすぎるスキンシップは二人っきりの時でさえ恥ずかしいのに、みんなの前でなんてもはや拷問。

トイレを済ませて歩いていると、楽屋のドアの前に照が立っているのが見えた。

誰かと電話していたのが丁度終わった所だったようで、中に入る前に急いで声をかける。

「照っ！」

「佐久間？どしたの？」

こてんと首を傾げる照の腕を取って、お願いする。

「多分俺、戻ったら蓮の膝の上座らされちゃう」

「うん？そうだね」

当たり前みたいな顔してそうだねって…なんで俺より先に順応しちゃってんの？

「俺！あれ恥ずかしいの！守って！」

「えー…守ってって言われても…」

「肩組むとかおんぶするとかなんかあるじゃん」

「怒られたらやなんだけど」

「照だったら誰も怒らないから適任なの！」

俺等にはニコイチって武器があるんだから！

イヤイヤ言ってる照の背中に無理矢理よじ登って楽屋のドアを開けさせる。

「ねえ誰か佐久間剥がしてー」

いきなりの裏切りに耳を疑う。

「なんで！たまにはいいじゃんか！」

落とされないようにぎゅーっとしがみつく。

その時、全員の視線が蓮に注がれていたことには気付いていたけど、こっちだって必死。

今日はメンバーと穏やかに過ごすって決めたの！

みんなからの視線を受ける中、蓮がこっちに歩いてくる。

絶対離れない！と力を込め続けていると、カシャッとシャッターを切る音が聞こえた。

「佐久間くん、こっち向いて」

「…え？」

カシャッ。

スマホを構えた蓮が写真を撮っている。

「岩本くんにくっついてる佐久間くん可愛い♡」

何言ってんの？

「…目黒ってやきもちとか妬かないの？」

みんなが思っていることを照が代弁してくれた。

嫉妬の化身はこの状況で喜んでいる蓮のことが理解できないらしい。

「やきもち？岩本くんに？ないよ」

そんなつもりでくっついていたわけではないけれど、そんなにあっさり言われるとちょっと傷付く。

「大好きな人が可愛い犬と戯れてたら可愛いって思うでしょ？そんな感じ」

どんな感じ？

照は照で可愛いって言われてちょっと喜んでるのなんなの？

犬って言われてんだよ？

「もしかして妬かせようとしてそんなことしてるの？」

ハッとして急いで照から飛び降りる。

もしかして怒ってる…？

「ちっ、違う！いつも蓮とばっかりくっついてるの恥ずかしかったから…！」

「なにそれ、かわいい♡」

心配は杞憂だったみたいで、正面からぎゅっと抱き締められた。

あぁ、なんでいつもこうなっちゃうんだよ…！

「俺、こうゆうの本当に恥ずかしいから！」

「うん、ごめんね」

謝るんなら離せよ！

蓮の胸を押して離れようとするがびくともしない。

「めめさ、四六時中愛情表現してないと死んじゃうん？」

「そうかも、上手いこと言うね」

助けようとしてくれた康二の発言も一蹴されてしまう。

「死んじゃうなら仕方ないね、諦めなよ佐久間」

阿部ちゃん…！今まで１番フォローしてくれてたのに！

「俺ら犬らしいし、気にしなくていんじゃない？」

お前は可愛いって言われただけで懐柔されちゃったの！？

「仲がいいのはいいことだよね」

「めめと佐久間くんが仲良しだと僕も嬉しいよ♡」

「さくちゃんも早く慣れなよ」

「節度は守れよ」

次々と蓮を支援する声が上がって俺の味方はいなくなった。

「みんな応援してくれて俺達幸せ者だね」

本当に幸せそうな顔で笑うから何も言えなくなる。

恥ずかしいだけで、嫌なわけではない。

嫌なわけではないけれど、この調子でいずれはスタッフ、共演者、最終的にはファンのみんなにも公言してしまうんじゃないかと怖い考えが頭をよぎる。

じわじわと外堀を埋められているような感覚。

不安になってもう一度蓮を見上げると、純度100%のキラキラの笑顔を向けられた。

どれだけ本気で悩んでいても、この笑顔を見るといろんなことがどうでもよくなってしまう。

「大好き♡」

１日に何度も繰り返し囁かれるこの台詞。

とんでもない人を好きになってしまったな…

この笑顔と声だけで全てを許せてしまえるから、本当に厄介。

恥ずかしくても、困惑しても、結局は蓮のペースに飲まれてしまう。

それすらも本気で嫌とは思えないぐらいには、もう蓮にハマっちゃってる。

一つ溜め息をついて、蓮にだけ聞こえる声で呟く。

「…俺も好き」

瞬間、蓮の目が輝いて今日一番の眩しい笑顔が降り注いだ。

ぽかぽかする陽だまりみたいな暖かさは、簡単に人の心を溶かしてしまう。

俺が完全に落ちちゃう日もそう遠くはなさそうだなと、半ば諦めに近い笑みを浮かべて、蓮の胸に体を預けた。