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MIGI♡SAKU

第4話 - 【💚】君に染まる

2025年04月15日

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cham

【ab】

寝ようとしていたところにいきなりかかってきた電話。

画面に表示されていたのは、１番会いたくなくて、１番会いたかった人の名前。

「…もしもし」

『あっ、阿部ちゃーん！』

夜の遅い時間とは思えないほどの元気な声。

でもその声はどこかふわふわしてる。

「飲んでるの？」

『んー？うーん…うん！飲んでる！』

どっちだよ、と笑うと電話の向こうでも嬉しそうに笑う声が聞こえた。

『阿部ちゃん、迎えに来てよ』

「は？やだよ、タクシー使えば？」

俺今から寝るとこだったんだけど？

即答で断ってしまったけど、遠慮のないこの距離感に喜びを感じている自分もいる。

『タクシー呼んでもいんだけどさ、声聞いたら会いたくなっちゃった』

誰にでも使う思わせぶりな言葉。

断った方がいいのは分かっているのに、別の誰かにまた同じことを言うのかと思うと、なんだかもやもやしてしまう。

「分かったよ…今どこ？」

『ありがとー！阿部ちゃんだいすき！』

その言葉だってなんの重みもない。

佐久間の中にあるたくさんの“大好き”の内のひとつでしかないその言葉に、何かが込み上げてきそうになるのをぐっと堪える。

はいはい、と適当に躱して電話を切っても、耳から離れない佐久間の声。

心を乱されたくないのに、逸る気持ちを抑えられなくて足早に準備をする。

佐久間が俺に似合うねって言った服、佐久間と一緒に買った眼鏡。

無意識にそれらを選んでしまった自分に、俺ばっかり意識して馬鹿みたいだなと自嘲する。

でも、佐久間なら気付いてくれるかな、また褒めてくれるかなって期待でわくわくしてる自分もいるから本当に面倒くさい。

はぁ…とひとつため息を吐いてから、車の鍵を手に取って家を出た。

＊＊＊

指定された場所に着くと、ふにゃふにゃな笑顔の佐久間が手を振ってこちらに駆けてくる。

「阿部ちゃん！ありがとー」

夜の街にピンク色の髪が映えて、急に世界がカラフルになったような感覚に陥る。

文句のひとつでも言ってやろうと思っていたのに、この笑顔を前にしたら何も言えなくなってしまう。

会いたかった、俺を頼ってくれて嬉しい、なんて真逆のことを口走りそうになるのを我慢するだけで精一杯。

そんな俺の気も知らずにいつものように抱きついてくる佐久間。

腰に回しそうになった腕を引っ込めて、ぺしんと軽く頭を叩く。

「お酒弱いくせに飲み過ぎだよ」

俺の胸に埋めた顔を上げて、えへへーと笑う姿に胸がきゅっとなる。

これが、佐久間の友達としての距離。

近すぎる距離が、嬉しくて切ない。

名残惜しい気持ちを抑えて、想いを悟られないようにそっと体を離す。

「早く寝たいから車乗って」

了解！とわざとらしく敬礼をして、当たり前のように助手席に乗り込む。

車を発進させるのと同時に今日のことを語り出す佐久間。

俺の知らない人達との会話を楽しそうに思い返している様子に、少しの焦りを感じる。

佐久間のその幸せそうな笑顔の中にいる誰か。

俺の知らないところで誰かと恋をして、いつか俺を置いて行ってしまうんじゃないかと、繋ぎ止める何かを探してしまう。

どんどん広がっていく佐久間の世界。

脇役でもいいから、その世界には俺もいてほしい。

そんなことを考えている内にあっという間に佐久間の家に着いてしまった。

「着いたよ」

「えー！まだ帰りたくなーい」

降りてよ、と促してもなかなか車から降りようとしない。

にこにこと俺を見つめる佐久間に嫌な予感が過る。

「せっかくここまで来たから泊まってってよ」

まじか…

この誘いを無神経だと思ってしまうのは、佐久間は知り得ないことなのにため息が出そうになる。

俺の気持ちを知らない佐久間にとっては、ただ友達と一緒に楽しく過ごしたいってだけの言葉。

飲み直したいとか、話し足りないとか、きっとそんなことしか考えてないんだろうな。

「話し足りないから阿部ちゃんも一緒に飲み直そ！」

ほら、お前の心の内なんて簡単に読めちゃう。

「あと、酔ってる俺のお世話も頼んだ！」

「なんだよそれ」

意識されていない切なさよりも、友達として一緒に居られることが嬉しくて自然と笑みがこぼれる。

俺が笑うとおんなじように笑ってくれる佐久間が愛おしい。

こうやって同じ時間を共有して、同じことで笑い合って、気が付いたら恋に落ちていた。

俺に足りないものを全部持ってる佐久間。

この強引さも、底抜けの明るさも、羨ましいと思う以上に、他の誰でもない佐久間が持つことで魅力を増しているから惹かれてやまない。

行こ！と俺の手を引く佐久間の手が、酔っているせいで熱い。

俺の手もきっと熱を持ってるけど、これならバレることはないなと安堵して、ぎゅっとその手を握りしめた。

部屋に入ってすぐ、俺をソファに座らせて冷蔵庫を漁りに行った佐久間。

戻ってきたその手に持っていたのは２つのグラスと水だけ。

「ごめん、お酒なかった！」

申し訳無さの欠片も感じさせない豪快な笑い方。

普段から飲むわけじゃないから、そんなことだろうと思ってた。

「元々飲む気なかったからいいよ」

「阿部ちゃん飲んだらすぐ寝ちゃうもんな」

うるさいな、と悪態をつきながらグラスを受け取る。

いつも通りの付かず離れずの距離感で、いつも通りの他愛ない会話をして、なんでもない時間が過ぎていく。

話も尽きて、そろそろ寝よっかと口に出そうとしたところで、佐久間が俺の肩に寄りかかってきた。

「阿部ちゃんの隣が１番落ち着く」

いつもとは違う雰囲気に心臓が大きく脈打つ。

意味のない行動だと分かっているのに、思わせぶりな佐久間の言葉や態度に翻弄されて、簡単に舞い上がってしまう。

「やっぱその服似合ってるよ、眼鏡も…たくさん使ってくれて嬉しい」

佐久間から溢れ出る好きって気持ちに、もしかしたらって思ったことは何度もあった。

でもその好きはあくまでも仲間に向ける好意であって、それ以上でも以下でもない。

期待する度に、他の誰かにも同じことをしているのを見ては落ち込んで、期待を打ち砕かれて。

そんな思いをするくらいなら、ずっと、友達のままでいい。

「そんなこと言っても何も出ない…よ…」

何も言わずにじっと俺を見つめる佐久間に言葉が詰まる。

いつも通り笑って流したいのに、そんなにまっすぐ見つめられたら上手く躱すことができない。

今までそんな顔見せたことなかったじゃん。

ねえ、顔が赤いのはさっきまで飲んでたお酒のせい？

「俺、今日本当は飲んでない」

「…え？」

「お酒、一口も飲んでない」

そう言って、俺の膝に遠慮がちに手を乗せる。

これは…どういう状況？

俺はなんて答えたら正解なの？

「好き」って冗談めかして言ってみたら何か変わるかな、なんて馬鹿みたいなことを考えていた時の自分が過る。

きっと佐久間は「俺も好き！」って軽い気持ちでその言葉を受け流すのは分かっていたけど、諦めきれずに何度もその先を想像してた。

佐久間の好きは誰にでも平等に注がれるものだから、期待しちゃいけないってずっと自制してきたのに。

今のままでも、側にいられるならそれで満足だった。

それなのに、なんで佐久間がそんな泣きそうな顔してるの？

「…何が言いたいの？」

「何か言いたいのは阿部ちゃんの方じゃないの？」

同じ友達の中でも、俺は出遅れてると思ってた。

よき理解者、頼れる存在、ふざけあえる関係、俺はどれも中途半端な気がして、距離は近くても深いところには行けないと必死に抑え込んでいた。

そんな俺が佐久間を守りたいだなんて願っちゃいけないと蓋をしていた気持ち。

目が潤んでいるのもお酒のせいじゃないんだとしたら、その涙は俺だけに向けたものって思ってもいい？

「…言ってもいいの？」

大勢の内の1人でもいいなんて、ただの強がり。

本当は佐久間の好きを独り占めしたい。

たった1人、佐久間の世界の真ん中に俺だけが立っていたい。

嫌われないように、今よりも距離が離れてしまわないようにと、剥がれないように慎重に守り続けてきた友達という名の無敵の仮面。

いっそのこと、嫌いになれたら…なんて無茶なことまで思っていたのに。

剥がしちゃったらもう元には戻れないよ？

佐久間はそれでもいいの？

「いいよ」

俺の膝に置かれた頼りなさ気な佐久間の手に、そっと自分の手を重ねる。

消そうとしても消えない想い。

何度も打ち砕かれてもこの想いはきっと冷めない。

なんでやめられないんだろうってどれだけ考えても、この問いだけは一生かかっても解けないって嫌というほど突きつけられてきた。

溢れ出した想いを打ち明けたら、佐久間はどんな顔をするのかな。

…今重なっている手にもう触れられなくなるのはさすがに寂しいな。

佐久間も同じように思っていてほしいと願いを込めて、その手を握りしめる。

「俺、佐久間のことが…」

佐久間のことばかり考えて、すっかりピンク色に染まってしまった俺の世界。

どんな答えが返ってきても、きっとここからは抜け出せない。

飛び込んできたのはそっちなんだから、覚悟してね。

「…好き」

inspired by　いっそ、嫌いになれたら。

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