コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
⚠夢主ちゃん結構極悪、チートキャラ、そして鬱
⚠微暴力・虐待表現🈶
お約束の冷えた家庭だった。
父と母と、そして私。そんなごく普通な家族構成。
服も食事も寝床も、生きるために必要な衣食住は確保されていたが、そこには親が子に向ける“愛”なんてものは無く、彼らにとっては“義務的な何か”だったのだろう。
その証拠に両親たちが私に向ける視線はいつも、不愛想なんてそんな可愛い表現では言い表せないほど冷え切っており、口調は用意されたセリフを読む時みたいに淡々としていた。
家族全員で遊びに行った事も、ましてや同じ話題で盛り上がった事すらも記憶には無く、そんなガラスのように冷え切った我が家に、幼いころからずっと胸が氷の如く冷えるのを感じ続けていた。
みんな死んでほしいほど大嫌いで、でも心の底ではまだ完全には嫌いになれなくて。
期待なんてしてないのに、もしかしたらまだ愛されているのかもしれないなんて薄っぺらな希望がいつまで経っても捨てられなくて。
そんな中途半端な寂しさを埋めるように、小学校高学年に上がるころにはもう汚れた世界に足を踏み込み溶け込んでしまっていて、毎日悪い人たちと悪いことばかりしていた。
盗みも、薬も。人を殴ったことも、殺しかけたことだってあったし、その逆もあった。
『死ねよ』
ボロボロになって「ごめんなさい」「許してください」と涙を押し潰したようなか細い声で土下座してくる相手の顔を土足で踏みつけて、ギャッと救いを求めるように短い悲鳴を上げる人間に毎日のように罵倒の言葉を吐いてきた。泣いて助けてくれと懇願されても、聞こえないふりを決め込み黙って自分と同じ、汚れた人間たちと群れになって何度も痛めつけた。そんな鬼の生まれ変わりのような残酷な非道を繰り返す日々に、もう何の感情も湧いてこず、ふつふつと湧き上がるやり場のない寂しさを自身の汚れた拳に託すしかなかった。
『…消えてよ』
散々暴れまくった後に感じる、傷口に染みるような寂しさを誤魔化すように毎日狂ったように荒れまくる。どうせ後でまた同じように傷つくなんて分かり切っていたが、これ以外の方法でこの名づけようのない寂しさから逃れられる方法なんて分からず、何度も何度も縋るように暴力に頼り続けた。意味もなくずっと。
そんなとき彼に出会った。
意識が霞かかっているようにぼんやりとしている。
「おいオマエ生きてっか?」
自分よりも少し低く、それでいて子供特有のあどけなさを残した誰かの声が鼓膜を刺激し、緩く肩を揺すられているかのような軽い衝撃を感じる。その声に誘われるかのように眠っていた意識を覚まし、体を起こそうとすると頭に鈍い痛みが走り鉄の輪でギュッと締めつけられるような痛みが走った。後頭部を中心とした体全体に火照るような痛みが脈打つ。
なんでこんなに体痛いんだっけ、とまだぼんやりとする意識と痛む頭で記憶を遡る。
──そうだ、確か鉄パイプで背後を狙われて、そのまま。
そこまで思い出すと鈍い頭痛が脈打つ頭を振り、息を大きく吸い込む。だが肺に入って来る空気は悪臭と表すのに等しいほど酷く濁っていて、頭痛は一向に治まらない。
ここは……ゴミ捨て場だろうか。ムッと鼻に着く匂いに「何とも嫌なところに捨てるなぁ」、と悪態をつきながらズキンズキンと鈍く疼く頭を押さえ、重たい瞼を開く。
「あ、起きた」
途端、視界に私の顔を覗き込むようにこちらを見やる人物の顔が映り、心臓が破裂しそうなほどの驚きに打たれる。
『はっ!?』
ビクリと驚きで跳ね上がり腕が山のように積み重ねられていたゴミの一部に当たってしまった。その拍子にゴトリと固い衝撃音を上げ、空き缶が数個ほど地面へ落ちる。正直、それを気にする余裕なんてなく、不思議そうにこちらを見る少年から慌てて距離を取る。
『…だれ…よ……』
ひんやりと冷めた口ぶりで言葉を紡ぐ私の声が、彼の姿を捉えるなりプツンと途切れる。
純白の光彩を浴びているみたいに綺麗な白髪によく映える、日焼けが染みついた褐色の肌。
日本人離れしたその容姿に一瞬、息を呑むほど見惚れて、彼の頭の先から足の先までジッと食い入るように見回してしまう。
── “綺麗”。
この汚れた世界で初めて、彼だけが“綺麗”だと思った。
『……ぇ』
何を思っているのだ、私は。
数秒経ってハッと我に返り、慌てて困惑の滲んだ睨みを不思議な少年へと送る。
そんな私の姿を見て、長い睫毛に囲まれた紫の瞳は怯むどころか面白そうに細められた。
「オレは黒川イザナ。」
夏風のように涼しい声で彼がそう言った瞬間、サウナに設置されている熱風に吹かれたみたいに、頬をはじめとした体全体がチリチリと熱くなり、そんな自分に動揺が顔に滲む。
「オマエ、オレの下僕な。」
『……は?』