『ソウルコネクト! 赤の絆 ルル!』
『ソウルコネクト! 青の絆 リーネ!』
『ソウルコネクト! 白の絆 アンナ!』
『三人合わせて 魔法少女ルリアン!』
生気を奪われた枯草が連なる荒地。空を覆う紫色の大雲。金切り声を上げる冷たい風。
今、世界は文字通りの暗黒に閉ざされている。
その暗黒世界に、仁王立ちでたたずむ黒仮面の大男が一人。
大男はムムムと口をとがらせながら、その威圧的な存在感にドスの効いた口調を加えた。
『来たな、魔法少女ルリアン。俺はノットラベラーの使徒の一人、スマッシュ。貴様らの絆ごっこは今日で終わりだ』
『ノットラベラー! 私たちはあなたたちの思い通りにはさせない!』
大男の対面に立つのは、三人の魔法少女。
少女達は胸から魔法神器と呼ばれる赤の剣、青の弓、白の杖を取り出し、両手に構える。
『行くよ! リーネ! アンナ!』
ルルの力強い芯の通った掛け声を合図に三人は一斉に駆け出した。
『くっくっく。まっすぐ突っ込むとは、愚かだな』
宝石色の瞳を大きく開いて大男に向かって走る少女たち。
スマッシュは口元を不気味に歪ませてケタケタと笑い始める。そして、巨体の背にかかった鋭い大鎌を素早く引き抜くと、目の前で力いっぱいに振って見せた。
途端に噴き出す突風。一面の枯草が竜巻と化し、辺りの視界を支配した。
『なにも見えない! なら炎で!』
『私は光を!』
ルルは炎をまとった剣で枯草を切り裂き、アンナはすぐさま詠唱を唱え、白光で周辺を照らす。
『二人とも任せて! アイツは私たちの目の前にいるんだから! あんなデカブツ、そう速くは動けないはずよ!』
二人に続き、リーネが青の弓に魔法を込め、目前にいるはずの大男に向かって矢を放った。
『喰らえ! 海波矢!』
矢を軸として、波の渦が勢いを強めながらまっすぐに飛んでゆく。
きっと、スマッシュに当たったはず。さっきまで暴れていた枯草が、その力を徐々に失いだんだんと地面に落ちていくのを確認して、三人は目の前に視線を集中させる。
が、そのときだった。
『残念。とっくに貴様らの後ろだよ』
え?
耳の後ろから響く、ぞっとするような低音。後ろに振りむこうとしたとき、すでに三人は宙を浮いていた。
再び巻き起こる突風。狂い踊る枯草の刃が魔法少女の肌を切り裂いていく。
『きゃぁぁぁあああああああ!!』
次々に身を襲う鋭い痛みとともに胸からこみ上げてくる悲鳴。
が、まだ終わらない。
さっきまで後ろにいたはずのスマッシュが、いつの間にか三人の瞳に映りこんでいた。
大男は大鎌を遠くに放り投げ、今度は血管が浮き出た拳を振り下ろした。
そして、やってくる鈍い音と全身をえぐられるような激痛。
『くっくっく、覚えておけ。ノットラベラーいちの力強さと神速を兼ね備えた男。それがこの俺、スマッシュだ』
大男の笑い声が三人に深い絶望を刻んでいく。ルル、リーネ、アンナの表情が苦しみに歪められていた。
『くっ……』
魔法少女たちは地に伏して身体を小さく震わせる。
『終わりだ。ルリアン。仲良く一緒に朽ちていけ』
スマッシュは両目をぎらつかせながら、高く拳を振り上げる。
そして、そのまま……三人は思い切り拳を打ち付けられた。
スマッシュは一息つくと、動かぬ魔法少女に捨て台詞を吐く。
『絆はくだらんな。数が増えて強くなったと信じて。結局本来の力を互いに抑え込んでしまっている。何より……』
『くっくっく。』大男は笑う。吹き荒れる冷風を巨体で押しのけ、ゆっくりと歩を進める。
『絆の力じゃ、何者にもなれない』
こうして魔法少女ルリアンの戦いは幕を閉じた。
さらば魔法少女。また新たに、絆の力を引き継ぐものが現れるのを信じて。
〜魔法少女ルリアン 完~
…………。
……………………。
………………………………そして、テレビ画面の中では、ヒーローの特撮が始まった。
『合体!!キメライダーゼロ!!!』
ヒーローがオープニングを歌ってる最中、とある家のテレビの前で幼い少女がじっと固まっていた。
「え……」
決して特撮に集中しているのではない。
忘れられなかったのだ。アニメ『魔法少女ルリアン』の衝撃的な最終回を。
絆の力で世界を平和にしたいという魔法少女たちの願いが、あっけなく散ったこのアニメを。
これは、そんな彼女の物語である。
【第一幕 only】――始――
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