2.触れた手
「凛、ここに、いるのか…?」
俺のつぶやきに答える返事はない。
朝の涼しげな空気が纏わりつくだけ。
「…道…、」
立ち入り禁止と書かれたロープを潜って中に入ると細い小道があった。
朝ということもあるのか夏というのに冷えきっていて寒い。
(なんでこんなとこ来てんだよ…)
最後にここに居たかもしれない。
凛のいた場所にくることで何かを見つけようとしているのかもな。
山道を数分歩いた先で大きな公園に出た。
こんな場所、知らない。
元々山には入るなって言われてたからこの公園自体、新しいものではないのかもしれない。
柵をまたいで中に入る。
公園と呼ぶにはなにもない。
唯一置かれたブランコは2つだけ。
風に吹かれてかすかに揺れていた。
(…どこいったんだ、凛。)
もう前のことだ。好きだった。振られたけどな。
悔しくて辛くて重い気持ちで電車乗ったんだぞ。
あっちの学校でも忘れられなかった。
「あ、れ…」
涙が止まらない。おかしくなってしまった。
どこに行ってしまったのか、俺には分からない。
過去のことだと割り切る勇気もない。
強い風が俺をさらに吹き付ける。
思わず目をぎゅっと瞑る。
風が止み、目をゆっくりと開けた時。
___この世の音がすべて消えた。
「…凛、?」
見開く俺の目をじっと見つめ、凛は俺の手を引っ張った。
頭が状況を整理している途中で山の入口まで辿り着く。
凛…は俺を強く押して山から俺が出た。
「待てよ、凛…なんで…ッ!!」
「みんなが待ってる。心配かけんなよ。」
山から出ると辺りは一面暗く染っていた。
(…俺が山にいたのはせいぜい30分もない。)
この山の中とこの世界では時の流れが違うとでもいいたいのか…。
違う、それより、凛は!
「凛…ッ!あ、れ……」
振り向き立ち上がるもそこに凛はいなかった。
「いたぞ、潔だ、!!」
「千切、潔の親呼んで!!」
千切が有り得ない早さで反対方向に走り出す。
蜂楽は俺に駆け寄って抱きしめた。
「どこに居たの、潔。みんな一日中探してた。みんな、みんな泥だらけだよ。お腹だって空いてる。凛ちゃんみたいに居なくなるなよ…ッ」
蜂楽の声が震えていた。
怒っているんだろう。でも、怒りきれてない。
俺は頭の中でずっと考えていた。
凛だった。たしかに凛がいた。
制服姿で俺の手をたしかに掴んだ。
(凛は、生きてんのか…?)
家に戻って母さん達に謝る。
何も聞いて来なかった。凛を探しに行っていた、と言ったら気を使ってくれたのだろう。
住んでいる街に帰るまでの夏休みの間、約1ヶ月俺は凛を取り戻す計画を立てる。
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