第18話:「加藤翔 ―嘘と沈黙の三年間―」
生配信の画面に映るのは、くたびれたパーカーに無精ひげを生やした男――加藤翔。
彼はどこか達観したような顔で、マイクに向かって話し始めた。
「田中蒼が堕ちていく様子を、俺は……全部、見ていた」
その言葉に、配信は一気に凍りつく。
【何それ】
【加藤って、蒼の親友だったんじゃないの?】
【まさか、裏切り者……?】
【また“予想外”の展開きた】
翔は続けた。
「蒼、お前は知らなかったと思う。
でも、俺は“あの日”、お前が美月と別れ話をしたあと、
斎藤の連中に“尾けられていた”ことも知ってた」
「そして……その連中を“手引きした”のは、俺だった」
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翔の声には、後悔が滲んでいた。
「金が必要だった。親父の借金で、毎日取り立てが来てた。
“親友を嵌めるだけでいい”――そう言われた。
連中に頼まれたのは、
お前の予定と、あの日の居場所と……“美月のアパートの合鍵”」
「俺は、“一度だけ”のつもりだった。
でも気づいたら、もう戻れなくなってた。
美月が死んだとき、俺は……本当は、屋上の監視室にいた」
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翔はポケットから、小さなICレコーダーを取り出した。
「これには、美月が斎藤に送った最後の通話が残ってる。
彼女は言ってた。
“私、全部知ってる。蒼くんは無実。翔も脅されてるだけ”って」
蓮:「なぜ、今まで黙っていたんですか?」
翔の声が震える。
「……怖かった。
あのとき俺が声を上げていれば、美月は死ななかったかもしれない。
けど俺は……見て見ぬふりをした。
ただ、録音ボタンだけは押した。
その日からずっと、逃げてた。
でも今日……このチャンネルを見て、決めたんだ。
俺も話さなきゃって。蒼、お前を救いたいって」
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その告白を聞いていた蓮が、少し笑った。
「翔さん、あなたが一番“視聴者”らしいですよ。
見て、知って、そして自分を責め続けた。
でも、今こうして“発信者”になった。
この番組がやりたかったのは、まさにそういうことなんです」
「――“沈黙の記憶”に、言葉を与えること」
コメント欄が再び騒ぎ始める。
【これが本当の“真相”なの?】
【てか、斎藤と伊藤はどうなったの?】
【蒼、これで無実証明できるじゃん……!】
【誰が逮捕されるのか、次回だな】
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映像の中で、翔が蓮に小さな封筒を渡す。
「この中に、伊藤と斎藤の通話履歴もある。
俺、ずっと持ってた。
……使うなら、今しかないよな」
蓮がそれを受け取ったとき――
視聴者数はついに100万人を突破していた。
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画面が切り替わる。
そこには、整ったスーツ姿で静かにマイクの前に立つ男。
中村颯太 ―「#真相をお話します」の管理人
「すべての“記録”を受け取りました。
これより、“最終証人”として、私が語ります。
このチャンネルの設立目的。
そして――“最初の事件”の記憶を」
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