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「アメリカさん。少しばかり、爺のわがままに付き合ってくれませんか?」

「OK!日本の頼みなら宇宙にだって行ってくるさ!

「ふふ、宇宙旅行もいいですねぇ。でも、もっと楽しいことですよ」

「…ノート?」

「はい。今からここに、死ぬまでにしたいこと100を書いていこうと思います!」

「え、君不謹慎すぎるよ!俺の前でそれ言うのかい!?」

「不謹慎じゃないです!その証拠と言ってはなんですが、アメリカさんにも付き合ってもらいますからね。爺の100個のわがままに」

「ご褒美の間違いなんだぞ」

「今から書く内容を言ってもそう言えますかねぇ」

「まず1つ目。墓石はお花に囲まれた場所に建てます」

「やっぱ不謹慎じゃないか!」

「えぇ、?じゃあ2つ目は、」

「…国の方々みんなと一緒に、桜の下でお花見がしたいです」

「春風に吹かれながら、皆でピクニックみたいに過ごすんです。イタリア君はきっとうたた寝してますね。ロマーノ君やアメリカさん、ドイツさんと喋って、ギルベルトさんや中国さんと昔話に花を咲かせ、ロシアさんの発言を濁して、イギリスさんやフランスさんの酔っ払い行動をみんなで止めるんです」

「とても楽しいと思いませんか」

「…俺のわがままも、聞いてくれるかい?」 「えぇ」

「みんなでパーティーするのも悪くないけどさ、2人だけで桜を見る日も作ってほしいんだぞ」

「いいですけど、きっと退屈ですよ」

「君がいて退屈な時なんてないよ」

「ふふ、じゃあアメリカさんのためにお弁当でも作りましょうかね」

「! 約束なんだぞ!」

「えぇ。約束です」







吹く風は暖かいはずなのに、頬を撫でる風が冷たい。目の前には俺の胸ぐらを掴みながら、歯を食いしばり泣きじゃくる椿の姿があった。

どんな気持ちでここに来ているのか。

どんな気持ちで花を添えているのか。

彼が俺に答えて欲しい質問は残酷で、だけど答えなきゃ前に進めない気がして。

俺は固く閉ざされていた口を開いた。

「…まだ日本が生きてたころ、約束したんだ。花に囲まれた場所に墓を建ててくれって。日本ってば、一緒に桜見ながらお花見しようねって話したのにさ、開花前に行っちゃうもんだから困ったもんだよ」

「菊の頼みだったんだよ。桜が見たいって言ってたから、俺がここに建ててあげたんだ」

椿の表情が少し緩む。「何の話だ」と彼は言うけど、俺の口はその話題から止まらなかった。

「何が正解だったなんて分からないけど、最善な道を選べなかったのは確かだよ。花はその戒めでもあるし、日本の願いを叶えるためにやってる」

「たしかに君の言う通りさ。日本を殺した国がHEROなんて、おかしな話だけどさ、俺がHEROって言うと日本は必ず笑ってくれたんだ」

「俺は、日本の好きな俺で居続けたい」

さっきまで自分のネクタイを見ていたはずなのに、いつの間にか自分の目線は彼を射抜いていた。予想外な回答だったのか、はたまた俺の真剣な表情に驚いたのか、椿は目を丸くしているし、胸ぐらを掴んでいた手は骨が無くなったように腰へぶらんと垂れ落ちている。

「…私には分かりません、米国」

数秒後、椿がそんなことを言うから「え!?結構納得してくれる内容だと思ったんだけど、」と自分の頭に星が降ってきたようなリアクションをとりながら苦笑いを浮かべる。そんな俺から椿は目を逸らして言った。

「…そこではありません」

だけど次に見た彼は、哀愁が漂う目を俺と合わせて口を開く。

「なぜ、日本敗戦国をそこまで想うんですか」

彼の表情はムカつくけど日本に似ている。話している間は気にしていなかったことが今になって実感させられた。俺の脳裏にはいつも日本がいて、その目に俺しか写っていない時が1番心地よかった。

「好きだからだよ」

考えるよりも先に口が動いていたと気がついたのは、言い終わった後のことだった。

椿は何も言わずその場に立ち尽くしている。好きバレ発言も時差で羞恥がモンモンと迫ってくるし、掃除の続きでもしようと足を動かそうとした時、やっと椿は口を動かした。

「お前が日本と付き合えるわけないだろ。身分を弁えろクソ米国」

「……君って本当に変わらないよね、」

一瞬でも期待した俺がバカだったらしいと思わせてしまうほど、彼の冷めた態度に俺は額に青筋を浮かべた。その様子を見た椿は愉快そうに鼻を鳴らす。ひとしきり俺を嘲笑った彼は近くに置いてあったバケツを持ち上げ儚く笑った。

「…きっと、私が思っていたより貴方は変わっていたんですね」

さっきまでゲス顔を浮かべていた彼とは思えないほどに、その笑顔は優しく温かい。その姿は日本を連想させた。言葉の意味が分からず首を傾げている俺に助言を聞かせるみたいに彼は再度話し始める。

「貴方、ワガママなとこ直したでしょう?しかも以前より空気を読むようになりましたね」

「菊の、日本のためですか?それとも戒めで?」

「…日本が困るようなことは頑張って直したさ。天国でも心配されてるようじゃ、カッコつかないだろう?」

「まぁ、その日本は天国から舞い降りて来てくれたみたいだけど」

菊のことを考える。蛇口の下にバケツを置いて掃除用の水を溜めている様子を棒立ちで見ていた椿は何の違和感も生み出さない言い方で呟いた。

「日本は前の貴方の方が好きだと思いますよ」

彼の言葉の意味を数秒考えた後、理解した途端椿の方を見れば、案の定彼は鼻で俺を笑った。だけどそんなこと今はどうでもいい。

「ちょっ、それどういう意味だい!?」

「前世では、実質日本と私は一心同体だったんですよ。日本の気持ちなんて筒抜けです。そういう意味ですよ」

「え、っていうことは、またワガママな俺に戻れっていうことかい!?」

「さぁ」

「…さぁ、?」

椿は掃除用ブラシを取り出して俺が汲んできた水で浸した。その間も問い詰めるけど、さっきみたいな曖昧な返事が返ってくるだけでそこから進展は1つもなかった。その態度には自分で試してみろという俺宛の言葉が声に乗っかり、顔にでていた。ケチと文句を言うけど、椿は買い文句を連呼するだけ。

だけど気分は不思議と悪くなかった。

喧嘩時代が嘘かのように、俺と椿は日本の墓を磨いた。


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