そのまま、二十分以上もの長時間にも渡って一言も発していなかった一同の中で、頭がおかしかったのだろうか、イーチが素っ頓狂な声で言うのである。
「あ、あれは? アスタロト様が吸収する筈だったイナゴっ! 蝗害(こうがい)はどうなったのですかぁ!」
ああ、そうか…… まあ、それも重要な人類の危機だったな。
善悪が憮然とした顔で答えた。
「全くっ! イーチ休! 教えたのでござろっ! ネットサーフィンは基本中の基本って、ね? ちゃんと追っていけば2020年に東アフリカで発生した蝗害は昨年の早春、2021年の冬を迎えた時、インドやアフガニスタンに壊滅的な被害を及ぼした後でエベレストの寒さで凍え死んだのでござるよ…… まあ、嘘かもしれないのでござるがね」
「ああ、そうなんですね、良かったです」
素直過ぎるイーチの声を聞いた善悪はやや口籠りながら言うのであった。
「う、うん、良いか悪いかは自分でしっかり考えてね、人間も野生動物なんかも沢山死んじゃったしメチャクチャ飢え捲ったけどね、勿論バッタたちもね…… そこらも含めて良く考えよっ! 良かったと思うでござるか? 分かってるの、ダイジョブかなぁ?」
「はいっ! 了解でっす! 良くは無かったですね、これで良いでしょうか?」
良く分かっていないのであろうイーチは一旦おいて置く事として、善悪はコユキに言った。
「ビックリしたでござるけど、これではっきりしたのでは無かろうか? 僕チン達の中に有る前任者達の記憶ってさ」
コユキは頷いて同意を現してから言葉を引き継ぐ。
「うん、本人の記憶って言うより、一緒に経験して来たルキフェルの方の記憶だったみたいね…… オルクス君が切欠(きっかけ)みたいに言ってたけど、アタシ的にはモラクス君やパズズ君、ラマシュトゥちゃん辺りの方が記憶が鮮明化してきたような気がするんだけどなぁ? まあ、深く考えても仕方が無いか、答え合わせは完了ね」
「うん、アリシアさんとラーシュさんの二人は『おたんちん』になっちゃったけど、きっとどこかで仲良く過ごしているのでござろう、それで良しとするのでござるよ」
ここまでコユキと善悪の二人以外では愚かな小坊主のイーチだけが発言していたのだが、満を持してバアルが口を開いたのである。
「アリシアとラーシュか…… カーリーが死蝋(しろう)化、栄光の手になった彼らの遺体を持って来た時は二人揃って奇麗な子達だと思ったけど、完全な栄光の手では無くて何かが残って居たんだろうね…… そのせいで腐敗してしまったんだろうけど、もしアスタから解放された二人の魂魄がメルカルト神殿に戻って自分たちの体が酷い状態で朽ちているのを見たんだとしたら…… ショックだっただろうね…… 勿論あの頃使っていたロビー君を失って、依り代がこのニコールちゃん一つ切りになってしまった妾もショックだったけどさ」
この発言を聞いたコユキは以前から気になってはいたが、聞き出すタイミングが無かった件を問い質す事にしたのである。
「ねえバアルちゃん、前から言ってたけどさ、初めて会った時に使ってたロビー君て誰だったの? 今の姿はランの奇跡のニコール・オベリーって娘でしょ? 昔アンタが取り憑いた子よね、ロビー君もその手の子なの?」
バアルはキョトンとしながら答えた。
「あれ、ロビー君の事知らなかったの姉様、えー結構有名だと思ったんだけどなー、まあ仕方ないかー、ロビー君は生物学者でね、チャールズ・ロバート・ダーウィンって言ってね、妾を召喚して種の進化についての教えを乞うたんだよ」
「ダーウィン? あの進化論の?」
「そうそう、何だ姉様知ってるじゃん! 種の進化について教えてくれたら、代わりに死んだ後依り代になるって誓ったからさ、んで使っていたんだけどね♪」
「死んだ後…… なるほどね、ウィンウィンと言えば言えなくも無いか……」
バアルがやけに嬉しそうな顔で言った。
「そうだっ! コユキ姉様と善悪兄様の体の一部を妾に頂戴よ! どうせ消えちゃうんだから良いよね? 目でも耳でも何でも良いからさぁー」
「あ、ズルいぞ自分ばっかり! 我も欲しいぞ、なあコユキ、善悪! 何かくれよぉ! 早く早くぅ! もうっ、勝手に千切って持ってっちゃうぞ、腕? 足? どっちが良い?」
幾らこれから消滅するとは言え未だ生きている人間、それも一応兄の体を引き千切るとか、悪魔とは言え大概である。
馬鹿な小坊主もキラキラした目でコユキと善悪に向けて挙手してやがった。
二人は又もや声を揃えて言った。
「「やだよっ!」」
そりゃそうだ、はぁーあ……
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