25
こっちを見てみよう。
琥珀さんは着いてきた。
思ってたより速い。
と、
!
こっちは行き止まりか、
『あっちにいるぞ!』
如月さんの声が聞こえる。
あっちだな!
声のする方へ走る。
『琥珀さん、大丈夫?』
『うん、大丈夫!』
その先に人影がある。
ずぶ濡れになりながら走る。
如月さんがいた。
そして、その奥に、
黒い服を着た男を見つけた。
如月さんが走る。
速い!
草を華麗に避けて、突き進む。
僕も負けてられない。
こちらの男も銃を撃ってくる。
バン!バン!バン!
近くの木に当たった。
まだ、近づく。
と、
ガサガサガサッ!
っ!
琥珀さんの方に何かが向かっている。
『琥珀さん!』
僕は琥珀さんの方へ走る。
黒い服を着た男が草から出てきて、琥珀さんに銃を向けていた。
バン!
先に、僕が銃を撃つ。
男は避けた。
男の腕をかすめる。
まだか、
僕は剣に持ち替えて、斬りつけようとする。
銀色の光、
男も、剣を持っていた。
剣は、剣士しか持てないはずなのになぜ、剣を、
コイツ、
盗んだのか!
まさか、
誰かを殺したのか!
男が剣で、僕の攻撃を防ぐ。
まだ!
剣を振るう。
男も剣を振るう。
剣同士がぶつかり合う。
強い。
痛いほど押しつけられる。
『ぐぅっ!』
耐えるが、
男が足を蹴った。
あっ!
僕はバランスを崩して倒れる。
男は僕に乗っかり、剣を押し付けてくる。
上から押しつけられ、どんどん剣が近づく。
このままじゃやられる!
でも、動けない。
『やめて!』
琥珀さんが、傘で男を叩く。
琥珀さん!
男が琥珀さんを見た後、
琥珀さんに向けて剣を振るう。
『やめろ!』
僕は男に剣を振るう。
男はこちらに気づいて、剣で、僕の攻撃を受け止めた。
と、
『なぜ、』
?
男が喋る。
『なぜ、お前は戦う?』
︎男の声がした。
それは…
それは、なんでだ?
なぜ、どうして苦しまなきゃいけない?
それは、わからない。
でも!
今は!
『大切な人のために戦う!』
そうだ、それでいい、
『それが、僕のためだから、』
僕は、剣を振るった。
気づけば、男は倒れていた。
なんとか倒せた。
男が持っていた武器を遠くへ蹴る。
『クソッ!』
男が睨んできた。
『努力もしないで、生まれた時から力があって勝ち組な人狼が!ずっと努力をしてきた俺たちの夢を壊すんだ!お前らみたいな人狼が嫌いだ!』
努力をしていない?
勝ち組?
『どうせ、今までずっと俺みたいな普通の人間たちを見下してたんだろ!』
『何を言ってんだよ!僕たちは強くならないと生き残れない!ずっと苦しんで!ずっと悲しくて!ずっと痛い思いをしてきたんだぞ!何もしてないのに!近くにいるだけで睨まれて!態度も悪くされて!そんな僕たちが勝ち組?』
こんなに辛い思いをしてきたのに。
琥珀さんは心に深い傷を負ってしまってるのに。
『人狼が勝ち組なわけないだろ!好きでこう生まれたわけでもない!力を無駄に使っているわけでもない!僕たちはみんなのために、平和のために戦ってるんだ!出来ることなら逆に、普通の人間として生まれたかったよ!』
普通の人間として生まれてたら、こんなに苦しんだこともなかったはずだ。
『お前らが苦しむのは当然だろ!お前らは知らないだろうけどな!俺らだって、お前ら人狼のせいで苦しんでんだよ!お前らが生きてるから、死ぬべきじゃなかった人たちが死んでったんだ!お前らにその辛さがわかるかよ!』
『そりゃ人狼に悪い奴もいるだろうけどさ、全員がそうってわけじゃないだろ!』
『お前、一匹狼だろ?あんなに人を傷つけておいて被害者ぶるな‼︎』
僕と、男は怒鳴りあった。
永遠に終わらないように思う。
永遠に分かり合えないように思う。
でも、
『銅は、苦しむ人のために、人狼だろうが、普通の人間だろうが関係なく戦ってきたんだよ。周りから悪く言われても、自分を犠牲にしてでも戦ったんだよ。』
隣に如月さんが立っていた。
『それより、今のお前はどうなんだよ。苦しいからって人を傷つけて、よく言えたな。』
『お前らが悪いんだよ!お前らか傷つけたんだよ!目障りなんだよ!』
『銅が、先に傷つけたのか?違うだろ?銅は昔、自分が傷を負ってから攻撃するようにしてたんだぞ!』
!
前に見た夢で、僕が傷を負いながら戦っていたのは、そういうことだったのか。
なのに今は…
この男にも僕が先に銃を撃ち、先に怪我をさせてしまった。
『・・・』
男は黙った。
僕も黙っていた。
少しして、他の人たちも集まり、男に手錠をつけた。
『如月さん、ありがとうございました。』
僕は頭を下げる。
『いいってことよ!』
如月さんは笑っていた。
『如月さん、』
『ん?』
僕は如月さんの名前を呼ぶ。
『昔の僕は、自分が傷を負ってから戦ってたんですか?』
『そうだぜ、』
『でも今は、僕から傷つけてしまってた…』
僕は思い出す。
初めて銃を撃った時だって他の時だって、あの時目覚めてから今までほぼずっと僕から傷つけ、倒していた。
『いいんじゃねーの?』
『え?』
僕は驚いて、目を大きくした。
『確かにそうするべきなのかもしれないけどよ、自分は怪我をするんだろ?そんなことしなきゃいけないルールなんてないし、傷つく必要はねーと思う。』
・・・
『昔の銅がしてたことは、本当なら犯罪で、捕まってもおかしくなかったんだ、だから、自分なりで考えた代償だったのかもしれないな。』
人を傷つけるのは犯罪だ。
だから、こうやって…
『剣士のみんなも、最初は銅を捕まえようとしてたけど、そのおかげで認められたんだぜ!』
そうだったのか…
僕たちは歩く。
『琥珀さんも無理させちゃってごめんね、』
僕は琥珀さんに謝る。
『琥珀は平気だよ?』
琥珀さんは笑顔で言った。
と、
『クッ!』
後処理班に連れられている、先ほどの男が睨んでいた。
僕は、その男の方へ歩く。
『人に理想を言うだけじゃなくて、自分がまずそうなれよ、』
それだけを伝えた。
男は悔しそうにしていた。
仕事も終わり、帰る。
明日休みなので、琥珀さんが借りていた家へ向かう。
前から男が歩いてきた。
ここら辺を歩く人は少ない。
珍しいなと、思っていた。
だが、
すれ違おうとした時、
『久しぶりだなぁ、一匹狼くん、』
耳元でそう言われた。
男は怪しく笑いながら歩いていく。
『待て!』
そう言って振り返ったが、
暗くてよく見えなかった。
特に危害を与えてきたわけではなかった。
でも、怪しく感じた。