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富来 えび
210
ーーーーーー
梶原景宗は兵の補充や訓練を終え、再び砦を出発した。
しかし――
「……やっぱり、すごい荒れてる」
「前より酷くねえか……?」
「雨まで降ってきたし……」
北条兵たちは荒れ狂う海を見て、不安そうに顔を見合わせる。
すると景宗が怒鳴りつけた。
「雨が降ってるからなんだ!!!
そんな心持ちでは勝てんぞ💢」
「ひえっ……泣」
「ひぃ……!あわわわ……!!」
大きく揺れる船の上で、兵の一人がよろめいて転びそうになる。
景宗はそれを見て舌打ちした。
「ちっ……あれでも足りなかったか。
俺はなんともないのに、どういうことだ……」
そう呟くと、体を温めるために槍を振り回し始める。
「もっと体を動かせ!!」
「ひええ……!!」
ーーーーーー
一方、里見勢。
雨が降り始め、海はさらに荒れ始めていた。
「雨が降り始めやしたね……」
「うむ。 それに海の荒れ具合が酷くなっておる。我らも 訓練していなかったら、ひとたまりもなかったやも……」
義堯は荒波を見つめる。
「こう言ってはなんだが、海に慣れておらぬ佐竹殿より、先に里見が来て正解だったわ」
兵たちは濡れた身体を見ながら話す。
「体がなるべく冷えねえようにしねえとな。
戦の前だから、酒は控えた方がいいし……」
「うむ。 雨が体にかからぬよう、事前に用意しておいた羽織ものを身につけておけ」
そう言いながら、義堯は苦笑する。
「……体を温めたいから酒を飲みたいのお」
「勝ってからの楽しみにしましょうや、殿」
「はっはっは、そうするか」
ーーーーーー
そして――
北条兵たちの間に、緊張が走った。
「か、梶原様……!」
「どうした?」
「里見の船です……!!!」
景宗が前方を睨む。
「……待ち伏せされていたか!!」
「船が近づいてきます!」
「やばい! 乗り込んでくるぞ!」
里見兵たちが船を寄せながら叫ぶ。
「おりゃー! 北条のやつら、来たぜ~!
俺たちと遊ぼうや!!」
「おい、軽くしすぎだ!敵船に乗り込む時は流石に警戒心を持て!」
別の兵が槍を構える。
「俺は正直恨みはないが、覚悟していただこう。 北条水軍!!!」
北条船へ乗り込んできた里見兵たち。
景宗は槍を構える。
「乗り込んできたからなんだ!
生かして返さねば良いだけだ!」
「押し込めーーー!!!💢」
その瞬間――
船が大きく揺れた。
「ぎゃーーー!!!😭」
北条兵の一人が足を滑らせる。
「おいおい、お前なに転んでるんだよ……」
里見兵が槍を構える。
「ごめんなー。 弱いものいじめは俺ら、
好きじゃねえけど……」
「これが戦だからな」
槍が突き出される。
「ぐふっ……氏康様……もう、しわ……」
景宗がそれを見て激昂する。
「よくも、仲間を殺したな……!!!💢」
景宗は一気に踏み込み、里見兵の一人を海へ突き落とした。
「なんとか…槍で直撃は防いだが…
やば……い……」
ジャバーン!!
「…ふう…大丈夫だ! 縄落としてくれー!」
海から声が響く。
「あと戻ったら、ひとまず酒をくれ! 」
「流石にこの冷たさは、凍える……!」
義堯は安堵する。
「ふう……。 落ちた時のことも想定して、
訓練しておいて良かった……。
海戦に不慣れな佐竹では残念だが、こうはいかぬ……」
ーーーーーー
景宗は大声で叫んだ。
「おう……大将さんよ!! そこで、高みの
見物かい???」
里見義堯へ向けて槍を掲げる。
「俺は梶原景宗! 一騎打ちしてもらおうか??? あんたの首を取れば、連合軍の
士気が大きく下がるだろうからな!!!」
すると義堯は大声で返した。
「断る♪」
「はあ!?」
「そっちにしか理がないからな!
臆病と捉えてもらって構わぬー!」
そして笑いながら続ける。
「それに、 怪物殿とは戦いたくない♪」
「はあ!? 酷くねえか!?💢」
景宗は思わず叫ぶ。
「乗れよ普通! 乗るだろ!!泣」
北条兵が小声で呟いた。
「……よく乗ってもらえると思いましたね」
「大将が一騎打ちなんてするわけないでしょ……」
「しかも相手は大名ですよ……」
「…………」
景宗は黙った。
「……貴様ら、あとで覚えておけよ💢💢」
「ひえっ泣」
ーーーーーー
その時だった。
「「アワワワワ!!!」」
大きな波で船が傾き、北条兵と里見兵がまとめて海へ落ちる。
ドバシャーン!!!
「ごぼぼぼぼ……!」
「た……す……」
一緒に落ちた里見兵が、溺れている北条兵を見る。
「おめえ、大丈夫かよ」
そして腰の刀を抜く。
「今、楽にしてやるからな」
「ぐふっ……」
北条兵の動きが止まる。
「俺にも酒くれー! あと縄落としてくれー!」
ーーーーーー
景宗は飛び込んできた敵の槍を弾く。
「ちっ!」
そして槍を振るい、敵兵を倒していく。
その中で、一人の里見兵が景宗へ向かって
突っ込んできた。
「殿……!」
「ぐふっ……」
その兵は景宗の腕へ傷を与えた。
「殿、かならず…勝って…くれ……」
「ちっ……!」
景宗は腕を押さえる。
「片腕をやられた……!」
「俺と、したことが!!」
義堯がその光景を見て叫ぶ。
「あのバカ……! 命を無駄にしにおって……!」
そして兵たちへ向かって声を張り上げる。
「奮起せよ!!! あいつの死を!
あいつが、怪物に与えたあの傷を!
決して無駄にするなーーー!!!」
「おおおおお!!!」
里見兵たちが一斉に吠える。
「おめえら、ぜってえに勝つぞ!!!」
「勝って酒を飲むんだーーーー!!!」
「うおおおおおおおおおおお!!!」
一気に勢いが増す。
「なっ……!」
北条兵が次々と押し込まれていく。
「うわっ! 囲まれ――――」
「ぐふっ!」
景宗は槍を振り回し、必死に敵を近づかせない。
「ちっ……!!」
義堯が大声で叫ぶ。
「降伏しろーーー! 梶原景宗!!!
お前のような怪物は、ここで死なせるには
とても、とても、惜しい!!!」
景宗は槍を構えたまま叫び返した。
「大将が俺と一騎打ちして勝ったら、従ってやろう、 どうだ…、今度こそ乗らねえか!」
景宗は笑う。
「前の海戦から、戦いたいと思っていたのだ!頼む!! 乗ってくれーーー!!!」
義堯はしばし景宗を見つめる。
そして――
「……いいだろう その覚悟でわしも乗った!!!」
ーーーーーー
二人が互いに槍を構える。
そして――
「うおおおおおおおおおおお!!!」
槍と槍が激しくぶつかり合う。
「ぐぬぬぬぬ……!」
景宗が義堯の攻撃を片手で持った槍で必死に受け止める。
それを見た義堯は思わず
「片手でこのまでの力を出せるとは……。
バカにできぬな、やはり……!」
景宗も歯を食いしばる。
「ぐぬぬぬぬぬ……!」
そして心の中で呟く。
(やはり、一騎打ちを仕掛けて正解だった。
しなかったら、死んでも後悔しきれぬわ…!)
カキンッ!
キンッ!
互いの槍がぶつかる。
景宗がギリギリで攻撃をかわし、そのまま反撃する。
しかし義堯は船の揺れを利用して回避する。
「……ぐぬぬぬぬ」
その瞬間――再び、
船がーー大きく揺れた。
「ぎゃーーー!!! 落ちるーーー!!!」
北条兵が海へ落ちそうになる。
「くっ……!」
揺れになれた里見兵も、必死に船へしがみつく。
景宗が義堯を見て笑う。
「……今のは少し揺れましたな、大将殿?」
「うむ」
義堯は槍を構え直す。
「梶原殿、名乗るのを忘れておりましたな。
某は…里見義堯と申す」
そして、静かに槍を構える。
「……申し訳ないが、連合のため某が勝たせていただくぞ」
「望むところだ……!!!!里見殿!!!」
二人が同時に踏み込む。
「うおおおおおおおおおおお!!!」
ザシュッ――!
一瞬の交錯。
景宗の身体が止まる。
「ぐっ……!」
そして利き腕を押さえる。
「いかん……利き腕までが……」
義堯は槍を向ける。
「梶原殿、片手であるにもかかわらずその武勇…… 敵ながら見事であった」
そして兵へ命じる。
「……縄で縛り上げよ!!!」
景宗は抵抗することなく、ゆっくりと武器を置いた。
「里見殿……約束だ。 素直に縄につこう」
そして義堯を真っ直ぐ見つめる。
「戦えたこと、光栄に思う」
「……うむ」
里見兵たちが歓声を上げる。
「俺たちの勝利だーーーー!!!」
「やったぜーーーー!!!」
「あの怪物を、遂に捕らえたぞ!!」
しかし北条兵の一人が叫ぶ。
「いや、俺たちはまだ……戦え……!」
景宗が振り返る。
「お前たちも武器をおろせ……」
「ですが……!」
「命は無駄にするなーーー!!!💢」
その一喝に、北条兵たちは黙り込む。
「……はっ」
そして次々と武器を置いた。
「縄につきまする……」
里見兵たちは捕虜となった北条兵を見ながら声をかける。
「動けないだろうけど、苦しくないようになるべく緩くするから許してくれー」
北条兵たちは複雑そうな顔をしながらも、抵抗することなく縄についた。
ーーーー
「さてと……」
船内の部屋に戻った里見義堯は筆を取り、
紙を前にして呟いた。
「早速佐竹殿に、報告書をしたためねば」
すると、そばにいた里見兵が口を開く。
「直で景虎殿に送れば良いのでは、殿?」
「わしは、そういうの苦手でのぉ……」
義堯は少し黙り、筆を動かしながら続ける。
「それに、今は気持ちがな……」
そして、少しだけ目を伏せる。
「亡骸の弔いを、佐竹殿に任せたいという面もある」
「なるほど……」
里見兵は頷いた。
「ふむ、これで良い」
義堯は書き終えた報告書を確認する。
「では、佐竹殿によろしくな」
「はっ」
ーーーーーー
関東???
佐竹義重の元へ、里見の伝令兵が駆け込んできた。
「佐竹殿、失礼いたす。海戦についての報告書を渡すよう、うちの殿に言われました。ご確認を」
「うむ……、ご苦労…」
義重は報告書を受け取り、封を切る。
ーーー
~報告書~
佐竹義重殿――
北条水軍は、みごと倒すことができた。
しかも、大将の梶原景宗を虜とすることができた。
怪物は、本当にいたぞ。
まさか、自分がその怪物と一騎打ちするとは思わなんだが……笑
……それと、里見にも少しだが犠牲が出たわ。
……訓練をしていたが、何人かは怪物に倒され、 無事に戻ることができなかった……。
海に落ちたものは……亡骸すら取り戻せなんだ。
この報告書と共に亡骸は持っていくゆえ、
どうか丁寧に弔って欲しい。 両軍で区別なく。
とにかく、景虎殿に報告をよろしくお願い致す。
里見義堯
ーーーー
「ほう……、怪物と……笑」
義重は報告書を読みながら、思わず笑う。
「って…、一騎打ち?! 大将が何をやって」
「里見殿は、相変わらずだなあ……笑」
そして、少し表情を戻す。
「だが、水軍は叩きつぶせたようだし、無事で何よりだ……」
「ははは、本当ですな……笑」
佐竹兵も報告書を見ながら頷く。
「しかし……里見兵にも少しですが、犠牲が出たとも書いてありますな……」
「仲良くなったばかりの……顔見知りが、
もうこの世にはいないかもしれない……」
「うむ……、これから更に増えるだろう。
戦は、まだ始まったばかりだからのぉ……」
義重は、静かに報告書を見つめる。
「だが、必要なことだ。戦がない世にするために」
「…………ですな……」
佐竹兵も俯く。
「なるべく早く、決着が着くと良いのですが……。
長引くと、民も苦しいですからな」
「うむ……とにかく、丁重に弔おう……」
「亡骸はこちらに……」
伝令兵が、声を震わせながら告げる。
「うむ……」
義重は静かに頷いた。
そして――
義重たちは、運ばれてきた亡骸の元へ向かった。
「……この兵は、一緒に酒を飲んだ奴……」
佐竹兵が、亡骸を見つめる。
「………!!」
里見兵が静かに口を開く。
「うむ。こいつは、己の命をかけて、怪物の片腕に傷を負わせたんだ。
そのおかげで、梶原景宗を捕らえることができた。本当に……、馬鹿なやつだよ……泣」
「そのようなことが……!!」
義重は、驚きと悲しみを滲ませる。
「ああ。その後、梶原景宗とわが殿が一騎打ちをしたんだ。
でも、片腕を怪我してても、怪物梶原は互角だったんだ。 うちの殿とな。名勝負だったよ……はははは……泣」
「どうか……ご無理なさらず。あとは、我らにお任せを」
「申し訳ねえ……あとはお頼み申す。また、
海に戻らねばならぬので……では、ごめん」
里見兵はそう言うと、再び海へ戻るため、その場を去っていった。
「……覚悟はしておったが、心に来るな……」
義重は、しばし亡骸を見つめる。
「この兵は、あの大きな木の近くに弔いましょう。あの木なら、目印になりますから」
佐竹兵がそう提案した。
そして――
兵たちは亡骸を丁重に弔った。
弔いを終えると、皆で手を合わせる。
「さあ……景虎殿への書簡をしたためねば……」
ーーーー
~報告書~
連合軍総大将 長尾景虎様ーー
里見義堯殿が、北条水軍を撃破。
さらに北条水軍総大将、梶原景宗を捕縛いたしました。
これにより、相模湾における北条水軍の脅威は大きく退けられたものと存じます。
小田原包囲を行う日程につきましては、伝令兵に伝えておきます。
なお、方円殿との連絡には、一日程の時間差が生じております。
以上、戦況の報告といたします。
何卒ご確認くだされたく。
佐竹義重
ーーーー
こうして――
相模湾の死戦は、里見勢が勝利を収めた。
だが、里見勢にも少ないながら被害が出た。
そして――
片腕を負傷させた、あの勇敢な兵。
彼が命を懸けて怪物へ与えた一撃は、後々まで物語として語られることとなる。
それを、この時の誰もまだ知らなかった。
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コメント
1件
おおおお、第二十八章読んだよー!😭🔥🔥 もう海戦の臨場感がやばかった…!梶原景宗の「乗れよ普通!乗るだろ!!泣」には笑ったけど(笑)、その後一騎打ちに臨む姿はめっちゃカッコいいし、義堯が最初は断って最後に乗った流れも熱すぎる🔥🔥 「怪物」って呼ばれる存在と戦う覚悟、敵ながら見事だった…! それに、勇敢な兵が命懸けで与えた一撃が後々語り継がれる伏線がもう…泣ける😭💦 戦の悲しさもちゃんと描かれてて、琴寧さんの戦国愛がひしひしと伝わってきます!!次も楽しみにしてるよ〜!!📖✨