今頃?って感じの続きです
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ガチャッ
らっだぁが帰ってきてしまった。
まだ泣き止めていないし、心の整理もついていないのに。
「ぐちつぼ?」
心配が滲み出た声で名前を呼ばれる。
皆に俺の体調が悪いと聞いてきたのだろう。
とにかく泣いているところは見られたくない。
せっかくの誕生日なのに俺のせいで悲しい思いをして欲しくない。
早く泣き止まなければ。
泣きやみたい、泣きやみたい、そう思っているのに涙は次から次へと溢れだしてくる。
泣いていることがバレないようにと、必死に声を抑えて泣く。
しかし、らっだぁ相手に俺が騙せる訳もなく、すぐに被っていた布団を剥ぎ取られてしまった。
「えっ!?ちょ、ッ、ぐちつぼ?」
「なんで泣いての!?」
俺の顔を見た瞬間、焦った顔してすぐに抱きついてくるらっだぁに少し喜びを感じつつ、涙は一向に止まる気配はなかった。
「….ふぅっ、ッ、…ら、だぁッ、…」
「落ち着いてね、そう、らっだぁだよ」
「そんな泣いてどうしちゃったの?なんかパーティーで嫌なこととかあった?」
いつも通りの安心する落ち着いた声でそう問われれば、何もかも言ってしまいそうになる。
でも、こんなこと言っても迷惑をかけるだけ。
他の人に貰った高級腕時計じゃなくて、俺が買った時計をつけて欲しいだなんて自分勝手すぎる。
そんなことで泣いている自分が惨めでしょうがない。
今だってらっだぁの腕で光る腕時計を見て自分が嫌になる。
今抱きしめられているのは自分のはずなのに着けている腕時計は他人のもので。
そりゃあまだ俺はあげてないし、あげたら気を使ってつけてくれるかもしれないけど。
そうやってしょうもないことで嫉妬してる自分も馬鹿みたいで惨めだった。
俺から返答がないことで、俺を見つめながら心配そうな顔をしているらっだぁを見て申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「なんでも、ないッ、」
必死に涙を止めて言葉を紡ぐ。
それでもらっだぁの俺を見つめる心配そうな表情は変わらずに、また腕の力を強めて俺を抱きしめた。
「こんなに泣いて何でもない訳ないでしょ?」
「なんでもいいから言ってみ?」
「ほんとにどんなことでも大丈夫だから」
そんな優しくしないで。
俺はこんなみっともない嫉妬で泣いているような奴なのに。
言ったら迷惑がかかる。そうわかっているのに 、らっだぁに優しくされてしまったら、もう逃げ道はないようだ。
「…と、けぃがっ、、ッ」
「時計?これの事?今日プレゼントで貰ったやつだけど…」
「やだッ、それっ…」
「この時計がやなの?」
「…ふっ、…ぅ、っ」
「ん、わかった、今外すね」
泣きながらの拙い言葉から俺の感情を読み取り、時計を外してくれた。
でも、そんな事言って俺は何をしたかったのか分からない。
時計を外してくれたからって何かが変わる訳では無い。俺の時計をつけてくれる訳では無いのに。
「…っ、ぅ…ら、だぁ、」
「うん、らっだぁだよ、ゆっくりで良いからね」
ずっと溢れ続けている涙は、らっだぁの綺麗なコートをどんどんと濡らしていっていた。
それでも、涙は一向に止まる気配はなく、呼吸も乱れてきた。
呆れられるのが怖い、面倒臭い奴だと思われるのが怖い。
でも、俺の時計をつけて俺だけ見てて欲しい。
そんな我儘な奴はいつか嫌われるんだ、って分かってるはずなのに。
「…ぅ…ごめ…ッ、ん…」
「なぁんでぐちつぼが謝るの?」
「なんもしてないでしょ」
「…っ…わがまま、言ってッ」
「こんな事で我儘なんて思ってないよ」
「それにどんな我儘でもぐちつぼの願いなら全部叶えてあげるよ」
ぽろぽろと、また涙がこぼれた。
らっだぁが、俺の身体をぎゅっと抱きしめた。
力強くて、でも壊さないように優しくて。
俺はもう、抵抗する力もなくて、ただただ、その腕の中にしがみついた。
「……っ、俺、俺……、」
ぐちゃぐちゃに泣きながら、俺はぽつりぽつりと話し始めた。
プレゼントのこと、会場で感じた寂しさのこと、自分がちっぽけに思えて怖かったこと。
全部、全部。
らっだぁは、一度も俺の言葉を遮らなかった。
ただ黙って、俺の背中をさすりながら、ずっと、そばにいてくれた。
全部吐き出して、俺はもうぐったりしていた。
ぐしゃぐしゃの顔をらっだぁの胸に押しつけたまま、かすかに肩で息をしている。
「……そっか」
らっだぁの声は低くて、あったかかった。
俺の髪を撫でる手は、最初から最後まで一度も止まらなかった。
「ごめん、寂しかったよね」
するとらっだぁは、そっと俺の顔を持ち上げた。
濡れた目を、じっと見つめてくる。
「ありがとう、俺のために頑張って選んでくれて」
その言葉に、胸がぎゅうっと痛くなる。
俺なんかが、ありがとうって言われるなんて、思ってなかった。
「プレゼント……渡してくれる?」
らっだぁはにこっと笑った。
安心させるみたいな、柔らかい笑顔だった。
「ぐちつぼからもらえるもんだったら、なんでも嬉しいよ。なにより、ぐちつぼが選んでくれたってだけで、特別なんだからさ」
俺はぶるぶる震える手で、ベッドの脇に置きっぱなしだった小さな包みを取った。
くしゃくしゃになった包装紙を、震えながら差し出す。
「……これ」
らっだぁはそれを受け取ると、ものすごく大事そうに、丁寧に包みを開いた。
中から出てきたのは、シンプルな黒の腕時計。
大きくないけど、どんな場面でも使いやすい、俺なりに一生懸命選んだやつだ。
らっだぁは、じっとそれを見つめて――ふっと、嬉しそうに目を細めた。
「……めっちゃいいじゃん」
優しく微笑んで、すぐさま自分の腕に巻く。
そして、誇らしげに俺に見せつけるように、腕を振った。
「これから毎日つける。ずっと。ぐちつぼがくれたやつだから」
俺はまた、涙がこぼれそうになった。
でも今度は、悲しい涙じゃなかった。
「ぐちつぼのプレゼント、世界一嬉しいよ。……ほんとに、ありがとう」
らっだぁはそう言って、俺の額に優しくキスを落とした。
あたたかい。
胸がいっぱいになって、俺はぎゅっとらっだぁにしがみついた。
この人が俺をちゃんと見てくれてる。
俺の気持ちを、大切にしてくれてる。
ぐしゃぐしゃに泣き腫らした目で、それでも俺はやっと、少しだけ、笑えた。
ぎゅうっと抱きしめあったまま、しばらく俺たちは何も喋らなかった。
けど、静かな時間が苦しくなかった。
らっだぁの腕の中は、すごくあったかくて、安心できた。
「ぐちつぼさ」
ふいに、らっだぁがぽつりと呟く。
「今日、パーティーでいっぱい回ってたけどさ、俺、ずっと思ってたんだよ。……早くぐちつぼに会いたいなって」
びっくりして顔を上げると、らっだぁは照れくさそうに笑った。
「お前の顔見るだけで、ホッとすんの。……ぐちつぼがそばにいてくれないと、なんか落ち着かない」
不意に、胸がぎゅっとなった。
こんなにもあったかい言葉を、俺は、俺なんかが、もらっていいんだろうか。
らっだぁは俺の頬にそっと手を添える。
そして、まっすぐな目で見つめてきた。
「ぐちつぼは、俺にとって、一番大事な人だよ」
低く、優しく、言い切るように。
逃げ場なんか作らずに、真っ直ぐに。
俺は、こらえきれなくて、また泣いた。
でも今度は、悲しくてじゃない。
嬉しくて、安心して、どうしようもなくあったかくて、泣いた。
らっだぁは、そんな俺を何度も何度も撫でて、
「かわいいな」
って、笑いながら言った。
「俺、ぐちつぼが泣いてても、笑ってても、怒ってても、全部好きだよ」
そんな甘いことを、当たり前みたいに言うから、俺は顔を隠して、ぎゅっとらっだぁにしがみついた。
「……らっだぁの、ばか」
「うん、ばかでいいや」
笑いながら、らっだぁは俺にキスをくれる。
おでこ、頬、鼻先――それから、そっと唇に。
優しくて、甘くて、やわらかくて。
ああ、俺はこんなにも、この人に愛されてるんだなって、やっと思えた。
「……おかえり、ぐちつぼ」
耳元で囁かれて、俺は小さく笑った。
「……ただいま」
コメント
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続きをお待ちしていました…!!ニヤニヤしすぎました、読むことができて幸せです🥰 思いが通じて本当に良かった…!書いていただき本当にありがとうございます🙏