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胸糞悪い感じで終わるので注意です⚠️⚠️
R18も注意です‼️‼️‼️
「テン、今日上の階だからな。」
当然の如く店長から毎日使ってる3階の部屋のプレイルームの鍵を借りようとしたところ、最上階のルームキーを渡されテンは少し驚いた。白くつるつるしたカードキーに金色の箔が押してある。
「ここで働いてもうすぐ二年になるけど初めて見た。へーキラキラカード。」
エアコン効いてるんだろーなとボヤいたら除湿も完璧よ、と店長が更にドヤる。この国を微笑みの国と呼ぶ人間は空港とビーチにしか滞在しない。気温が高いだけでもしんどい季節、さらに湿気まで凄まじいこの国で暮らす上で冷房と除湿が整った部屋は何より魅力的だ。勿論テンのような男娼にとってもだ。
「呑気な奴だな。平日ど真ん中にいきなり予約入れるんだもんな。金持ちの外国人の考えることは分からん」
「ワァオ、『シャチョウサン?』それともジェントルマン?」
「アジョシだ。多分な、」
名前はチョンさんだ、韓国語話せるお前なら余裕だろ。間違ってもヤリスの話をするなよと冗談を交わした後、テンは馴染みの店で爪を整えることにした。
「あんた、大丈夫なのそれ。」
この仕事を始めた時から知っている姉のようなネイリストがテンの話に顔を曇らせる。今晩の客の韓国人の話を少しした途端これだ。
「イメプレフリータイム本番アリ、指定した女装でってそれ、どう考えてもヤバいオッさんよ」
「ヤバいオッさんかぁ」
「ネチネチ触られても頑張るのよ。身の危険を感じたら逃げなさい」
そんなに?と思いつつテンは朝よりは気落ちしながら身支度を始めた
客の指定の内容はこうだった。黒髪のロングの女性の姿で、イメプレの内容はプレイルームで話すのでなるべく普通のワンピースで待っていて欲しい。テンが用意を終え先方の指示通り店の一番いい部屋で待っていると、コン、と控えめなノック音がした。
ドアを開ければテンの目の前にいたのは仕立ての良いスーツを見にまとった東洋人だった。歳の頃はやっと成人したばかりだろうか、まだ少しあどけない頬と涼やかな目元のアンバランスさが胸をざわめかせるようで、美青年と呼んで憚りないと思った。
まさかこんな人が、こんな所になんの用事があるというのだろう。テンは素直にそう思った。
「あの…ここ、多分ちが………え?どうしたの?なんで泣いて、」
「良かった、生きてたんだね…」
突然のことに動揺して、テンは自分の肩に顔をうずめ、さめざめと泣く美青年の頭をヨシヨシと撫でてしまう。
「…取り乱してすみません、あまりにも姉に似ていたもので」
そう言って赤い目ではにかむ美青年はテンをエスコートし部屋の奥のソファに腰掛けさせる。
「出会い頭に大変失礼しました。テンさんを指名させて頂いたのには訳がありまして」
美青年はチョンジェヒョンという名前で、10年前に両親と姉を事故で失ったらしい。1年前に祖父の会社を継いでチタポンでも知ってるある大きなメーカーの代表になった。ネットの広告で偶々テンを見かけ、生き別れた姉にそっくりだということで会いに来たとのことだった。
「まるで夢みたいだ。姉さんが生きてるみたいだ…目も鼻も唇も、姉さんの形だ。」
ヒョニと呼んでくれませんか。いつの間にかテンの隣に座り直していた美青年は、見上げるようにして照れ臭そうにはにかんでいた。なるべく太い男の声が出ないように、恐る恐る彼の名を呼ぶと、ヒョニは目を潤ませてはい、と答えた。
「姉さん、」
ヒョニはテンの肩を引き、自分の胸に抱いた。ノリの効いたワイシャツから、うっとりとする没薬の香りがした。「ねえさんだ、」
甘えたような舌足らずな声が出て耳をくすぐり、思わず、なあに?と答えてしまった。耳のそばで、喉がかすかに笑う音が聞こえた。
「テンさん、今日だけでいいんです。僕の『姉さん』になってくれませんか?」
今度は顎をとられ、テンがヒョニを見上げるようにして問われた。この子と実のお姉さんは、どんな関係だったんだろう。そう思いながらも、うっとりとテンは頷いた。
その夜、ヒョニは入ってきた時の固い空気を解いて、テンに甘える弟になった。まるで会えない10年を埋めるかのように思い出を語り、褒めて欲しかった、寂しかったと訴えた。テンに出来るのは実の姉の代わりに、目の前のヒョニを褒め、えらいね、と、頬にキスする事くらいだったが、それだけで十分にヒョニは満足そうな顔をしていた。お互いの近況の話になり、大企業の代表として忙しく過ごすヒョニの話に感心していた時だった。
「姉さんは、この仕事すき?」
「え、」
急に答えに困ってしまった。過去の話はある意味巧妙に、テンがヒョニの姉について何も知らなくても受け答えが出来るよう言葉を選んだ話であったが、ヒョニのお姉さんが死んでしまった今、お姉さんの仕事について聞くという意味がわからない。
「姉さんの今の仕事だよ。好きでもない男に裸見せて、愛し合ってる気分にさせて、お金貰う仕事。辛いよね、姉さんは素直な人だから嫌な思いしてない?」
素直、か。さて、なんで答えようかとテンは必死に頭を回した。
「大変な事もあるけど、何とかやってる。ヒョニのお姉さんなのにこんな仕事してて、ヒョニ恥ずかしいよね、「そんな事ない。……でも、何でもっと早く教えてくれなかったの。僕が知っていれば、」
遮るようにして、それからまくし立てられた言葉の先が、余りにも、
「 」
恐る恐る見つめたヒョニの目はきらきらと澄んでいて、本心から出た言葉である事に疑いがない。
「ジェヒョンさん、ちょっと待ってくださ、」
「姉さん、僕ずっと姉さんの事が好きだった。」
「ヒョニ、」
「母さんに黙って、洗濯物から姉さんのパンツを持ち出した事もあったよ。たまに血がついていたっけ。それに、姉さんの、お風呂、のとき、ドアの外で水の音聞くの、好きだった。勇気がなくて覗けなかったけど、ドアの向こうで姉さんが裸だって思っただけで、あは、すごく興奮した。」
今なんて簡単に脱がせられるけどね。そんな事を言いながら着ていたワンピースに伸ばした手を思わず叩く。
「ヒョニ、ダメだよ、お前は立派な人になるのでしょう。」
そう言ってみたけど、実際どうなんだろう。テンは自分が真に求められているところが分からなくなり割と本気で焦っていた。
「怖いの?姉さん。」
いつも仕事でしてるんでしょう。耳元で囁くジェヒョンの声がこれ以上知らないくらい低くて、息がつまる。
「姉さん、やっと会えたんだよ僕たち」
今度は甘く、蕩けるような声。耳に落とされたキスに背筋が凍る。
「姉さんと、してみたい」
はぁ、と首筋にかけられた吐息は、重く湿って、べったりと喉を一瞬熱し、それから冷えて悪寒のようにテンの全身を震わせた。
お願い、ヒョニお願いよ。まるで自分が本当に彼の姉になったような気分で、テンはチョンジェヒョンの眼に訴えた。
喉も舌も悲しいほどに震えきって、怖くてたまらないのにその淵のような眼を覗き込んだ。ぱちん、と音がしたように、チョンジェヒョンは長い睫毛を揺らし瞬きをした。
安い部屋の光すら複雑に屈折させ、きらきらと反射させる宝石のような美しい瞳が細められていくさまがスローモーションで、テンは綺麗だ、と呑気に感心した。
気づけば強い力で腕を引かれ、床に乱暴に座りこまされていた。
何事かと上を向けば鼻先でぶるん、と影が揺れた。ムッと漂う匂いに喉が引きつり胃が迫り上がる。
「ねえさん、どうしよう、ぼく」
ちんちんが、いうこと、きかない
今にも泣き出しそうな声で自分を見下ろすチョンジェヒョンは、弱々しいのに高圧的だ。
自分にも年少のきょうだいがいるから分かる。時にワガママは脅しに近い真剣さで、年長であるはずのテンを屈させるのだ。それだけだ。けして、湯気でも出そうなほど凶々しく蠢くそれに見惚れたわけではない。そう言い聞かせながら、口に溜まった唾液を喉の奥に押しやった。
「あ、あ…っ、ん、んぁ、」
毎日の仕事でいやでも巧くなってしまったそれは、どんどんヒョニからも正気を奪っていく。行動が思考を支配するのか、思考が行動を支配するのか。奉仕することに没頭して、テンは恐怖から逃れようとした。
「ねえさん、ねえさんが、ひょにの、ひょにの、おちんちん、たべてる…ん、すご、きもち、ぃい、じゅぶじゅぶ、あっ、ねえさ、ね、もっとじゅぶじゅぶ、して、あっ、あっ、それ、だめ、んあっ、ねえさんっ、ねえさんに、ねえさんの、すきな、ひょにの、ひょにの、のんで、ねえさんの、すきなの、いっぱいでるから、ぁ、」
まるでヒョニの言うことが本当かのように、テンはこれでもかと口をすぼめ、ヒョニの吐いたそれを吸い上げた。ねえ、ヒョニ。姉さんは会わないうちにこんなにふしだらな女になったの。言葉にしない代わりに白く染まった舌を出して弟へ微笑んだ。弟は、部屋に入ってきた時と同じように目を丸くし、それから、同じように目を潤ませた。
「姉さん…その顔、本当に、変わらないですね」
覚えてるでしょう、あれは僕が10歳の夏。父さんと母さんが親戚のお通夜に行くから家を空けた日。姉さんが、今日みたいに僕のおちんちんを食べたじゃないですか。その時も、舌、出してましたよね。
姉さんだ、姉さんなんだ。嬉しい。
興奮するヒョニがテンの体を抱え、ベッドへ運ぶ。恍惚でキラキラと光る黒い瞳は不気味なほど綺麗だった。
ヒョニのお姉さんが生きていなくて良かった。
子供の頃何をしていたかはよく分からないけど、成人を過ぎて再会した姉に感動しながら欲情する異常者を弟と認めなくてはならなかっただろうから。
挿入し、律動しながら、飼っていた犬の話を懐かしそうにする男を弟と認めなくてはならなかっただろうから。
姉さん、姉さんとせめて名前も呼ばず姉に腰を振り、遂情した後「上手に出来ましたか?」と姉から褒めてもらおうとする男を弟と認めなくてはならなかっただろうから。
「あ、ヒョニぃ、ゃ、まだぁ…らめ、なの…」
「姉さんすごい、まだするの。」
「する、するのっ、ひょに、ほしぃ…ね、いっぱいして、ヒョニのしたいようにでいいからぁ…っ」
ヒョニのお姉さんが生きていなくて、本当に良かった。テンは疼くそこが熱で満たされていくのを感じながら、心からそう思った。
翌朝、いつの間にか穿かされたショーツに挟み込まれていた大量の紙幣を数えながらどこかへ吹っ飛んだウィッグを探す。
「………うわ、」
テーブルの上にあった経済雑誌には、心良く異国のインタビューに応える美青年が微笑んでいた。そう、テンを昨日散々好きにした男チョンジェヒョンだ。いつもなら開くことのないその雑誌をめくり、チョンジェヒョンのインタビュー記事を眺める。
「兄弟はおらず、一人っ子………」
途端込み上げた激しい羞恥と怒りは、臓腑を押し上げ床にぶちまけられた。
クソ金持ちが。空腹のまま嘔吐した負荷からか、テンはすえた匂いのする床へ倒れ込んだ