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※妖怪パロ
チリン
風に揺れて葉が重なる音に混ざって、あの子のオトが近づいてくる
チリン
かわいい、小さな鈴のオト
「じゅーはち」
声と共に左肩に心地よい重みが降りかかった
「どこの野良猫かと思った」
「ひどい!」
少しだけ毛を逆立てながら、言葉を発するその猫は…いや、猫又は馴染みのまちこだ
「しばらく来なかったね」
「そうだっけ?」
とぼけながら当たり前のように膝に移動する
ちょこんと脚を揃えて座る姿が可愛らしいのはいつも通り、ではあるのだが…
「また人里に降りてたの?色んな匂いがついてる」
「まーね」
「毛色まで変えてる」
「かわいいでしょ」
かわいいのはかわいい
つい、その柔らかい毛並みに引き寄せられて頭を撫でてやると、ゴロゴロと小さく喉を鳴らす
その様がやはり可愛らしい
「今日は何してきたの?」
「んー?ちょっとね」
一つ伸びをすると、まちこは膝から降りていった
もうちょっと触りたかったなあ、なんて残念に思っていたら、ポンッと音がしたあと人型の彼女が現れた
「そのままでいいのに」
「ええ??普通はいつまで猫のままでいるの?って言うところじゃない?」
「ネコちゃんのままが良い」
「えぇ…」
納得いかない、という顔をしているがしょうがない
彼女はここら辺では、いっとう美しい猫なんだから
…当の本猫に伝えたことはないが
なんて考えていたら、ふと最初の疑問を思い出した
「それで?今日はどの人間を救ってきたの?」
「救ってなんかないよ。いつも通り寄っただけ」
「どんな人間なの」
「んー?いーおばーちゃん。ご飯くれたし、お膝に乗せてくれたし、撫でてもくれた」
彼女が気に入りの人間のところに通っては、手厚くもてなされていることは知っている
だが、今回はそれだけじゃない
「いつまで?」
「今夜、かなあ」
猫又の能力か、はたまた獣の勘か死期がわかるのだという
そんな時にはわざわざ出向いて、その身の小さな温もりを与える
それに触れてから最期を迎えるのだから、彼らはさぞ幸せだろう
「人間が好きだね、まちこは」
「まあ、まだ猫だったときは一緒に暮らしてたし」
「そう」
「ん!そうだ!町の西の端っこに住んでる若い男が『明日の晩』だよ。とことん悪いやつだったなあ。じゅうはちホキューしたら?そろそろでしょ?」
とまあ、その能力をこんな風に使ってくれたりもするのだが
「…毎度お世話様」
「あーい、んじゃね」
伝えたいことを言い終えたのか、彼女はくるりと背を向ける
久々に顔を見せたというのに、忙しない子だ
「どこに?またどっかの子を世話してるの?」
「ちっちゃいの連れた子を何匹か?じゃっ」
シュッ
「あっ」
チリン
軽やかな足音とちいさな鈴のオトを鳴らして彼女は消えた
柔らかな毛並みと小さな温もりの感触を思い出して、一つ息を吐く
ーーどうして私には懐かないかなぁ