しばらくの間、誰も話をする気配がなかった。
ミノリは……言うまでもないな。
マナミ(茶髪ショートの獣人)はスヤスヤと気持ちよさそうに眠っているシオリ(白髪ロングの獣人)の頭を母親のように、そっと撫でている。(俺もしてほしい)
ツキネ(変身型スライム)は、さっき俺が開けようとした壺を開けようとしている。
コユリは……言いたくない……。
今、俺たちはそれぞれがしたいことをしている。
あー、サナエ(『ダークネスパラダイス』の主)でも、魔王でも、妖精でもいいから、今のこの状況をなんとかしてください。お願いします!
まあ、そんな俺の願いを叶えてくれるやつがいるわけ。
「どうやら、お困りのようですね。私がなんとかして差し上げましょうか?」
急に俺の目の前に現れたそいつは、俺にそう言いながら、俺の顔を覗き込んできた。
な、なんだ、こいつ。もしかして俺の願いを叶えるためにわざわざやって来たのか?
「はい、その通りです。私はあなたさまをサポートするために派遣された『妖精型モンスターチルドレンのナンバー 十五』です! とりあえず今は『イチコ』とお呼びください!!」
「……ええええええええええええええええええ!!」
俺の異変を察知した五人は、俺を守るように戦闘態勢に入った。
ミノリは例のメイド服っぽい服に、他の四人(ツキネは『かな子さん』の服)は、いつもの服に一瞬で着替えていた。(いつもの服→白いワンピースのこと)
さっきまで自分たちのしたいことをしていた彼女らが幻であったかのような動きだった。
五人とも目の前の妖精を敵視していることが人間の俺にでも分かるぐらいの殺気を放っている。
これが彼女らの本能なのだろうか? まるで主人を命がけで守る『イージス』のようだ。
十秒くらい、そんな状態が続いた後、ミノリ(吸血鬼)が口を開いた。
「あんたが、このバカの担当なの?」
「おい、バカはないだろう、バカは」
「うるさい。あんたは黙ってて」
「お、おう」
そう言い返された俺のメンタルは、少し傷ついた。
こんな時でも容赦ないな……。理不尽だな……。でもそこが……。
おっと危うく何かに目覚めるところだった。危ない、危ない。
そんなことを考えているうちに今度は妖精が口を開いた。
「はい、この度『本田 直人』様の……マスターナンバー 十五の担当になった者です。以後、お見知り置きを」
そんな挨拶を物ともせず、ミノリは要件を伝えた。
「そんなことはどうでもいいのよ! それより、どうしてあんたがここにいるのかを教えなさい!」
こういう時のミノリはかっこいいな……。しかし、この妖精は一体何なんだ? 体長は十五センチほどで髪の色は黄緑色で髪型はショートヘア。
目はエメラルドグリーンのような色で服は葉っぱでできている。
背中に生えている四枚の翼は、ちょうどコユリ(本物の天使)のそれと同じだ。
俺がそんなことを考えている間に『イチコ』がこんなことを言った。
「そんなこと、私に言われなくても分かっているはずです。そうですよね? 吸血鬼型モンスターチルドレンのナンバー 一……『強欲の姫君』さん」
その直後、彼女に対するミノリの殺気が今まで以上に膨れ上がった。
その証拠に部屋全体が小刻みに震えていた。
「……いったい、どこのどいつよ。あんたにそんなことを吹き込んだのは……」
「はい?」
「あたしの過去を語った愚か者はどこのどいつかって訊いてるのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
その時、突風で飛ばされそうになった俺を一瞬で他の四人が守った。
マナミ(茶髪ショートの獣人)が結界(?)を張ると、シオリ(白髪ロングの獣人)は右手で俺に触れて『グラビティコントロール』を発動。
ツキネ(変身型スライム)は結界に水のようなものをかけて強度を上げ、コユリ(本物の天使)はミノリ(吸血鬼)から溢(あふ)れ出る黒いオーラを光で照らし、俺に被害が及ばないようにした。
しかし、なぜか『イチコ』はケロっとしていた。
「あれが、ミノリ……なのか?」
ヤギのような二本の角、いつもより尖った耳、背中にはコウモリのような翼が生えており、犬歯は口を閉じていても少し見えるくらい伸びている。
魔法を使う時より、紅く光っている紅い瞳からは禍々しいオーラを感じる。
ちなみに、服は出会った頃にずっと着ていた白いワンピースである。(ツインテールにするために付けていた赤と黒が混ざったリボンは、どこかに飛んでいった)
しかし、それら異常に、いつものミノリとは大きく異なる点があった。
それは……髪だ。それも、白よりもずっと白い純白の髪。名付けるなら『トゥルーホワイト』。
そんな名前が思い浮かぶほど白く……美しい髪だった。
「おい、誰でもいいから教えてくれ。ミノリのあの姿はいったい何なんだ?」
吹き荒れる旋風の中、その問いに答えてくれたのはマナミ(茶髪ショートの獣人)だった。
「あ、あれがミノリちゃんの本来の姿です」
「……そうか。なら、ついでに教えてくれ。妖精が言っていたことは本当なのか?」
「はい、本当です。私たちも噂でしか聞いたことはないですけど……」
「お願いだ、マナミ。お前が知っている範囲でいいから、あいつのことを教えてくれ! 頼む! この通りだ!!」
俺はマナミの目の前で頭を下げ、手を合わせながら、懇願した。
マナミは少しの間、何も言わなかったが少し時間が経つと答えてくれた。
「わ、分かりました。私の……いえ、私たちの知っていることを、ナオトさんに話します」
「ありがとう、マナミ! 恩にきる!」
「で、でもこれだけは約束してください」
「な、なんだ?」
「ミ、ミノリちゃんの過去を知っても、ミノリちゃんのことを……嫌いにならないでください!」
マナミは頬を真っ赤に染めながら、俺にそう言った。マナミの真剣な表情からは、心からあいつのことを大事にしていることが伝わってきた。
「ナオ兄、私からもお願いがあるんだけど、いい?」
「おう、なんだ?」
「ナオ兄は、ミノリお姉ちゃんのこと好き?」
「…………!!」
「ねえ、どうなの? ちゃんと答えて」
参ったな……。まさかシオリにそんなことを訊かれるなんて、思ってもみなかった。
けど、シオリ(白髪ロングの獣人)にとっては、ここにいる全員がお姉ちゃんみたいなものだもんな。
俺には兄弟がいないから分からないけど、もしいたらシオリと同じことを考えるのかな……。
「……そんなの当たり前だろう。あんなに可愛いお嫁さん、俺にはもったいないくらいだ。そ、その……つまり、お、俺は……あいつのことが……」
「えーっと、そこから先は本人に直接伝えた方がいいと思いますよ?」
俺の告白を邪魔……もとい阻止したのはツキネ(変身型スライム)だった。
相変わらず俺で遊んでいる気がするが、根はいいやつなのは確かだ。
「そうだな。お前の言う通りだよ、ツキネ。ありがとな」
「いえいえ、それほどでも。というか、私からもお願いがあるんですけど、いいですか?」
ツキネが俺に? うーん、一体何をお願いされるだろうか……。まあ、とりあえず聞いてみよう。
「ああ、いいぞ」
「本当ですか!」
「ああ、もちろんだ」
「それではお言葉に甘えて……。えー、私のお願いはですね……『これからもミノリさんを一人にしないこと』……です! 分かりましたか?」
そんなことをするつもりは一切ないのだが……まあ、いいか。
「了解した! サンキューな、ツキネ!」
「いえいえ、それほどでも」
「話は終わったかしら?」
「ええ、どうぞ、どうぞ」
どうやら、コユリ(本物の天使)も俺に言いたいことがあるようだ。
いつもミノリ(吸血鬼)と敵対しているコユリだが、本当はミノリのことを一番よく考えているのかもしれない。
「マスター、何か勘違いなさっているようなので言っておきますが、私は別にあの吸血鬼がどうなろうと構いません、ですが……」
「ですが?」
「正直、あの吸血鬼がいないとマスターが悲しむ恐れがあります……。ですから、私はあくまでマスターのために行動します」
素直じゃないな、コユリは。
まあ、ミノリとコユリは少し仲が悪いくらいが、ちょうどいいのかもしれないな。
「そうか。じゃあ、そんなライバル的存在のお前の意見を聞かせてくれ」
「……分かりました。ただし、マスターといえど二度は言いませんよ?」
「ああ。一言一句、正確に聞き取ってやるよ」
俺のその言葉を聞くとコユリは優しく微笑んだ。
「分かりました。その言葉、忘れないでくださいね」
「ああ、もちろんだ」
「それでは参ります」
「ああ、よろしく頼む」
コユリは、二回深呼吸するとキリッとした目つきになった。
「あの吸血鬼が暴走する前に元に戻してください! というのが、私のお願いです……」
俺はこの時、なんだかんだ言って一番ミノリのことを心配しているのはコユリなんだな……と思った。
「それがお前の願いなんだな。伝えてくれて、ありがとう」
「マスター、私に感謝する前に、あのアホ吸血鬼を助けてあげてください」
「それもそうだな……よし、それじゃあ、まずはミノリをなんとかして元に戻すぞ! 今、作戦を考えている余裕がないから本作戦は俺の独断で行う! 質問は一切受け付けない! 以上!!」
「りょ、了解です!」
「りょうかーい!」
「了解です!」
「承知しました」
「よし! それじゃあ今から、作戦名『ミノリを救出せよ!』を実行する!」
俺は深く深呼吸し、緊張をほぐした後、こう宣言した。
「みんな! なんとしても、ミノリを助け出すぞ! それじゃあ『ミッションスタート』!!」
『おーーー!』
俺とミノリ以外のみんなは、大声でそう言った。
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