海は凪いでいる。その穏やかさと物静けさには寂しさを覚える程、水平線が輝いて見えた。
※※※
とある島の港に、黄色の丸い造形をした潜水艦が停まっていた。甲板には、ペンギンの帽子を被ったクルーらしき人物が一人。タオルを物干し竿に掛けていた。その後、初めて言葉を発する。
「…ふぅ、全部干したかな」
ほんの少しの達成感。でもここでは当たり前。
ペンギン帽子のクルーは、タオルを全て干しきった事を確認すると、一息つき辺りをきょろと見回した。
その動作は必然的に行うかのように、警戒を張り巡らせるようにして、目をやった。
だが、その心配は無用と等しく、ポーラータング号へ向かってきたのは、誰でもない。刀を左手で握り、肩に軽く置くようにして担ぐ。他は、特徴的な帽子を被っており、腹部から胸部にかけて大きくタトゥーが彫られている。
それに気づくなりして
「あ」とペンギン帽子のクルーは言葉をこぼす。
「キャプテン!」
手を振り笑みを浮かべながら、そう呼んだ。
すると、キャプテンと呼ばれるひとは、数十メートルは離れているであろう丘から、 彼も、少し笑っているような顔をした。
そうしてペンギン帽子に軽く手を振ってみせた。
潜水艦の近くまでたどり着く。
「何処に行ってたんです?」
ペンギン帽子は問う。
「…町に、鎮痛剤を買いに行っていた」
彼の問いに、間を開けてから答えた。
それに続けて─── 「きれていた鎮痛剤が、丁度同じものが町にあったんだ」
あぁ、たしかにきれてましたね、とでも言うように「うんうん」と納得した様子で相槌を打った。
※※※
彼の名は、トラファルガー・ロー。
元、王下七武海の一人であるローが船長を務めるのはハートの海賊団。
船員のほぼ全員が同じつなぎを着用している。
黄色の丸い造形をした潜水艦は、上記のようにポーラータング号と名付けられている。艦内は医療器具が充実しており、船内は清潔で、隅から隅までつんと鼻を突くようなエタノールの匂いがする。
海賊船…というよりは、医療船のようなもののほうが、合っているようにも思えるほどに。
そして大事は、クルー等の全員はローをリスペクトしているのだ。
これは、決して揺るぎない事実だった。
「キャープテーーン!」
どこからか、少し高めの声色が聞こえる。
声がするのは後方だったので、すぐさまに目を向けると、そこには白くもふもふしたきゅるんとした無垢な丸い目をした喋るクマ。
「何処に行ってたのー?」
既視感を覚えるその言葉を聞いて、ローは一瞬黙り込み、それから
「ペンギンに聞いてくれ」とだけ言って、スタスタと艦内に入っていってしまった。
「え、え、怒らせちゃった?どうしよぉ!」
不安と心配で白い毛を青褪めたのは、ベポというハートの海賊団の一人。
「大丈夫でしょ。怒ってる感じはしなかったし」
と、ベポを落ち着かせるように慰めた。
「ほんとかなぁ…」
不安はおさまったような、ないような。
ペンギンに言われるも、やはりまだローが怒っているのだと思っている。
※※※
そんなこんなで一時間が経った。
ローは甲板に出てきた。
そしてここにいるクルー達に、
「全員集まったら船をだす」と伝える。
どうやら嫌な予感がするらしい。
まだ、船に戻ってきていないのは、たった一人だけだった。
ローの言葉に依って、クルー達の緊張と警戒はより深まったように感じる。
「遅いな、シャチ…」
手すりに凭れるペンギンは心配の言葉を漏らす。
シャチはローと共に町へ出掛けていたが、途中で別行動となっていたという。
単に買い物が長引いているだけだろうと思い、少し待とうと決めた。だがその矢先に、先程ローが通った丘を走っているシャチが見えた。
何やら様子がおかしい。
買い物にしては不格好すぎる何かを抱えていた。
それが気になり、クルー達は目を凝らしてよく見ると、シャチの体は所々土で薄汚れており血を流している。
後ろには、複数人の白い服を着た人間。
…奴らの服には、“正義”の文字。
ローの嫌な予感もついに当たってしまう。
「LOOM…」───能力を使おうとした。
その瞬間、一人の海兵がシャチに銃口を向け、引き金から指を覗かせ、力強く引いた。
銃弾は、シャチの帽子を貫き、太陽に反射するサングラスをきらりと光らせた。
これ以上撃たせまいと、
ローは「シャンブルズ!」ととなえ、 ペンギンが先刻干していたタオルを一枚犠牲に、シャチはポーラータング号の甲板に姿を現す。
その拍子に、シャチが抱えていた何かはまだ丘の上に横たわっている。
海兵等は驚いた様子で首を上下左右に振る。
「奴らが来る前に、全員持ち場につけ! 」
「逃げるぞ!!」
ローは叫んだ。クルー達は、シャチを医療室に運び込むのと同時に出港の手筈を済ます。
海兵等は、ロー達がいることに気づいていた。
なのに、追って来る気配は見せず、 寧ろ丘の上にある何かのほうに駆け寄ろうとした。
すると、医療室に運ばれるシャチが口を開く。
それはとてもか細く掠れた声だった。
「あの子を……助けてやって…っ」
あの子?
疑問がペンギンの脳を刺す。
素早い動作で、先程の丘に目をやる。
てっきり、町で買った荷物だと思い込んでいたものの正体をやっとの思いで気づいた。
帽子で陰るペンギンの目は、大きく見開いていた。
「やべぇ…キャプテン!!」
「あれ…」──それは信じ難い言葉だった。
「女の子です!!!」
「なんだと…?」
流石の、ローでもぴくりと少し揺らぐ。
それでも、ロー達は海賊。
たった一人の女の子を助けるほど、情はないと思えたが、 うちのクルーの頼みには応えようとする、ローなりの優しさもあった。
そうして、沖から離れてしまっているので、先程よりも 広範囲に青いドームを発動。
タオルを一枚、犠牲にする。
それに関し、ペンギンは、次の島で新しいタオルを買わねばと案じるのだった。
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