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前の人に続いて歩きながら、大きく息を吸った。山手線を降り、ホームを歩いている。通勤ラッシュで人が多い。
今日は、入社式。勤める会社に初めて出勤する日。社会人一年目のはじまりの日なのだ。
階段を降りる。階段は人がひしめき合っていて、ぞろぞろと同じペースで人の頭が移動していく。この時間帯、どこの駅に行っても大体こんな感じだ。最早、当たり前で不思議なこととは思わない。
完全なる人の流れに乗り、駅の改札を出る。東京駅の丸の内側は駅舎がレンガ造りだ。天井が高く、自然と背筋が伸びる。
そうここは、東京丸の内。色んな人、物が交差するこの街で、俺は仕事を始める。
駅を出て歩いていると、人の流れが分散し、色んなビルに吸い込まれて行く。
俺の勤めるオフィスのあるビルにも同じような人の流れがあり、それに続く。
回転ドアを抜け、中に入る。エレベーターホールには10人ほど並んでいたが、エレベーターは4基。直ぐに列は解消し、エレベーターに乗り込む。
オフィスは11階。途中の階で何度か止まり、少しずつ人が減っていく。11階に近づくにつれて、着いたらどうしようと、不安感が増していく。
とうとう11階。
扉が開く。自分の前にいた人も降りるようで、後に続いてエレベーターを降りた。
エレベーターホールから受付の方に向かうと、「新入社員の方はこちら」という表示が出ていた。
矢印に従い、会議室とみられる部屋へ向かう。
入口で受付をしているようだった。
「おはようございます。お名前をお伺いしてもいいですか?」
「冬川雪也です」
「冬川さんですね….」
受付の人は、名簿から俺の名前を探していた。
「ふ」は50音順で後ろの方だ。時間がかかるのだろう。そう思った。
しかし、受付の人は首を傾げている。
「冬川さん、申し訳ないのですが名前がございません。弊社でお間違いないでしょうか?」
そんなことがあるのだろうか。不安感が最高潮に達した。「なぜ」が頭の中でぐるぐると回り始めた。
「間違いないです」
自分の後ろに人が並び始めたのが分かった。次のエレベーターが着いたのだろう。
受付の人も、俺も困ってしまい。数秒間、時が止まったように感じた。
そのとき、後ろから声が聞こえた。
「冬川くん?」
聞き覚えのある声だ。
「やっぱりそうだ。こっちこっち」
間違いない。あの人だ。
俺はすぐさま声の主の方を見た。
(第二話に続く)
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