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出発まで、あと一週間。
ミユはその日、一日中落ち着かなかった。
授業中も、帰り道も、頭の中に浮かぶのは同じ顔。
――コビー。
(……無理)
理屈ではわかっている。
フランス行きは、彼女の未来に必要な選択だ。
でも、心は別だった。
生徒会室の前で立ち止まり、深く息を吸う。
「……逃げない」
そう呟いて、ドアを開けた。
中には、コビーが一人で書類整理をしていた。
「会長?」
顔を上げた彼は、すぐにミユの異変に気づく。
「どうしました?」
ミユは返事をせず、ドアを閉め、鍵をかけた。
「……少し、話がある」
声が、震える。
コビーは椅子から立ち上がった。
「はい」
ミユは数歩進んで、彼の前で立ち止まる。
視線を合わせられず、ぎゅっと拳を握る。
「……私、フランスに行くって決めた」
「……知っています」
「でも」
その一言に、コビーの胸がざわつく。
ミユは顔を上げた。
頬は赤く、目は必死で、いつもの会長の顔じゃなかった。
「……やっぱり、離れるのが嫌」
コビーの呼吸が止まる。
「副会長としてじゃない。
生徒会長としてでもない」
一歩、近づく。
「……恋人として」
言葉が詰まり、唇を噛む。
「一生に一度のお願い」
ミユは、勇気を振り絞るように叫んだ。
「私と一緒に、フランスに来て!!」
沈黙。
一秒。
二秒。
コビーの目から、ぽろっと涙が落ちた。
「……ずるいです」
声が震え、喉が詰まる。
「そんな顔で……そんな言い方で……」
ミユは息を呑む。
コビーは笑おうとして、失敗した。
「行かない理由、なくなりました」
涙を拭いもせず、一歩前に出る。
「喜んで!!」
少し泣きながら、でもはっきりと。
「あなたと一緒なら、どこへでも行きます」
その瞬間、ミユの瞳からも涙が溢れた。
「……本当?」
「嘘ついたら、一生恨まれてもいいです」
ミユは、耐えきれずコビーの胸に顔を埋めた。
「……ありがとう」
「こちらこそ……」
コビーは、強く、でも優しく抱きしめる。
「離れないって、言いましたから」
「……言質、取ったわよ」
「一生分です」
夕方の光が、生徒会室を包む。
未来は、まだ不確かだ。
でも――一緒に行くと決めた。
恋も、進路も、単独行動は禁止。