テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
───この世は決して平等ではない。
神が定めた法の元に全てが成り立っているが、神の匙加減一つでその法すらも全てが変わる。
この世の王は神だ。
神が全てを支配者し意のままに操っている。
故に、神に愛された種のみが繁栄し神の嫌う種族が衰退するのもまた自然の摂理と言える。
だが、何時からだろう。
神に愛された人という種に嫌悪を抱くようになったのは。
何時からだろうか、生みの親であり絶対の忠誠を誓う存在である神に不信感を覚えるようになったのは。
はっきりとは思いだせない。
ただ、それがきっかけで私が神に反逆し天使として堕天した事は、はっきりと覚えている。
───神は私の命を取らなかった。
私は神の気まぐれによって生かされた。
敗者であり、本来ならば死すべき存在であるにも関わらず私は惨めにも生きていた。
何故、神が私を生かしたのかその理由を知ったのは私が神に歯向かった半年後、その身に受けた傷が癒え堕天した事によって反転した力の性質に私が慣れた時の事だ。
神を殺める術を探す私の前に金色の勇者アルフォートが姿を表した。
一目見ただけで私は敗北を悟り、同時に神が私を生かしたかその理由を知った。
───私は勇者の名を広める為に神によって用意された踏み台であったのだ。
神が私を見逃したのもアルフォートという特別な存在を神が見つけたからに過ぎない。
神の声を聞く事が出来、神の依代になれる存在などこの世全てを探せどアルフォートしかいない。
神に反逆したとはいえ、アルフォートという神にとって見逃す事の出来ない貴重な存在と比較すれば私などとるに足りない存在に過ぎなかったのだ。
故に見逃しその上で私という存在をアルフォートの為に利用する。
そう、全ては神の思惑通りに進んでいたのだ。
───私は勇者に敗れた。
愚かにも神に逆らい堕天した悪しき天使を金色の勇者アルフォートが倒したと、その一報が神の手により大陸全土に広がった。
それにより悪竜の討伐などで既に金色の勇者として認知されていたアルフォートの名声は確固たるものとなった。
私はこの為だけに生かされたのだ。
そして、勇者の慈悲により生かされた私は天使の手により神の前に連れて来られた。
死ぬ事は既に怖くなかった。
全てに絶望した私は既に死すらも受けいれていた。
だが、神は私に死という終わりを与えてはくれなかった。
不死という祝福を私に与えその上で私の本来の力を封じ人の世に放り出した。
既に大陸全土に私の悪名は広がっていた。
人が信仰する神に逆らう愚かな存在。
金色の勇者アルフォートによって倒された悪しき堕天使。
そんな私が人の世に放り出されればどうなるか、分からないほど私は馬鹿ではない。
───裁きと称し人の手によってあらゆる方法で幾度として殺された。
死ぬ度に蘇り、そして死ぬ。
死ぬ事も出来ず延々と続く苦痛のみが私に与えられた。
これこそが神に逆らった者の末路なのだろう。
この世の王たる絶対者に歯向かった罰なのだろう。
それでも、私はこの世界のあり方を認める事は出来なかった。
2年の月日が経過した頃、私はある王族の奴隷として扱われていた。
勇者を介した神の命に人が従った為だ。
獣が身に付ける首輪を嵌められこの身を縛る鎖により一切の自由が奪われた私は人の手により数多くの辱めを受けた。
不運な事に私の容姿は人にとって好ましいものであったようで私は欲のはけ口され、時に見世物として獣の真似すらさせられた。
尊厳など何もない、家畜以下の存在として私は生かされた。
気が狂いそうになる地獄のような日々。
それが終わりを迎えたのはそれから1年後の事だ。
王族のお気に入りの奴隷として王と共に他国との会談の為に馬車で移動している際に彼は現れた。
───死。
神の祝福により私には無縁のものとなった筈のソレの恐怖を久しく感じた。
ただ相対しただけで押し潰されるような威圧感を放つ死の化身。
彼が悪魔と呼ばれる種族である事を私は一目で理解した。
だが、このような者を私は知らない。
神に最も嫌われた種族であるにも関わらずこれ程の威圧感を・・・、私では決して勝てない悟ってしまうほどの強さを持つ存在を私は知らない。
故に抱いてしまった。
彼ならばこの世界のあり方を変える事が出来るのではないかと、決して叶う事のない希望を。
それこそが私が彼に───我が君に仕えるようになる一つのきっかけ。
我が君に救われ、奴隷から開放された私は頭を垂れ我が君の僕になる事を望んだ。
神によって力を封じられている身であったがそれでも止まれなかった。
何故なら、見つけてしまったのだ。
絶望の中で諦めかけた一つの希望を。
───こうして私は我が君、ハーデス様の僕として神とその傀儡たる英雄達と死闘を繰り広げる事となる。
神の加護をなくしたとはいえ英雄たる強さと技術とその経験に苦戦を強いられるも、肉体的なスペック差も相成って英雄達は次々と討たれていった。
そんな中ハーデス様によって遂に私に封印を施した神、主神ゼディウスが死亡した。
同時に世界の覇権を握る者が決定した瞬間でもあった。
漸く、世界は変わるのだ。
神によって全てを定められ、神の思い通りにしか動かない運命が動き出す。
ずっと待ち望んだ瞬間であった。
故に、その喜びに水を差すように加護を失って尚抵抗する金色の勇者アルフォートに深い怒りと嫌悪を抱き、勇者を殺す為に私を含むハーデスに最初に仕えた原初の七人───『煉獄七魔将』は動き出した。
主神の死により私は本来の力を取り戻した。
一方で勇者は主神の加護を失い大幅に弱体化した。
にも関わらず殺せない。
倒せない。
私達『煉獄七魔将』の力を持ってしてもちっぽけな一人の人間を殺せない!
それが歯痒くて仕方ない。
弱体化した勇者を殺せない私達に対して、末路が決まっているにも関わらず無駄な抵抗をする勇者に対して、ただただ怒りを覚えた。
───結局、私達の手で勇者を殺す事は出来なかった。
ハーデス様の為にと動き、それでも尚弱体化した人間一人殺せなかった。
私達はハーデス様の手によってあっけなく死んだ勇者の最後を見届けるしか出来なかった。
己の力の無さを酷く恨んだ。
そして、望んだ。
次があるなら、ハーデス様の手を煩わす事なく私の手で殺したいと。
私は決意した。
ハーデス様の第一の僕として歯向かう敵を全て薙ぎ払うと。
✱
「嗚呼、我が君⋯⋯私は漸く機会を得ました。
あの時の屈辱を、汚名を晴らす時を得たのです!」
───私を縛る鎖は己が無力の証明。
この鎖を砕くのは私の決意を果たした時と決めた。
「見ていていて下さいハーデス様!
貴方の第一の僕たる私が憎き仇的を討ち果たす瞬間を!」
───決意を胸に。
忠誠を力に。
全ては我が君の為に。
「私の全てを貴方様の為に使いましょう!
覚悟は宜しいですか黄昏の勇者アルフォート」
此度の出会いに感謝を抱こう。
世界を超え尚も私達に歯向かう憎き敵よ。
私の、私だけのハーデス様の為に死になさい!
───『煉獄七魔将』が一人、傲慢のルシファー。
彼はその胸に抱く決意を果たす為に、己が罪の象徴たる黒く染まった羽を矢に変えその命を奪う為に矢を放った。
その者が自身の知る、勇者ではないと気付かれぬままに。