テラーノベル
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少し時間が遡る。
木原監察官が御滝ダンジョンで大ハッスルしている一方、有栖ダンジョンにも動きがあった。
チーム莉子は1つ階層を下りていた。
第19層のマグマアニマルがダンジョン内の異常な気温上昇の原因だったとすれば、下の階層に行くことで少しでも快適な空間を得る事ができるのではないか。
そんな六駆の考えから、全会一致でとりあえず進もうと言う事になった。
そうして辿り着いた第20層。
六駆の考えは3分の1くらい当たっていた。
確かに第19層の環境に比べるとかなりマシな状況ではあったが、「これ、多分普通の人にはまだ暑いよね」と最強の男は感じたと言う。
珍しく「普通」の感覚を当てる事に成功した六駆。
100℃近い灼熱地獄に比べれば劇的に改善された環境だったが、それでも第20層の気温は40℃を超えていた。
嫁入り前の穢れを知らぬ乙女たちを放り出すには過酷である。
そのため、六駆は『爽快膜』の展開を継続。
『爽快膜』の中は文字通り爽快、それは良いが、3人娘は常に密集して行動せねばならず窮屈。
それよりなにより六駆がスキルの効果継続をし続ける事に疲れて来ていた。
六駆の得意スキルは攻撃全般で、以降、具現化スキル、回復スキル、構築スキル、生活スキルと苦手度合いが深くなっていく。
『爽快膜』などはまさに苦手の極致であり、普段から煌気で自分の周りを快適で爽快に保っている彼からすると、他者の空間に繊細緻密な調整に留意しながら微妙な煌気コントロールを必要とするこのスキルはストレス以外の何ものでもなかった。
そこで六駆おじさん、また無茶苦茶な事を考える。
「莉子! 『虚無の豪雪』使っても良い?」
「ふぇ? モンスターがいるの?」
「いや、この階層にモンスターはいないっぽいよ!」
「えっと、じゃあどうして攻撃スキルを使うのかなぁ?」
「ダンジョンを冷やそうかと思って! 大丈夫、上手くやるから!」
「にゃははー。意味が分からないと言う事が分かるにゃー。莉子ちゃん、がんばー」
六駆の計画はこうである。
『虚無の豪雪』を超広域展開で壁伝いに発現させ、さらに威力を通常の30分の1まで落として使用する事で、ダンジョン全体の気温を下げようと思うと彼は言った。
つまり、異世界の古龍を凍りつかせた猛吹雪を冷房に転用してしまおうというお話。
バカなんじゃないだろうか。
だが、それを可能にするだけの実力と経験を彼が持っている事を我々は知っている。
ならば、止める術などない。
莉子が「まあ、ちゃんと加減できるならいいよぉ?」とゴーサインを出した1分後には、六駆が両手を壁につけてスキルを発現。
その過程はいつも通りなので、結果だけお伝えしておこう。
有栖ダンジョンの気温が26℃と言う実に過ごしやすい数値で落ち着いた。
そんな訳で『爽快膜』を解除した六駆だったが、『虚無の豪雪』を使う過程で少しだけ気になった事があり、3人の意見を求める。
「ところでね、ものすごく微弱な煌気の揺らぎがこの階層にあるんだよ。スキル使った手ごたえで気付いたんだけど。これ、もしかして人じゃないかな?」
六駆の煌気感知能力はそこそこ。
とは言え、彼の言う事が的外れである事は極めて少ない。
未だにバスの降り方すら覚えていない六駆であるが、スキルに関しては30年のベテラン戦士。
「それなら揺らぎを確認しよう」となるのは自然な流れだった。
六駆の先導で速やかに現場に急行したチーム莉子。
そこには人がいた。
「た、大変! 大丈夫ですかぁ!?」
「六駆くん……。ついに人を殺めてしまったのかにゃ……」
「えっ!? 僕が原因ですか!?」
責任の所在はまず脇に置いておくとして、そこには少女が倒れていた。
人であるが、現世の人間ではない事は目で見て明らかに分かる。
彼女はホマッハ族。
ドワーフの親戚であり、スカレグラーナの原住民である。
六駆はついにやってしまったのか。
もしもそうだとしたら、罪を償わなければならない。
彼は自動運転に移行していたサーベイランスに向かって、大きく手を振った。
「……やっちまいました」と上官の南雲に報告するために。
「南雲さん、監督責任ってありますよね?」と責任転嫁をするために。
ここでようやく、時系列が重なる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
南雲監察官室では、なんだか憑き物の落ちたように清らかな表情をしながら、厳かに手を振る六駆の姿がサーベイランスを通してモニターに映し出されていた。
「南雲さん。今、確認しました。逆神くんのあの表情、初出です。これまでのどのパターンとも一致しません。つまり、これまでに起きた事のない事件が……」
「……ヤメて!! コーヒーがね、なんだか苦いんだよ! 私のブレンドは苦みの中にもほのかな甘みと深いコクがあるはずなのに! ただただ、苦いんだ!!」
南雲はコーヒーの味で凶兆を察していた。
六駆が神妙な顔をしている。
なんだか、何もかも諦めたような表情にも見える。
むしろ、とんでもない事をやらかした人間の顔にしか見えない。
嫌だ、そんなはずはない、だがしかし、これはもう。
南雲の脳内では、最悪の想定が構築され、それが2秒おきに更新されていくと言う悪夢めいた現象が起きていた。
ちなみに、現在の彼の中での最低の想定は「誰かが死んだ」である。
南雲修一、ついにホールインワンを決める。
真実は定かでないが、六駆はそのように考えて精神的な自首を表情筋を巧みに操る事で試みていた。
考えていても何も変わらない事だってあると、南雲も知っている。
彼は震える右手を左手で押さえつけながら、マイクに近づいて、言った。
「逆神くん。……何したの?」
『南雲さん。僕はどうやら、やっちまったみたいです』
「うん。……誰か死んだの?」
『わざとじゃなかったんですよ! 信じて下さい!! 悪気はなかったんです!!』
「否定してくれよ、君ぃ! 嘘だろう!? しかもその言い方、誰かが死んだんじゃなくて、君が誰かを殺したな!? ちょっと待ってくれ! 庇い切れないぞ私も!!」
『南雲さん! 僕の身柄の全権はあなたにあるので、この場合、僕の犯した罪の8割程度の責任は、監察官にあると思うんです!!』
南雲は叫んだ。
「やーまーねぇー!!」と叫んだ。
特に何かを言いたかったわけではない。
もしかすると、本能的な断末魔だったのかもしれない。
「山根くん。後は任せたよ」と、そんな悲壮な「やーまーねぇー」だったのかもしれない。
南雲の表情も六駆と同じく、スンッとなった。
本能寺の変で自分の命運を悟った織田信長も似たような表情をしたとか、していないとか。
「それで、逆神くん。誰を殺したの?」
「あ、多分ですけど。スカレグラーナの人っぽいです」
「モルスァ」
「南雲さん、現実から逃げないでください。自分、30前なのに監察官代理が務まるか不安ですけど、やってみるっす。だから、心配しないで、南雲さん」
南雲は、「最期にもう一杯だけコーヒーを飲もう。最期だから、それくらい良いだろう?」と誰に聞くでもなく思った。
モニターがぼやけて見えたのは何故だろう。
コメント
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うわー、今回も面白かったです…! 六駆さん、まさか冷房代わりに古龍凍らせたスキルを使うとは。しかもその結果、スカレグラーナの子を凍らせちゃったかもって、もう笑うしかないけど笑えない(笑) 南雲監察官のコーヒーが苦いとか「やーまーねぇー!!」の叫びにも大爆笑でした。でも六駆さんの30年のベテラン戦士としての経験はさすがで、あの微かな煌気の揺らぎに気づくところがカッコよかったです。そして最後の南雲さんの悲壮感…。つい続きが気になります!
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