※ほんのりと嘔吐表現あり
大丈夫な方はいってらっしゃーい
トイレの中は祭りの喧騒が嘘のように静かだった。
そんな静かさを切り裂くようにドンッ、という花火の音が聞こえる。
「…え、もう始まってる!」
元貴は水の冷たさを振り切るように、慌てて蛇口を捻り、急いで若井の元へと駆け出した。
「ごめんっ、おくれ…..」
元貴は草の匂いと、夏の夜気に混じる花火の煙を思い切り吸い込んだ。
言葉の先は発せられることはなく、ただ呆然と立ち尽くすしかできなかった。
それもそのはず。元貴の目に映ったのは女の子と楽しそうに話している若井。
さっきまで耳に響いていた花火の音は、いつの間にか元貴の心臓の音へと入れ替わっていた。
「なんで?」「どうして?」「だれ?」
なんて疑問が元貴の中で広がってゆく
元貴が立つ木陰は祭りの光があまり当たらず、周りはほんのり薄暗い。
けれど、目の前の若井と女の子は打ち上がる花火に鮮やかに照らされ、元貴の胸を引き裂くように輝いている。
_____まるで元貴だけが取り残されたようだった。
その光景を目にした瞬間、元貴の孤独はより一層深く、全体に広がり
「は、」と声にならない声を溢した。
その瞬間、若井の視線がこっちを向き目が合った。僕に気づかれた。
胸の奥が焼けるように痛み、元貴は考えるより先に踵を返し、若井とは逆方向に足を走らせた。
「う”ぇっ、」
家に帰るなり、気持ち悪さで込み上がってきたものを吐き出す。
目の前が霞んでいるように何も元貴の目には映らない。 引き金になったのは紛れもなくあの光景。
若井と女の子が仲良く話している。この事実は揺るぎないもので、嫌な想像ばかり渦巻く。パニックで呼吸も足もおぼつかない中、元貴は どうしようもなく 一つのカッターに手を伸ばした。
腕を切り込んでいく。勢いよく血が吹き出す
辺りはすでに赤く染まっていた。
痛みでこの嫌な想像を どうにか紛らわしたかった。
部屋には元貴の下手な呼吸が響く。
何も考えられず、ただ赤く染まっていくこの場は元貴にとって少しの安らぎとも思えた。
おーどうですかね
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💕