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7月5日18時15分。ミィコのポイントが、ぴたりと止まった。 配信の空気が張り詰め、一瞬、世界から音が消える。 誰もが言葉を飲み込み、ただ画面を見つめる。
音葉はそっと息を吐き、背筋を伸ばした。 胸に広がるのは、静かな安堵。 ——策が、効いた。
「限界?……まあ、仕方ないよね。」
唇の端に、薄く笑みを浮かべる。 この瞬間を待っていた。 追い詰め、そして抜いた。 ミィコを出し抜けたという実感が、静かに自信へと変わっていく。
けれど、それは“勝利”ではない。 まだ先がある。 1位の“さくらもち”が、はるか前方にいる。 追いつくには届かないとわかっていても——
「ただじゃ勝たせないよ。」
マイクを口元に寄せ、声を放つ。
「みんな、いこう。ここからが、本当の勝負だから。」
その一言が、火を点けた。 コメントが走り出し、ギフトが空間を彩る。 音葉の背に、確かな熱が宿った。
その同じ時刻。 さくらもちはモニターに目を細め、静止したランキング表を眺めていた。 3位のミィコ。数字が、ぴたりと止まっている。
紅茶のカップをゆっくり回し、ふっと笑う。
「あら、終わりなの? 私の見込み違いだったのかなぁ……」
声音は柔らかく優しい。 だがその奥に、鋭い針のような挑発が光る。
(——でも、そんなはずないよね?)
彼女にはわかっている。 ミィコは沈んだわけじゃない。 静けさの裏に、何かが息を潜めていることを。
そして、もう一つの動きが目に映る。
「……あの子、音葉。やっとエンジンかけてきたか。」
姿勢を正し、マイクに手を伸ばす。 目が鋭くなる。視線に、勝負師の色が宿る。
「じゃあ、こちらも遊びじゃ済まないね。受けて立つよ——正面から。」
音葉の反撃を、彼女は待っていた。 恐れてなどいない。 むしろ、その力をこの手で測りたいとすら思っている。
リアルタイムで、数字が動き出す。 音葉とさくらもち。 そのポイントがせめぎ合い、火花が画面の奥で交差する。
言葉は交わされない。 だが視線と意志が、画面越しにぶつかり合う。
音葉の目には、誇りと闘志。 さくらもちの目には、余裕と研ぎ澄まされた観察力。 そしてその奥に、真剣勝負の予感が静かに満ちていた。
戦いは、まだ終わっていない。 むしろ、ここからが本番だ。
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