コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
水の国「Acqua」またの名が「娯楽の国」
国民が各々娯楽の為に働くこの国で絶大な人気を誇る娯楽、それが「劇」である。
中でも群を抜いて人気な劇団「Mercury」の劇は、全国民の憧れだ。
少々値は張るが、最高のショーを提供してくれる。
全員で15人、という少人数で億単位の金を動かす彼等は間違いなく、我々が羨む程の大富豪だと、人々は口を揃えて言うだろう。
・・・
「大富豪ねぇ、、、一度この記事の会社に圧でもかけるかい?」
会議室の中沈黙を破り、色白で、端正な顔立ちの男が、ボサボサな黒髪を掻きながら言った。
「確かにこの記事を書いた人は、少々頭が足りないようね。まあでも、放って良いでしょう。」
隣に座っていた黒髪の、これまた美しい女が、鼻を鳴らして吐き捨てる様に言った。右肩に羽織る様にして掛けた光沢の美しい布の下には、腕が生えていなかった。当の本人は、そんな事気にしていないのか、左手で隣の男に手を伸ばした。
「それよりタイム、今日こそ食事に行かないかしら?」
「断る。俺を籠絡するのは諦めてくれ、アマーリエ。」
タイムと呼ばれた男が、伸ばされた手を叩き落とすと、アマーリエと呼ばれた女は、釣れないわね、と笑った。そんな微妙な空気を裂くように、1人の男が質問を投げかけた。
「タイム副団長樣の言う通り、私もその記事には不満がありまして。団長樣も、真面目に取り扱ったらどうですか?副団長樣の意に乗るとすれば、、、脅すとか。」
真白に顔を化粧で塗り、小さなシルクハットを被ったその男は、自身の手を、隣の男の方へ出して、猫背になりながら、鋭くアマーリエを見た。機械的な笑みを浮かべていたものの、何もしない事に対する苛立ちを、彼女にぶつけている様だった。
「ジャック、そうアマーリエを脅すな。あの子の言う様に、放って置くのが1番やで。」
隣にいる、癖の強い赤毛で、同じく化粧で顔を白く塗りたくった男は、差し出された手の爪に深紅のマニキュアを塗りながら、溜め息混じりに言った。シルクハットの男ーもといジャックは、諭された事が気に入らないのか顔を顰めるも、自身の相棒の言う事に納得したのか、渋々といった風に黙り込み、頬杖をついた。
「あらライム、貴方がまともな事を言うなんて珍しいわね。」
「コイツが可笑しい事言うとる時に、俺までそんなん言うたら収拾つかんやろ。」
ライムは、そう言ってから、マニキュアが塗り終わったのか、相手の手を離し、ヘラヘラと笑った。ジャックはと言うと、 自由になった自身の手を光に当て、先程とは打って変わって満面の笑みを浮かべて楽しげにライムに問い掛けた。
「ねえライム。この爪の色綺麗だろう?君の瞳と一緒だ。お揃いみたいで嬉しいな。そうだ、今度は私がライムに私の瞳の色のマニキュアを塗るのはどうだい?」
「却下やな。」
提案を受け入れられる、と思っていたからか、瞳に驚愕の色を浮かべ、断りの言葉を速攻で言った相棒に泣きつく様に反論を始めた。ギャーギャーと騒ぎ始めた2人を気にも止めず、いつもの事なのか、団長・副団長コンビと他数名は勝手に会議を始めた。
そんな、何とも奇妙な状況の部屋の扉が勢いよく開かれたと思うと、3人の子供と、その後に次ぐように大柄な男性が、会議室に全速力で入ってきた。
「会議ボクたちも入れてよ団長樣! 」「楽しそうなのに、何で入れてくれなかったのさ団長樣!」
そう言ってアマーリエに詰め寄った少年2人は、恐らく双子だろう。顔立ちはそっくりで、違いは片方が赤髪、片方が青髪、というだけで、背丈も服装も全くもって同じに見える。
追いかけて来た大柄な男性は、団長から少年を剥がすと、申し訳なさそうに謝罪を述べた。
その背後では、彼等よりも幼い少女が、申し訳無さそうな表情を浮かべて止めようと手を延ばしては、振り払われて凹む、という状況が起こっていた。そんな女児を目にした途端、ジャックと騒いでいたライムは、心配そうに駈け寄り、双子の首根っこを掴んだ。そして、咎める様に
「レフト、ライト、大人しくしときいや。じゃ無いと、今日のお菓子は無しやで?」
と言った。黙って見ていたタイムも、 捕まった腕の中で卑怯だ、と騒ぐ2人に寄って、拳骨を落とした。すると、少女がタイムとライムの服を掴み、小さな声でこう言った。
「わ、わたしが2人を誘ったの。悪い子はわたしだけだから、わたしはお菓子要らないから、ゆ、許してあげて。」
それを聞いて、誰が彼女が悪いと思うだろうか。否、誰も思わないだろう。実際、タイムは双子に減給とお菓子の没収を言い渡して説教する為に連れて行き、ライムは感激しながら彼女に抱きついたのだから。
「アイツらも悪いとは言わんが、キャシーはホンマに良え子やな。大好きやで。」
ライムは少女ーキャシーの栗色でふわふわな髪を撫でながら言った。キャシーは、撫でられると嬉しそうに目を細め、
「ありがとうパパ。わたしもパパ大好きだよ。」
と返した。
「ねえキャシー。私の事は、いつになったらお父様と呼んでくれるんだい?」
「ジャック。それ以上言うたら絶交な。」
シルクハットを被った某バカがライムに拒絶されたダメージがようやく回復したのか、ニヤけながら少女に尋ねた。しかし、耳を真っ赤にしてもなお、そんなジャックに即座に突っ込みを入れるライムは、流石と言えよう。
ポカン、とするキャシーと、また騒ぎ始める2人を横目に映し、アマーリエは
「会議は明日の朝に移そうかしら。丁度、明日は公演予定も無いし。」
と言って、部屋から出て行った。団長樣が居なくなったのだから、辛うじて部屋に残っていた数名もゾロゾロと出て行った。流石のジャックもその状況の中、騒ぎ続ける訳にも行かず、相棒と娘(?)の額にキスを落とし、そそくさと帰ろうとすると、後ろで問いかける声が聞こえた。
「パパ、何でそんなに顔が赤いの?」
ジャックはそれを聞いて、勿論振り返りたくてウズウズしていたが堪え、自身の部屋へ戻った。
「明日の会議ライムは出れないと、団長樣に伝えに行かなくては。」