別れはいつだって、なんの知らせもなく途端に、無情にやってくる。
木兎さんが学校に来なくなり、早くも2週間近くが経過した。最後に会ったのは、2週間前の帰路か…。春高が終わり、数週間後のことだ。理由は分からない。先生たちに聞いても教えてはくれなかった。でも、あの人は風邪を引いた時だって、酷い怪我をしている時だって学校に来て、部活をやろうとしていた。
それなのに、ここ最近は連絡すら返さないし、部活で顔を出すことすらない。皆心配をしている。そして今日は、
「お前(赤葦)が一番木兎に懐かれている」
と言う理由で、俺だけ木兎さんの家を訪ねることになった。
その日は、部活が休みだったので、一度家に帰り服を着替え、夕日が少し沈んできた頃の時間帯に、俺の家から徒歩で数分程度の木兎さんの家へ向かった。木兎さんの家はマンションなので、エレベーターを上がり、木兎さんの家の号室まで着いたのでインターフォンを鳴らすが、返事がない。家に居ないのか?では、何処にいるのか?ドアノブに手を掛けると、鍵はかかっておらず、開けた扉の隙間からは、電気がついておらず暗い空間が見え、冷たい風が入ってきた。いけないとは思いながらも俺は木兎さんのことが気掛かりで、家に入った。靴を脱ぎ、廊下を歩いて、少し声を掛けたが、誰も反応しない。なので一旦、少し前に木兎さんの家にお邪魔した時に見た、木兎さんの部屋に向かうことにした。
木兎さんの部屋に向かっていくとだんだん、向こうから誰かが啜り泣くような、頼りない、嗚咽のような声が微かに聞こえてきた。
それは確かに木兎さんの部屋からで、気になった俺は、家の廊下を走り、急いで部屋のドアを開けた。
「あかーし……??」
開けた先には、暗い部屋で布団にくるまり、セットせず降りた髪で目を赤く腫らしている木兎さんがいた。声は震えていて先程まで泣いていたのだろう。少し枯れて鼻声だった。
「木兎さん?!どうしたんですか?!」
「ごめん、あかあし、大丈夫だから、」
木兎さんが鼻を啜りながらそう言った。なんで、この人は……
「ッ……大丈夫じゃないでしょ?!そんなに泣いてて!なんでアンタは……こういう時に限って、いつもみたいに素直じゃないんですか…?」
初めて見た木兎さんの涙のせいなのか?俺は冷静じゃなくなって、何故か、目頭が熱くなってくる。
「あかあし……?」
木兎さんが離れて行ってしまうような、そんな予感がして、気づいたら俺は、ベットの上にいる木兎さんに抱きついていた。
「話してくださいよ…俺ってそんなに頼りないですか…?」
「そう言うわけじゃっ……」
決して攻めたかったわけじゃなかった、ただなんで話してくれないのか、わからなかった。
「………じゃあ言うね」
次の瞬間、木兎さんの口から溢れてきた言葉は予想外で、
「俺、あと二ヶ月で記憶が全部無くなっちゃうんだ」
木兎さんの口から溢れた言葉はどうも現実味がなくて、部屋の窓から聞こえる車の走る音が、とても耳障りに聞こえる。
「ごめん、赤葦」
木兎さんの声が聞こえる。
いつも、嫌というほど聞いていた木兎さんの声が、別人のように聴こえて
そんな、嫌だ。
記憶が消える?どう言う意味だ?そんな病気、聞いたこともない。なんだよそれ、なんで木兎さんが?意味が分からない。頭の中がぐちゃぐちゃなってくる。
少しの間固まっていたのだろうか。木兎さんが、一方的に抱きついていた俺の背中に手を回してくれた。
その瞬間、俺は今までの思い出が溢れてきて、感情を抑え切れずに声を上げて、子供のように木兎さんの胸で泣き喚いた。木兎さんの方が辛いだろうに…あの人は、俺の頭を優しく撫でてくれた。
数分経っただろう。俺の涙も止まり、木兎さんはまだ、俺の頭を、大きな手で撫でてくれている。
頭の整理もできてきた。木兎さんに声をかける。
「病気……なんですか?」
泣気喚いた後の枯れた声でそう言う。
「うん。お医者さんが。未知の病気らしいけど、2週間前にさ、最近物忘れがひどくて、病院に行ってみたらこう言われて。治ることはないらしい」
「本当に……」
「俺と関係が薄い人から記憶が無くなっていくらしくて、二ヶ月後には全員忘れちゃうかも……って」
息が苦しくなる。本当に、治す術はないのか?嫌だ。木兎さんの記憶から、俺がいなくなるなんて、そんなこと
「っ……」
「赤葦…」
それなら、考えるよりも先に俺の口は開いていた。
「木兎さん、貴方に俺のことなんて絶対忘れさせません。もし忘れたって、俺が、また、貴方の後輩になって、今の関係を取り戻す。」
そう言い、木兎さんを強く抱きしめた。先程まで泣いていたから、格好もつかないし、我ながらセリフも痛いとも思う。しかし、木兎さんはそんな俺をみて言った。
「赤葦かっこいー、……じゃあさ、二ヶ月間、俺と一緒にいて?一緒にいろんなところに遊びに行って、絶対に赤葦のこと、忘れないようにする。いい?赤葦」
答えはもう決まっている。
「はい。絶対に、俺のこと忘れさせませんから。」
そう言うと、先程までの悲しそうな声でなく、いつものような明るい木兎さんの声が聞こえた。
「ありがと、赤葦」
俺は、ずっと木兎さんに抱きついていたことに気づき、急に恥ずかしくなって木兎さんの体から離れた。布団から降り、涙を拭い、少し乱れた服を元に戻す。
木兎さんが
「やりたいことがある」
と言って、部屋のロッカーに向かい、運動服のようなものに着替え始めた。 何をするのかと、多少分かっていながらも聞いてみると、木兎さんは
「内緒!」
と笑っていた。俺は体操着を持っていなかったので、木兎さんの体操着も貸してもらった。着替えると身長はさほど変わらないはずなのに、木兎さんの服は、2回り程度大きかった。
運動服に着替えた後、一旦俺は家に帰って、お金や、色々な必要なものを用意した。親にも2ヶ月間、家を空けることを伝えた。親は何かを察してくれたのか、気おつけろよ。それだけ言って、快く俺の旅を受け入れてくれた。
木兎さんの家に戻ると、すっかりいつもの調子の木兎さんがいた。少し安心したが、本当に大丈夫なのだろうか?1人で、抱え込むものが多すぎる。少しでも、この人の役に立てれば良いけれど。
俺たちは、服やら現金やらの大きな荷物を持って家を出た。まず、木兎さんの希望のもと向かったのは、やはり梟谷学園の体育館。今日は全ての部活動が休みなので、体育館は静寂で包まれている。バレーのコートを立てていると、先程、木兎さんの希望で俺が呼んだバレー部の皆んなが体育館へ入ってきた。
「おーいどうしたんだ赤葦?いきなり呼び出しなんて…」
木葉さんが俺に問う。
「おーーい!木葉!それに皆んな!!やっほーー!!」
俺の後ろにいた木兎さんがいきなりひょこりと姿を表し、体育館全体に響く声で大きく叫んだ。
「うわあああ木兎?!」
「木兎じゃん〜久しぶり〜」
「木兎さん?!今まで何処に…?」
皆が木兎さんの元に集まり、疑問を口にしている。
「まあいいじゃん!それより、久しぶりにバレーしよーぜ!!」
「お前なぁ……」
多少皆疑問や、問いただしたいこともあっただろうが、状況を察してか、木兎さんの要望に従い、バレーをした。
バレーを久々に部員とやる木兎さんはとても楽しそうだったが、少し心なしか、寂しさも見える気がした。
「あーー疲れた…お前、久々に姿を表したと思ったら…」
「へへっ!俺は最強だからな!」
「答えになってねーよ…」
そんな風に、時間を忘れ、皆でバレーをした。いつの間にか辺りは暗くなり、次々とみなが帰る時間になってきた。木兎さんは帰る一人一人にハグをして見送っていた。ついに時間は10時になり、殆どの部員が家に帰宅をした。
その中で、木葉さんが木兎さんに声を掛けていた。
「なあ木兎、お前、どうしたんだ?」
「んー?なんで?」
「なんか様子変じゃん、ちょっと、あっちきて」
そう言いながら木兎さんと木葉さんは用具入れ倉庫の方へ行ってしまった。
「ごめんすぐ戻ってくるから赤葦ー!ちょっと待っててー!」
木兎さんに声を掛けられる。
10分ほど経った後、木兎さんと木葉さんが帰ってきた。木兎さんは少し、スッキリしたような顔をしていて、俺も安心した。その後は、残ったメンバーとも挨拶をして解散していった。残った三年メンバーには木兎さんが勢いよく抱きついて、楽しそうに笑っていた。この幸せが、ずっと続けば良いのに。
俺と木兎さんは解散したあと、近所のビジネスホテルに泊まることにした。
2人で6000程度の激安ホテル。今日が、終わる。そう思うと、とても喪失感でいっぱいになった。木兎さんと、この状況で、この関係で、もしかしたら、最後に過ごすかもしれない2ヶ月間。一日一日を大切にしなければならない。
「あかーし、考え事?」
布団に体操座りで座っていた俺を覗き込み、木兎さんがいった。
「あーすみません。少し、」
「そーぉ?まあ、いいけど、この漫画むっちゃ面白いから読んで!!」
そう言って木兎さんは下のロビーに置いてあった漫画を俺に見せてきた。
今のタイミングで聞くことなのか少し躊躇ったが、俺はずっと気になっていたことを聞いた。
「木兎さんは…怖くないんですか?」
木兎さんは俺がそう言うと、先程までの楽しそうな顔と打って変わって、
「うーーん…」
と顎に手を当て、唇を突き出し、少し考えるような顔をし始めた。数十秒間が空き、木兎さんが口を開いた。
「うーん…確かに記憶が無くなっちゃうのは怖いけど…俺は最強だから!無くさないって自信がある!!無くしちゃっても、赤葦が声かけてくれるだろうし!」
そう笑って言った。
「そー言う時のために日記も書いてるから!あとで自分が見返して赤葦たちのことわかるように!!」
そう言って差し出したのは一冊の大学ノート。何処か見覚えがあったのは、木兎さんが学校に来なくなる1週間前ほどに、なんとなく、日記を書きたいからのいい紙が欲しい。と言い出して、文具屋で買ったノートだった。
「いいですね。それ、俺もつけとこうかな」
「いいんじゃない?!」
「木兎さんの日記、ちょっと見せてくださいよ」
「えーー!やだ!!いつか見せる!楽しみにしといて!!」
そう言いながら木兎さんは日記を隠して、笑っていた。
「俺、風呂入ってくるから!ちょっと待っててね!」
「分かりました」
「あっ、一緒入る?赤葦ー」
「えっ」
「よし決まりー!!レッツゴー!!」
そう言うと木兎さんは俺の肩に腕を回して、風呂場まで向かった。
「おー意外と広くね?!絶対入んないと思ってたのに!」
「じゃあ誘わないでくださいよ…」
俺と木兎さんは服を脱ぎ、風呂の扉を開けた。
「俺じゃあ先体洗うから!赤葦風呂入っといてー!」
木兎さんがそう言ったので、俺は正直に湯船の中に入った。横のシャワーが置いてあるスペースで髪の毛を洗っている木兎さんの体が見える。鍛え方が良いのであろうか?筋肉が、すごい。観察をしていると、背中の後ろに、あざのようなものと、何か、やけど後のような跡がいくつかあった。半径1センチほどの小さな丸い火傷。どうしてこんなところに?問おうとした時、木兎さんが体を洗い終えたようで、木兎さんも湯船に入ってきた。俺は木兎さんと入れ替わりで湯船を立ち、シャワーを浴びた。
俺が髪と体を洗い終え、もう上がろうとすると、湯船にいた木兎さんが、俺ももう一度湯船に入れと催促されたので、断ってもしょぼくれてしまうと感じ、仕方がなく入ったら、湯船のサイズ的に、男子高校生の俺たちが2人で入るととてつもなく窮屈だった。
「木兎さん狭いです…」
「まあ、いいんじゃね!たまにはこーいうの!にしても狭っ!」
男が2人で狭い湯船にぎゅうぎゅうに入る姿はさぞシュールな光景だろう。
「赤葦、10数えようぜ!」
「幾つですか…」
「いーーち」
「にーい」
「うわ、やるんですか?」
「やらないと上がれないだろ!」
「分かりましたよ…」
「さーん」
「しー」
「ごー」
「ろーく」
「ひーち」
「はーち」
「きゅーう」
「じゅー!!」
最後の十を数えると木兎さんは湯船から立ち上がって、嬉しそうに笑った。
俺たちは持参してきたパジャマに身を包み、布団の用意を始めた。もうそろそろ日付が回ってしまうので、寝ようとした時、木兎さんが何故か家から持参してきたと、子供ビールを差し出した。
「赤葦!飲もうぜ!!」
俺たちはホテル備え付きのコップに子供ビールを注ぎ、夜景がみえる窓の前にテーブルと一緒に、2つ置いてあった椅子に座り、乾杯をした。
「木兎さん、子供ビールなんてよく用意してましたね…」
「これ、赤葦と飲みたかったんだよなー意外と美味しい!」
「10年ぶりかもしれないです…」
「俺もそんくらい!…本物のビールは初めては赤葦とに飲みたいな!」
満面の笑みでそう言う木兎さんは、とても眩しかった。
「そうですね、木兎さん。その時は、俺が木兎さんのビール、注いであげますよ」
「ありがとな赤葦!」
「でも俺、木兎さんよりも一個下なんで、木兎さんの一番最初は無理かもしれませんね」
「えええー!俺赤葦が飲めるようになるまで待つから!」
そんな些細な会話をしながらも、時はすぎてゆく。気づけば、深夜一時を回っていた。
「あかあしー明日はどーする?」
「そうですね…誰かに会ってもいいですけど…平日ですしね、あ、あの2人に会いに行きます?確かどっちも、学校の予定か何かで休みだった気が…」
「いいな!!連絡しといて!!じゃあもう寝るか!!おやすみ!!」
木兎さんはそう言うと布団に入ってしまった。確認をしに行くともう既に寝ていた。早いな……電気をけし、俺も布団に入る。最初は少し暗かった視界は目が慣れ、ある程度鮮明に景色が見える。窓から漏れる夜の街の光に照らされる木兎さんの寝顔はとても輝いていて、一粒の、涙が溢れていた。
「おーーい!赤葦!おきろおお!!」
次に目が覚めた時に見えたのは、寝ている俺を覗き込んで見つめている木兎さんの姿だった。時計を見ると時刻は6時。
「木兎さん、朝早いですね…」
「お前は朝弱いよなー!!にしても寝癖すごい!」
「そーですかね……」
俺は洗面所に向かい、歯磨きと洗顔を行なった。木兎さんは隣で、下がった髪の毛を、いつもの髪型にワックスで整えている。その後、俺たちは着替えまですると、朝の朝食バイキングへ向かった。
「赤葦!!肉ある肉!!」
「菜の花の辛子添えなかったです…」
「渋いなお前!!」
俺たちは腹を満たすと、部屋に戻り、少し備え付けのテレビでニュースを見た。流れてきたのは、高校生の男性が、近所にいた男にレイプしたというニュースと、被害者男性へのインタビューだった。
「男子高生が知らない男に…ですってよ。物騒ですね…ってか、男にそんなことする人もいるんですね。」
「そーだな…こんなのがなくなりゃいいけど。」
犯人の男の写真もテレビ画面にデカデカと映る。木兎さんはそれを一瞬みたかと思うと、すぐに目を逸らしていた。その後はインタビューを受けている被害者男性の動画が映る。その男性は、事件の翌日から少しずつ何かを忘れているような、そんな感覚があって、と話していた。少し引き込まれて見ていると、手洗い場から木兎さんの声が聞こえたので、テレビを見る目を逸らし、木兎さんのところに向かった。どうやら、お湯の出し方が分からないとのことだ……俺は木兎さんにお湯の出し方を教えて元の場所に戻ると、テレビは場面が変わって、別のニュースが流れていた。
その後、チェックインの時間も迫っていたので、ホテルの部屋を少し片付けをし、次の目的地へあの2人に会いにいった。
街のカフェの前で少し待っていると、あの2人が一緒にきた。
「おーーい赤葦ー!!久しぶり!!」
「お久しぶりです。赤葦さん」
「ちょっと!!俺もいるよ!この木兎さんが!!」
「黒尾さんに月島、久しぶりです」
そう、この2人は合宿で一緒に練習をした友人だ。久しぶりに会うことになって、俺も楽しみにしていた。
「ごめん、あんな時間に連絡して」
「大丈夫ですよ、気にしないでください」
些細な会話をしながら俺たちは最寄りの某カフェ店に入店をした。
「皆んなコーヒーでいいですか?」
「僕は、期間限定苺シロノワールを1つ」
「了解。」
俺と月島が一緒に喋っているうちにも黒尾さんと木兎さんは楽しそうに話している。2人は高校1年生の頃から合宿で一緒で、仲が良いようだ。冗談を言い合って楽しんでいた。病気のことは、まだ、言っていないのであろうか。
商品が届くと俺たちは飲み食いしながら些細な談笑をした。
最近、月島はバレーにハマっているっぽく、他校だが、先輩として、嬉しく感じる。
「ほほぅ…ツッキーもバレーの楽しみに気づいてしまったか…さすが俺!いいこと言った!俺が師匠だぞ!!」
「いや!木兎!俺がツッキーの師匠だから!ほら、一緒に春高戦ったし!ブロック教えたのも俺だし!」
「2人とも五月蝿いです…」
月島の冷静な言葉も虚しく、その後も木兎さんと黒尾さんは俺が師匠だと互いに譲らず言い争っていた。合宿の時のような騒がしさを思い出し、あの頃に戻った気分だ。こんな話をして、昼になると俺たちは、近隣のデパートに向かうことにした。
「お!これ可愛くね!赤葦ー!黒尾ーツッキー!おそろでかおーぜ!」
雑貨屋で、木兎さんが手に持っていた謎の生き物(?)のようなキーホルダーを見せてきた。
「いや、なんですかこれ」
月島が冷静なツッコミをいれる。
「木兎、お前センス悪ww」
「黒尾お前っ…ツッキー!これはバ○ちゃんだ!可愛いだろー!」
「○ボちゃん…なんか顔、変わりしましたね…赤葦さん、これ買います?」
「いいんじゃない?旅の思い出って感じで」
「もー!ツッキーは赤葦ばっか!木兎さんの案も聞いてくれたっていいじゃん!!」
木兎さんと黒尾さんが喚いていると月島は眉を八の字にして笑っていた。俺たちは4つ○ボちゃんを購入し、デパート内のスーパーに今夜の夕飯のための材料を買いに行った。今夜は、電車で宮城まで向かって、月島の家で鍋をして泊まる予定だ。
スーパーである程度の食品を買い、夕陽が沈みかける程度の時間に、電車に乗って月島の家まで向かった。平日だったこともあり、ガラガラの車内で俺たちは4人で並んで座った。6時間程度の道のりだったので、俺以外は寝ていた。隣にいる木兎さんの寝顔は夕陽で赤色に染まっていた。
月島の家に着いた頃にはもう陽が沈み、辺りが暗くなっていた。
『お邪魔しまーす!!』
「どうぞ」
俺たちは玄関で挨拶をし、家に上がった。
「今日は両親も兄も旅行でいないので、適当に寛いでもらってていいですよ。」
「ツッキーん家キレーだなぁ」
「だよなーなんか、綺麗だわ。お前ん家とは正反対だな」
「黒尾五月蝿い!!」
黒尾さんと木兎さんが話している間に、俺と月島は鍋の仕込みを始めた。
「赤葦さん…何かあったんですか?」
白菜を切っていた月島が、いきなり口を開いた。
「どうして?」
「なんか変ですもん。もし何か、あったら言ってくださいね」
さすが、頭が冴える月島は人のことを見るのが上手だ。そろそろ、木兎さんのことを話すべきか?そんなことを考えているうちに、鍋が出来上がったので、俺は、リビングにあるコタツの所に座っていた黒尾さんと木兎さんに声をかけた。
「鍋、できできましたよ」
「おーー!!赤葦ありがとう!!」
「ツッキーもサンキューな!」
黒尾さんと木兎さんが口を揃えてそう言う。月島と俺もコタツの元に行き、鍋を囲んだ。
「おい木兎!お前肉とりすぎだよ!!」
「いいじゃねぇか!ってかお前、魚を入れようとするな黒尾!!」
「ドコサヘキサエン酸は大事だぞ!」
「ちょっ…木兎さん。僕のやつ取らないでください…。ってか黒尾さん?闇鍋にしないで」
久しぶりに4人集まるととても騒がしく、時間を忘れるほどに楽しむことができた。
「あー食った食った…赤葦ー麺あるー?」
木兎さんにそう問われたので、俺は暖かいこたつから離れ、席を立った。
「そう言うと思って用意してありますよ。チャンポン麺でいいですよね」
「赤葦気が効くー!!」
冷蔵庫に入ってあるチャンポン麺を取りに行き、食べ終わった鍋の中に入れると、少食の月島を除き、皆が器に麺別れ始めた。
「ねぇ、ツッキーこの前見してくれたメダカ見してーー!」
「ああ…あれ、この間死んじゃったんですよね」
「えーそうなの?残念…」
麺を食べ終わると、俺たちは皿洗いとリビングの片付けをしてから、今日寝る月島の部屋に入った。
「どうぞ」
「おーすごい恐竜置いてあるー!かっちょいいーー!!
木兎さんが声を上げた。
「烏野のユニもバレーボールもちゃんと飾っちゃって〜やっぱバレー好きなんだね〜」
「五月蝿いです黒尾さん」
また黒尾さんの月島いじりが始まった。
鬱陶しそうな対応をする月島に黒尾さんと一緒に絡む木兎さんは楽しそうだった。布団を人数分部屋に敷き、風呂に入ることになった。黒尾さんと木兎さんが
「一緒に入る!」
と楽しそうに話して、風呂がある1階に降りて行った。残された俺と月島は2人で、1階に降り、全員が風呂に入り終わった後にする予定の映画鑑賞とゲームの準備をしていた。俺と月島で最近見たドラマなどの些細な話をしていると、少し間をあけ、月島がワントーン声を落として、俺が少し様子がおかしい件について聞いてきた。
「何かあるなら、力になりたいです。赤葦さんには、お世話になりましたし」
そう照れながら言う月島に俺は合宿の頃からの成長を感じた。木兎さんには悪いかとも思ったが、月島がここまで真剣になってくれているのだ。俺は、素直に木兎さんの件について話すことにした。全て話すと、月島も相当驚いているようだ。
「あの人が、そんな病気に…」
「まだ信じられないんだよね…記憶が無くなっていくなんて、聞いたこともないし。」
「いや、事例を聞いたことがあります。」
「え?!」
それが本当なら、何か、解決方法があるかもしれない。月島は話を続けた。
「ぼくの遠い親戚が似たような病気にかかって…確か全部忘れるまで2ヶ月、木兎さんと同じくらいですね。それで、診断されて、1ヶ月半くらいでほとんど記憶が無くなっちゃったんですけど、何処かの凄腕の医者が治療法を見つけて、なんとか…いや、危険なやり方だったそうですが、その人は回復した…って話がありました。」
耳を疑う出来事だ。それが本当なら…その医師さえ見つけることができれば、木兎さんの記憶も、残るかもしれない。
「本当?!もし良ければ、その人に話を…」
「すみません。それはできないんです。」
「え?」
「その人、治療が終わって数日後に事故で亡くなってしまったんです。その人、家族もいなかったし、医者にかかるときに同伴した人もいなくて…」
「そうなんだ…」
「すみません、期待させてしまって…」
「いや、全然。ありがとう希望が持てたよ」
そう言って、俺は月島の頭を撫でた。
「うわ、ちょっ、赤葦さん、どうしたんですか?」
「いや…ちょっとね…」
少しだが、希望が生まれた。もしかしたら、木兎さんが、今のまま、今までの記憶を持ったまま。楽しい日常が続くかもしれない。
「泣いてるじゃないですか?!ちょっ、えっ?!」
「あっ…本当だ…ごめん、あはっ、よかった…治るかもしれないんだ…」
最近は、よく涙腺が緩んでしまう。月島は、不甲斐ない先輩を慰めてくれた。
「おやおや、赤葦どうしたのかね、俺と言う、頼りになってかっちょよいエース、木兎さんに話してくれてもいいのだよ?」
「あー!ツッキーが赤葦泣かせてる!!」
風呂から上がり、いつもよりも攻撃力が低そうな髪をした黒尾さんと木兎さんが出てきた。
「うわっ、だれ?」
月島が声を上げる。
「ちょっと!ツッキー合宿でも見てるでしょ?!なんならこの前行った水族館で俺と木兎がイルカショーで水被った時も、合宿の時も見たでしょ?!」
「毎回新鮮すぎて…黒尾さんは詐欺師感減るんでそっちの方がいいんじゃないですか?」
「ツッキー俺のこと詐欺師っぽいって思ってたの?!」
2人が会話をしている隙に俺は風呂に入りに行った。木兎さんが使った割には散らばったりもせず綺麗に使われている。黒尾さんのおかげだろうか?あの人は乱雑だから、よく汚くするんだよな。
シャワーを頭から浴び始める。1人の時間になると、数ヶ月前の合宿の時を思い出す。先程、希望が見えてきたというのに、まだ、あの楽しかった記憶も、木兎さんは忘れてしまうのか?合宿の日、木兎さんが俺に向かって間違えてシャワーをかけたこと、黒尾さんと月島を煽ってたこと、俺に寝起きドッキリをしてきたこと、俺が木兎さんに寝起きドッキリを仕掛けようとしたらやりすぎてしまったこと、数え出したらキリがない。これら、全部、木兎さんの記憶からはなくなって……そんなことを考えてしまう。ダメだ。こんなことを考えては。今さっき、聞いたではないか。月島が教えてくれた医師が見つかれば、希望があるかもしれない。髪をジャンプーで洗っていると冷静になってきた。とりあえずは”今”を楽しむのだ。木兎さんならきっとそう言う。俺は深く息を吸った。
風呂を上がり、次は月島が風呂へ向かった。黒尾さんと木兎さんが、トランプゲームをしている間に俺はポテトやポップコーン、ドリンクの用意をした。案外早く月島は風呂から上がり、深夜のパーティーが始まった。早くももう時計は23時を指している。
「やっぱまずは映画だよな!」
木兎さんが一番にそう言ったので、まずは映画を観ることにした。元々、何故か恋愛ドラマを観る予定だったのだが、黒尾さんが、
「リア充なんで見ててつまんねぇよー!!!!映画といえばホラー!!!」
と言ったので、俺たちはじゃんけんで負けた1人が近所のレンタルDVD屋にホラー映画の購入行くということになった。じゃんけんをすると、俺がぐー、他3人がパーを出したので、俺が1人で、レンタルDVD屋と…ついでに、木兎さんが食べたいと言っているポテチを買いにコンビニに行くことになった。
今来ていた黒色のパジャマに、月島に借りたマフラーとジャンバーで身を包み外に出た。布を纏っていない顔に、冷たい風があたる。まずは、ここから一番近い、レンタルDVD屋に入った。怖いものを見ると、1人で寝れなくなる木兎さんとのために少し、怖さ控えめのものと、怖いものが好きな黒尾さんのために一応、最近怖いと有名な映画の2本を借りた。ついでに、元々みようと言っていた恋愛映画の続編も借りておいた。全て1日レンタルで俺は財布を開き、購入をした。
「あれ、赤葦さん!?」
隣から聞いたことあるような声が聞こえた。横に視線をやると、そこには、合宿の時に共に第三体育館で練習をした日向がいた。
「あ、日向。こんなところで会うなんて」
「赤葦さんこそ!こんなところでどうしたんですか?東京からわざわざ…」
俺は今月島の家に黒尾さん、木兎さんと泊まりにきているという旨を簡潔に伝えた。
「そーなんですね!月島とそんなに仲良かったなんて…」
「そうそう。今は映画を観るためにDVD借りにきたんだ。」
「あ、木兎さんがいるなら伝えといてくれませんか?!今度一緒に遊びませんかって!俺、ちょっと予定あるんで2ヶ月後とかになっちゃうかもしれないんですけど、また木兎さんとバレーしたいなって!」
2ヶ月後……か。
「赤葦さん?」
「あ、ごめん考え事しててさ。わかった。2ヶ月後、絶対遊ぼうって、伝えとくから」
「ありがとうございます!」
そういうと日向君は走ってDVD屋を出て行ってしまった。
俺もDVDを借りることが出来たため、次はコンビニ……は少し遠かったので、ここから徒歩2分圏内の個人営業のスーパーへ向かった。看板には豚が輪切りにされて微笑んでいるイラストが書いてあった。期間限定で月島の好きなショートケーキ味と俺の好きなおにぎり味があったのでそれをレジまで持っていくと、店主に声をかけられた。
「あれ、もしかして梟谷の?!」
「そうですけど…どちら様ですか?」
黒髪のセンター分けの20代後半程度の男にそう尋ねた。
「あーと、すみません!烏野高校のメンバーにバレーを教えてて、梟谷高校との合宿の話をその子から聞いていたのと、梟谷の木兎と赤葦って有名ですから、バレーファンとして…」
「そういうことなんですね」
「なんでこんなところに?」
俺は先程日向君にした説明と同じようなことを伝えた。
「へーそうなんだ。ツッキーと…あっ、ごめんね話が長くなって、おまけであげるよ」
そう言って男が見せてきたのは、4つの笑顔の豚の輪切りにされた、看板と同じデザインのイラストのキーホルダーだった。
「ありがとうございます」
そう言ってキーホルダーを受け取り、商品を購入してから、帰路に戻った。
「ただいま」
そう言って家に上がると木兎さん達の騒がしい声が廊下にも響き渡る。
「あっ、赤葦おかえりー!!」
黒尾さんがリビングの扉をあけて言った。
「あ、赤葦さんおかえりなさい」
荷物をリビングのテーブル上に置き、俺は洗面所で手を洗った。
「赤葦何このポテチとキーホルダーww」
俺が買って来たものが入った袋を覗きながら、
「ショートケーキ味とおにぎり味なんて初めて聞いたww」
と木兎さんが面白ろおかしそうに笑っている。俺は謎の豚のキーホルダーを皆んなに渡した。結局、黒尾さんの希望で最近怖いと話題のホラー映画のDVDを入れ、それを観ることになった。雰囲気を作るため、部屋中の電気を全て消し、テレビ前のソファに座って4人毛布にくるまる。開始早々、突如貞子のような女が血まみれで発狂する映像が流れ出した。隣にいた木兎さんが涙目で俺の服の裾を掴んでくる。この映画は和風ホラーのようで、時折爆音が鳴るたびに木兎さんが悲鳴をあげ、俺の肩を掴み揺さぶってきた。
「赤葦、これ怖くない?!」
木兎さんがそう言いながらテレビを何度か消そうとしたが、黒尾さんが
「こんなのも見れないの?ww」
と木兎さんのことを煽るので結局、木兎さんは終始驚き、声を上げながらも、最後のエンドローグが流れた。
見終わったので、俺が電気をつけに行こうと立ち上がると木兎さんが「行かないで」と俺の服の裾を引っ張った。仕方なく、やれやれと言った感じで月島が立ち、電気をつけた後はゲーム大会が始まった。大乱闘スマッ○ュブラザーズだ。俺も木兎さんも月島もゲームをあまりしないタイプだったので、殆どが黒尾さんの圧勝だ。
「クソォーーーっ!もう一回だ黒尾!!」
「何度でも俺が勝ちまーす笑」
そんな会話をしている木兎さんらを横目に、最後の勝負で勝ったのは冷静に相手を分析し、プレイをしていた月島だった。
そんなかんやで時刻はもう午前4時を回り、全員が眠たくなってきていた。俺たちは遊び疲れてきたので、こんな時間ながら布団に入ることにした。2階の月島の部屋に行くとまだ外は暗く、布団に入るために電気を消すと、真っ暗な暗闇になった。
全員が布団に入り、
「おやすみ」
と声をかけ目を閉じる。数時間後だろうか?「あかあしー」という木兎さんの声で目が覚めた。
「なんですか、木兎さん?」
そう問うと木兎さんはトイレに行きたい。と返してきた。こんな歳の男子高校生がホラー映画を見て怖くなったのでトイレに行けない。とはどうなのだろうか、とも思いつつ、俺は木兎さんと一緒に1階のトイレまで降りて行った。階段を降り、ギイギイと床が軋む音がするたびに木兎さんは俺の服を必死で掴んで涙目であたりを見渡している。トイレに着くと木兎さんは「こっからは1人でいい」と言いトイレに入って行った。こんな些細なことも俺にとって大切な思い出だ。改めて、暗く、静かなところに1人でいると、考えてしまう。木兎さんの病気。何ともないように振る舞ってはいるけど、本人はもしかしたら傷ついているのかもしれない。無理をしているのかもしれない。そんなことを考えていると、トイレの扉が開き、木兎さんの姿が見えた。
「あかーしただいま。」
また俺の服を掴みながら移動する木兎さんと共に2階に上がる。そこで俺はずっと思っていたことを聞いた。
「月島たちに、病気の件、言わなくていいんですか?」
「どうしようか悩んでて、言わなくちゃって思うけど…」
すると2階から何やら物音が聞こえ、扉の隙間から光が見えた。少し早足で部屋の前に向かい、扉を開けると、何故か黒尾さんと月島が起きて何やら話をしていた。
「あれ、どうしたんですか?黒尾さんに月島も、まだ6時前ですけど…」
「いやーちょっと目が覚めてね、、あの、木兎、病気って、どーゆーこと?」
「さっき、廊下からも聞こえたし、ツッキーもなんか隠してる風だし、」
と黒尾さんが珍しく真面目な顔をしてそう言う。これは隠しててもしょうがないと思い、俺が説明しようとすると、木兎さんが先に口を開き、2ヶ月後に記憶が全て消え、解決法も殆どないと言う旨を伝えた。
黒尾さんは驚きを隠せずに、と言った表情で木兎さんを見つめていた。
「マジか?木兎……」
「うん、ごめん伝えてなくて、怒った?」
「怒ったわけねぇだろ…只々、衝撃的で……」
黒尾さんが下を向いて俯き、しばらく、部屋の中が静寂に包まれた。すると突然、パンッと手を叩く音が聞こえた。
「はい、そこまで」
と、今まで黙って話を聞いていた月島が口を開いた。
「治る可能性だって一応見えてはいるんです。そんなにお通夜モードになっちゃっても困りますよ。」
今まで、どちらかといえば興味がない…と言うか、無気力みたいな感じだった月島が俺たちの心を支えてくれた。
「ツッキーいいい!!!!」
黒尾さんと木兎さんが涙目で月島に飛びついた。月島は成長して、俺よりも歳は下なのに視野広くちゃんと考えられてて、
「月島…ありがとう」
そう言うと月島はバツが悪そうに少し笑った。
その後、俺たちはまたリビングに戻り、寝る前のように遊び尽くした。ゲームをやって、笑い合って、少し、目頭に熱いものが浮かんで、そうしているうちに、もう夕方になってしまった。明日からは月島たちは学校だ。そろそろ、帰らなくてはならない。少し荒れた部屋とリビングを片付け、着替えてから、荷物を持って玄関へ向かった。東京へ戻る黒尾さんと木兎さんと俺は靴を履く。
「……木兎さん、また、今度バレーしましょうね。ブロック、飛んであげますから…」
月島が顔が見えない程度に下を向いて震えた声でそう言った。木兎さんと黒尾さんは少し驚いているようだが、木兎さんはそんな月島を見て
「ありがとな、ツッキー!」
そう言って笑った。月島は顔を上げて
「はい…」
と返事をした。目には涙が浮かんでいたが、見たこともない笑顔だった。
俺たちは月島の家を出て、東京に戻るために電車まで歩いて行った
「黒尾は予定あるから、このままこの先のコンビニのあたりで別れるんだっけ?」
「そーなるなぁ…」
「………」
「あの、木兎、ちょっといいか?」
俺が入るべきところではないだろう。俺はそう思い、少しトイレに、と言って席を外した。数分後に戻ってくると、どうやら何かを話したのか?何故か、黒尾さんの目頭が少し赤くなっていた。その後、また少し歩き、黒尾さんと別れる予定のコンビニについた。少し、予定よりも早くここまでついたので、些細な昔の思い出話を3人でした。あっという間に時計は周り、黒尾さんと別れるの時間になった。
「じゃあな、黒尾」
「ああ……木兎。………………今度、2ヶ月後!お前に高級焼肉食べ放題の店を奢ってやる!!ただし条件がある!!俺とツッキーと赤葦との思い出の話をするんだ!……約束な。」
黒尾さんが少し鼻を鳴らしながらそう言うと、木兎さんは
「もちろんだ!俺、黒尾の奢りとか見たことねぇーからな!レア!」
「そういうのかよ……」
そう言いながら抱き合って、笑い合っていた。いよいよ、黒尾さんと解散だ。黒尾さんは俺に耳打ちをしてきた。
「木兎のこと、頼んだぞ。」
ボソッと、そう言った。
「じゃあなお前ら!!また今度!赤葦も肉奢ってやるから!」
俺たちは、お互いが見えなくなるまで手を振り続けた。
黒尾さんと別れてすぐ、俺たちは正直、路頭に迷っていた。東京に帰っても何をするか…とりあえず、一旦は電車のあるところまで進んでいった。
「木兎さん、これからどうしま…」
ドンと誰かがぶつかる音がした。俺の隣にいた木兎さんに通行人の男がぶつかったようだ。俺や木兎さんよりも身長が高く、強面の男。この顔、何処かで見た覚えが…
「イッテェなオイ!!よそ見してんじゃねぇよ!!!」
良く見えていなかったのだが、男が声を荒げ、怒鳴りつけると、そのまま怒ったように通り過ぎていった。「気が荒い人だなと」少し釈然としない気分だったが、木兎さんが一向に言葉を発さない。不思議に思い、木兎さんの様子を見て見てみると、木兎さんは突然その場に崩れ落ち、蹲って震えていた。
「ぼ、木兎さん?!どうしたんですか?!」
この人のこんな姿なんて初めて見て、取り乱してしまう。だって、あの木兎さんが?何があったんだ?困惑で、頭がいっぱいになる。すると下の方から木兎さんの声が聞こえた。
「…あっ、ごめんあかーし。もー大丈夫」
その声は、少し震えていた。
「なんで、どうしたんですか、木兎さん」
「いや…ちょっと、嫌なこと、思い出して…」
木兎さんは何か、隠そうとしているような、そんな声で言った。木兎さんだけれど、木兎さんではないような。正直、聞いてしまいたかった。自分はまだ、木兎さんのことを支えられるような人じゃないのかと、けれど、この人が隠そうとするなんて、俺が、無理に聞くべきことではないのだろう。いつか、木兎さんが話してくれるまで…
「赤葦!じゃあさ、俺、今日行きたいとこあるんだよね!」
先程まで地面についていたズボンの膝部分は汚れていたが、それをはらいながら、木兎さんはすっかりいつもの声色で言った。
結局、電車に乗って東京には戻らず、俺たちが最寄りのバスに乗り、ついたのは銭湯だった。本来は旅館で、温泉は一般使用できる所だ。ついでに、夕飯も頼むことができたので、ここで食べることになった。
「赤葦!よくない?ここ!行ってみたかったんだよねー!!」
木兎さんが嬉しそうな顔で言った。店内に入ると、温泉独特の硫黄の香りと、ヒノキの香りが漂ってくる。
「いいですね、ここ。旅館…ですか?」
「そうそう!ここの温泉入ってみたかったんだよなー!!」
「もう、ついでに泊まっちゃいます?」
「ええ?!金あんの?!」
「ありますよ」
そう言って俺は財布の中のカードを見せた。
「すげぇ!じゃあここ泊まる?他ないしな!」
たまたま空き部屋があったので、今日はここに泊まることになった。
「赤葦ーー!!着物ある!おー!赤葦の分もとっといてやるよ!!」
俺がチェックインをしている間に、木兎さんは店内のエントランスを回って楽しんでいる。
このホテルは10階建で俺たちは819号室になった。木兎さんがとってきた枕や着物、タオルなどを持ってエレベーターで8階まで上がる。8階まで上がり、右を見ると、すぐそこに俺たちの部屋が見つかった。少し小洒落た扉を、受付でもらった鍵で開けると、そこには和洋式の部屋が広がっていた。部屋と入ると同時に、俺の後ろにいた木兎さんが
「うおおおおお!すげええええ!!!」
と言いながら走って布団に飛び込んだ。
「いいなここ!!赤葦とこういうとこ行くの初めてだから楽しい!!」
「そうですね」
そんな会話をしていると木兎さんはせっせと着物に着替えてから、すぐに部屋を漁り始めた。
「ねぇねぇ赤葦!金庫ある!!」
「あー!すげぇでかいこの押し入れ!!」
着物姿の木兎さんは色々なところを見漁っては見つけたものに指をさし、俺に見せてきた。
その後、目当ての風呂に行くために用意を始めた。俺も着ていた服を脱ぎ、木兎さんの用意してくれておいた着物に着替えようとしたが…
「……木兎さん……」
俺が手に取った着物は、形こそは普通の男物だが、柄がピンク色に花柄という…なんとも言えないものだった。
「いーだろ!?赤葦に似合うと思って!!」
こんな笑顔で言われては言い返すことも、ましてや服を変えることもできない…俺は仕方なく、この服で木兎さんとタオルを持って風呂場まで歩いた。風呂場に行くためには、受付をしたエントランスを通り、その先まで少し歩くことになっていた。広いエントランスの大きな窓から見える風景には、満天の星が浮かぶ夜空が広がっていた。エントランスを通り終わり、お土産コーナーを超えて、風呂場までついた。男湯と書かれた青い襷をあげて、脱衣所に入り、着替えを始める。
慣れない手つきで着物を脱いでいる木兎さんの方を見ると、はだけた着物の隙間から、立派に鍛え上げられた腹筋が映っていた。
「木兎さん腹筋すごいっすね」
俺が指摘をすると、木兎さんは得意げな顔になって
「だろー!!鍛え方ってやつかな!!?」
温泉に入る扉を開けると、中の湿気と共に、この店の入り口でも香っていた温泉独特の匂いが鼻につく。今はちょうど、夕飯の時間だったからか、客は俺と木兎さん以外にいなかった。
「ひゃっほおーー!!俺たちだけじゃん!!!」
ヘイヘイヘーイ!といつものように叫ぶと、掛け湯もせずに一番近くの風呂に勢いよく飛び込んで行った。少し熱いお湯がこちらにも飛んでくる。
「あっつ!!このお湯あっつ!!!?」
そう言いながら木兎さんは肩と顔を少し赤く染めて上がってきた。
「木兎さん。飛び込むと危ないですよ。」
「ううっ……」
「まずは体洗ってくださいよ。」
「はーーい…」
そう言った後で俺と、先程のせいで全身水浸しの木兎さんと体を洗いに行った。
体を洗っている最中、またしても今日の今朝のことが、俺の頭を過ぎる。あの怯えよう…何かあったのか?考えすぎも良くないし、あの木兎さんにだってきっと、隠したいこともあるのだろう。それでも、あの衝撃が忘れられずにいる俺がいた。そんなことを考えながら髪の毛を洗う俺の横から、シャワーの水が大量に降ってきた。
「あわわ、ごめん赤葦!!」
「木兎さん……っ…」
どうやら、自身の髪を洗い流している際に、こちらにシャワーを向けてしまったようだ。
「ごめんんん!!ごめん赤葦ぃ!!」
慌てて泣きそうな顔をしている木兎さんの顔を見ていると、怒る気も失せてしまう。
「いいですけど……気おつけてくださいね…」
「これ俺、どうも苦手なんだよなぁ…前、銭湯行った時も、隣にいたおじちゃんにおんなじことしちゃったし、前の合宿とか、木葉とか黒尾にもやっちゃったんだよな…」
木兎さんがそう言って、目線を下げながら両手の人差し指を控えめにツンツン突いていた。まったく、この人は……
「そんな呆れた顔で見るな赤葦!!」
そんなこんなで俺たちはシャワーを浴び終え、木兎さんが、
「中の風呂は熱いから!」
と言っていたのでその要望を聞き、外の露天風呂に入ることにした。外に出るための扉に手をかけ、少し開けると冬のとても冷たい風が入ってきた。
「さむっ、寒い!赤葦いい」
木兎さんはそう言って露天風呂の湯の中に走って勢いよく入っていってしまった。確かに、今日は一段と肌寒い。雪でも降るのではないか?俺も鳥肌が立ち始めたので、急いで湯船に入る。足の爪先を湯に入れると、暖かなお湯が体全身を巡る。全身入ると、俺の隣に、少し前に湯船に入っていた木兎さんが泳いできた。風呂場で泳いではいけないと、あれほど合宿の時にも注意したのに…そんなことを思っていると、木兎さんが俺の肩を叩き、声を掛けてきた。
「ねぇ赤葦!凄くない?」
そう言って木兎さんが指を刺した所を見ると、
「うわ……すご…」
「だろ?!お湯にも映ってるし!こんなん初めて見た…」
「そうですね…東京ではあまり見えないレアなものですね…こんなものが見れるとは…」
美しく輝く夜空には、無数の流れ星が蔓延っていた。時々、流れ星も姿を表していた。
「流れ星って、お願い事3回いったら叶うらしいぜ!!」
「じゃあなにか考えないとですね」
「そーだなぁ……うーん…」
木兎さんは考える素振りをすると少しして口を開いた。
「赤葦たちとずっと一緒にいる!」
へにゃっと顔を歪めて笑う木兎さんの顔は、夜空に光る星の光にあたって輝いていた。
「覚えてるのは…そこまでか?赤葦、」
「そう……ですね……なんとか…」
黒尾さんに問われるが、どうしても、あの件から時の近い出来事が思い出すことができない。ショックによるなんらかの記憶障害だと医者に伝えられた。なので、ここから語るのは、少し前の俺が日記で書いていた……今の俺が覚えていない物語だ。
○月11日
今日は、黒尾さんと別れて、旅館へ泊まることになった。風呂では流れ星が無数にあり、願い事を唱えた。木兎さんは俺と一緒にずっといると言う願い事にしたらしい。風呂から上がると、俺たちは下の売店にあった弁当と惣菜諸々を買って、部屋で食べた。木兎さんと分け合った弁当は、とても美味しかった。今日はお互い、ここまでの3日間で疲れていたので早く寝た。
○月12日
今日は、朝のご飯も昨日の売店で買って、同様に部屋で2人で食べた。俺の好物もあったので嬉しかった。
ホテルを出ると俺たちは近所で美味しいと噂の食べ放題焼肉店へ行った。木兎さんも沢山食べていたので良かった。今日は、お金がかなり減ったので、近くにあった少しボロい個人経営のホテルに泊まった。カプセルハウスと言うのだろうか?狭くて窮屈だったが、木兎さんとの距離も狭まって少し楽しかった。
○月16日
今日で木兎さんとの旅が始まり1週間が経った。まだ、症状が出ているようには見えないが……とりあえず今日は、東京で今話題の水族館へ行った。イルカショーでは木兎さんの要望で前の方に行き、びしょ濡れになったので、下の売店でお揃いのTシャツを買った。その後は近くにあった動物園にも行った。梟谷高校…と言うことで(?)何故か木兎さんが梟の元に走り、並ぶと、意外にそっくりで面白かった。
○月21日
少し、木兎さんの記憶が消えてきているのだろうか?あまり、話したりはしていないが、久しぶりに部活の先輩を見つけたのだが、木兎さんの記憶にはないようだ。病気が、進行している…のだろう。あまり考えたくはないが…月島が言っていた医者の話も、全然情報が集まっていない。出来ることは、全てしているはずなのに…もっと、頑張らなければいけない。今日は木兎さんの希望で遊園地に行った。遊園地に行くなんて何年振りだろうか?お化け屋敷へ入ると木兎さんは怯えて俺に抱きついてきたり、ジェットコースターで叫んでいたりと…エンジョイができたようで良かった。その後は、近くのホテルへ泊まったが、そろそろ資金面が心配だ。遊園地に行く為の交通費もかなり掛かってしまった。少し、短期間のバイトを始めようかと思う今日この頃。
○月29日
今日、ついに木兎さんの記憶が本格的に消え始めてきた。昔の思い出話をすると、困惑したような表情でこちらを見つめていた。記憶の消え方はよく分からないが…古い記憶から消えてゆき、あまり近しくない人間からその存在を忘れるようなイメージだと思う…。どうしよう。医者の件もまだ見つかっていない。今日は、資金が尽き始めてきたので、初めてキャンプ用具を買い、山奥に泊まることにした。慣れない事だったので不安だったが意外とうまくできたようだ。木兎さんはエクスカリバー!と叫びながら棒を振り回しているだけだったが…楽しそうでなによりだった。記憶が消えていくなんてどんな感覚なのか…きっと恐ろしい事だと思う。今はこんな調子だけれど…弱気なことを言ったってしょうがない。今、俺のやることをするのみだ。
○月7日
ついに、例の医者が見つかった。木兎さんの記憶はどんどん消えていっている。今日は、病気の進行のこともあり、俺と少し離れて一度、木兎さんが家に戻っている。帰ってきたら、医者が見つかったと、伝えなければ。皆んなにも、伝えて、手術してまた、いつも通り過ごす。この日記も書くのは最後になるだろうか?木兎さんが帰ってきたら、伝えよう。
「日記は…ここまで……ですね。」
「やっぱ思い出せない?」
「そう…ですね、どうしても日記みても、微妙に、夢で見たような…見たいな感じで、思い出せなくて…よく分からないってか、覚えがないっていうか…記憶がなくなるって怖いです」
「日記って、毎日書いてたの?」
「書いてたんですけど、日記は、あの時、これ持ってて、多分衝撃やらなんやらで破れたり汚れたりして読めたのがここだけでした。」
「そーか分かった。……大丈夫か?赤葦」
黒尾さんにそう問われる。少し、俯いて考え込んでいた俺の手のひらに、温かい水滴が落ちてきた。
「すまん、大丈夫なわけないよな、俺も…正直、まだ受け止めきれていない。」
俯いた黒尾さんの目からも涙が溢れ始めた。
木兎さんは、この日記が途絶えた日に……
交通事故で亡くなった。
「あの時の記憶、俺、見てたんですよね?思い出そうとしてるんですけど、どうしても、思い出せなくて、思い出そうとしたら頭が、割れそうになって…」
「いいよ、ゆっくり思い出してきゃいい。頭を打って一時的に記憶が抜けてるだけらしいからな」
しばらくの沈黙が流れる。
すると、俺の病室の扉がノックされた。
「どうぞ」
扉の先から出ていたのは、木兎さんの両親だった。
「…光太郎さんのご両親ですよね…すみません。俺が連れ回したばかりに、ご迷惑もかけて、もしかしたら、俺がこんなことしなければ、木兎さんは……」
謝っても謝りきれない。事故の詳細は、記憶が飛んでいて分からないが、あの時、俺を忘れたはずの木兎さんが、忘れられたショックのあまり走り出した俺の後を追っていって、事故にあったと聞いていたから。俺が、原因だ。そう考えると、
「頭を上げてください。」
木兎さんのご両親の声が聞こえた。
「あの子のこと楽しませてくれたのでしょう?あの子、病院で病気のことを言われた後、ずっと部屋に閉じこもってて、赤葦くんがいなかったら、あの子は壊れていたかもしれない」
両親の2人も泣きながら話してくれた。
「だから、ありがとう…あの子を連れ出してくれて。怒ってはないわ」
俺の目から、止まることなく涙が溢れてきた。木兎さん、木兎さんと声をかける。勿論、声は返ってこない。
「あなたも、頭を打ったのでしょう?直ったら、あの子の部屋に入ってもらってもいい?色々、貴方に残しているものもあるだろうから」
「はい……っ…」
そう言い残すと、木兎さんの両親は色々と、やらなければならないことがあるから。と言って病室を出ていった。その数分後、梟谷のメンバーや、月島、日向に、弧爪、木兎さんに関わりがあった人が沢山この病室に訪れた。俺たちは病室でただ泣いた。皆んなあの人の名前を読んだ。しかし返ってくるのは、虚無だけ。返事など、返ってはこない。嗚呼、なんて世界なんだ。木兎さん…木兎さん、貴方がいなくなって、こんなにも悲しんでいる人がいるのに、何で、こんなことになってしまったんでしょうね。
それから1時間ほどの時が過ぎ、全員が病室から立ち去っていった。皆、帰り際に俺に声を掛けてきたが、もう、全部頭に入ってこない。木兎さんがいない世界。以前は鮮やかだった世界も、今では全てが灰色に見える。俺の生きる意味とは?俺の大好きな人は……この世を去った。もしかしたら、俺のせいかもしれない。いや、分かっている。記憶が、戻りつつあるんだ。ただ、踏み出すことができない。鋭い痛みが俺の脳に走る。ふと横を見ると、そこには、ボロボロになった、木兎さんがいつと背負っていた鞄と、そこについた一つのキーホルダー。月島と黒尾さんと遊んだ時に買ったキーホルダーだった。
ズキリと、俺の脳に突如衝撃が走った。
思い出した。
あの時のこと、
木兎さんが、車に轢かれたあの日のことを。
「木兎さん…木兎さん……ごめんなさい、ごめんなさい…」
俺は気づくと、木兎さんの鞄を抱きしめながら子供のように、声を抑えることもできずに泣いていた。
あの日は木兎さんと別れ、一時的に自身の家にいた。けれど、俺は早く木兎さんに会いたくて、予定より早く、木兎さんの家を訪ねていた。ノックをすると、
「はーい」
と言ういつもの木兎さんの声が聞こえた。扉が開いたら、いつものように赤葦!と言ってくれるだろう。そう思っていたのに、その人の口から出た言葉は
「すんません、どなた…っすかね?」
ああ、ついに俺のことまで忘れてしまったのか、冷静になれ、もし、記憶が無くなったって、取り戻すって、木兎さんに誓ったじゃないか。そう、言っていたのに、俺の体は勝手に、木兎さんから離れていってしまっていた。目には、涙が浮かんでいた。忘れられるのが、こんなにも辛いことだったなんて知りたくもなかった。後ろから木兎さんの声が聞こえたような気はしていたんだ。俺は走った。走り続けた。現実逃避の意味もあっただろう。滲む視界を進み続けた。すると背後から
「危ない!!!」
そんな声が聞こえた。すると、俺の背中を誰かが押した。後ろで、車が通る音がする。そうすると、沢山の人間の悲鳴が上がってきた。
「うわわわああ!轢かれた!?血がっ…」
「誰かっ!救急車をっ!!!」
俺の後ろで血まみれで倒れているのは、木兎さんだった。
「木兎さん???!!!」
何故?俺たち、もう、他人で、
「へへっ…あかーしだ……良かった…あかーし怪我ないよね?」
「ないですけど、木兎さん?!なんで、やだ、俺のこと、忘れたんじゃっ…??」
「うん…忘れちゃってたんだけど、お前が走ったとき、どうしても俺も走んなきゃって、思って…それで、いま、全部思い出した、なんでだろ、今更すぎるのに」
「木兎さん…やだっ…血、いっぱい出て…」
「あーーまあ、あかーしのこと守れて良かった………あかーしさぁ…俺の日記見といて、お願いね」
「何言ってるんですかアンタ!救急車!呼びましたから!そんな喋ったら、血、量が、」
「ははっ…俺ダメな気がする…」
何を言って、この人、そんな、血が止まらない。周りのガヤの声がうるさい。なんで、木兎さん、
「あかーし、泣かないで…ありがと。俺と一緒にいてくれて」
「そんな、最後みたいなこと言わないで下さいよ!!記憶、戻ったのでしょう?約束通りパーティーしましょうよ?黒尾さんも奢ってくれるって、言ってましたし…木兎さん…お願いしますよ…」
「あかーし…ありがと、俺赤葦のこと大好きだったよ。ありがとう、、ありがとう」
「木兎さん?!木兎さん!木兎さん……!!」
いくら呼びかけても、返事が返ってこなくなった。その後は救急が来て、木兎さんと、押されて転んだ影響で頭を強打しているらしい俺を運んで行った。運ばれる木兎さんの顔は、この1ヶ月と少しの旅で見た寝顔のような、安らかな顔だった。その後は、病院に俺も運ばれて…そんな風だった。
木兎さんの葬儀はもう終わったそうだ。俺は、長らく寝ていたらしい。全て思い出した。やっぱり、俺のせいだった。俺がいなければ、木兎さんも死ぬことはなかったのか?俺が、もう少し待ってから、木兎さんの家に行ってたら、俺が、俺が俺が俺が、吐き気がしてきて、病院のトイレに駆け込む。涙と嗚咽が止まらない。もう、いっそのこと、死んでしまって、木兎さんと同じところに行きたい。俺は病室に戻り、親が持ってきて引き出しの中に入っていた寝巻きを紐状にして円をかくように丸く、解けないよう頑丈に結び、それを天井の出っ張り部分を使って天井に吊り下げた。縁の部分に首を括る。そのとき、あることを思い出した。木兎さんの日記と、あの、男にぶつかった時の異様な震え様。何か、あったのか?記憶がいきなりなくなってゆく病気なんて、突如元気だった木兎さんに怒るものなのか?何か、キッカケ……と言うものが、あったのかもしれない。この様な症状…いや、考え過ぎか…今思えば、他にも不自然なところが度々あった気がするんだ。何か他に…って自分の罪を軽くしようとしている。だけれど、木兎さんの最後の遺言の日記、これに何か、何かないのか?きっと、木兎さんの家に置いてあるはずだ。死ぬのは、まだだ。何故木兎さんがこの様な病気にかかったのか、
それを暴くまでは。
早速、俺は次の日に医者に許可をもらい、木兎さんの家に行くことにした。木兎さんの両親は俺がすぐに来たことに少し驚いている様子だったが、快く家にあげてくれた。リビングに置いてある木兎さんの遺影と少しばかりの骨の前で礼をする。骨壷を見ると、俺の10分の1ほどのサイズだった。こんなに、小さくなるなんて。遺影には、いつもの顔で笑っている木兎さんの写真が飾られていた。卒業写真の為に撮ったと見せていたものか……感情に浸っている場合ではなかった。部屋に入れてもらうと、木兎さんと旅を始める前の時と変わらぬままそこにあった。部屋に入り、床や本棚を探す。そこで見えたのは木兎さんのベット。あの時、木兎さんを迎えに行った日に木兎さんが泣きながらくるまっていたところだった。そこに座ると、まだ微かに、今までいつも嫌と言うほど嗅いでいた木兎さんの匂いがした。また、俺の涙腺が緩むが、我慢して日記帳を探す。少し探しているうちに、床に落ちた木兎さんの日記帳があった。それを拾い、1ページ目から広げていく。すると、何故か一番最初のページにあった日付は木兎さんが学校に来なくなった3日前からのものだった。
○月19日
今日から、日記をつける。あの日から、どんどん記おくが消えていく感じがする。忘れるのは怖いから。日記さえつけとけば、後で見かえして、分かるように。あのおじさんに、家に連れ込まれてレイプ?ってことをされたあの日から、俺が俺じゃないような、そんな気がして、あれのせいで、あのおじさんくらいのとしの人がこわいし、気持ち悪くなって、吐きそうになる。タバコを押し付けられた火傷跡はまだ残ってる。
○月20日
今日、記おくがどんどん減ってきて、やばいと思ったからなんでかわからないけど頭が痛いと言って母ちゃんに病院に行かせてもらった。やっぱ、なんかの病気だったみたいで、みちらしいけど、これから絶対に長くてもでも2ヶ月で俺の記おくは全部なくなってしまうらしい。赤葦たちのことも、わかんなくなっちゃうんだって。
○月21日
俺は久々に学校を休んだ。とてもじゃないが、そんな気分にはなれなかった。全部、忘れる。そんな悲しいことある?あの日、あの家に連れ込まれた時に全てが終わった。本当に、死んでしまいたい。
「なんだこれ……」
薄々、予測はしていた。しかし、本当だったとは、信じたくなかった。この人が、こんなにも傷ついていたなんて、あの、元気なあの人が、犯人と思われる男に殺意が湧く。木兎さんを、こんなにも苦しめるなんて
体の内側から、苛烈しそうなほどの怒りが込み上げてくる。
日記の紙はところどころに丸く濡れた跡があった。次にもページを捲る。○月20日以降は2週間もの間は辛い、死にたい、赤葦たちに会いたい。などのことが連続して書いてあるばかりだった。月も周り、20日から2週間後の4日、俺と共に家を出た時からの様子が書かれてあった。
○月4日
今日は赤葦が家まで来た。泣いているところを見られてしまった。俺は、エースなのに、カッコ悪いところを見せてしまった。けど、いいことがあった。赤葦が、俺を連れ出してくれた。今日から、たくさん色々な所に遊びにいくらしい。楽しみでしょうがない。今日は、梟谷のメンバーと一緒にバレーをした。時間を忘れるほど、楽しくて、でもこの記憶も無くなってしまうのか、そんなことを思っていると、少し不調だった気もする。そのあとは、みんなが返った頃に木葉が俺を呼び出して、事情を言っていないはずなのに、俺を抱きしめて、無理するなよと言ってくれた。そのあとは赤葦と初めてビジネスホテルに泊まった。赤葦と過ごす時間は楽しかった。けれど、また、記憶がなくなっていく感覚がする。携帯に残っていた3年前の写真。どうしても、思い出せない。自分が写っていて、肩を組んでいるのは…誰だ?先輩なのだろうか?自分の中で何かが消えていく感じがした。
○月5日、○月6日
今日は夢見が悪かった。俺が全部忘れちゃって、赤葦たちも離れていってしまった夢だった。しかし、今日は黒尾とツッキー似合う日だ。いつも通り振る舞はないと、心配はかけたくない…って思ってたけど、あの2人は気づいたようで、俺のために泣いてくれた。嬉しかった。最後、ツッキーと黒尾と別れる時、2人とも、俺に優しい言葉を投げかけてくれた。赤葦がトイレに行ってる時に、赤葦のこと、絶対忘れんなよと黒尾が言った。絶対、忘れてたまるか!!でも、後での帰り道、俺は”あの”男にぶつかった。きっと、あいつも気づいていたのであろう。耳元で、明後日に例のところへ来いと耳打ちをされた。その瞬間、俺の膝は落ち、蹲ってしまった。なぜ、あいつが?きっと、赤葦の顔も見られた。でも、隠し通さないと。
「えっ………?」
あの男…?まさか、木兎さんの、記憶が無くなってしまった原因の……??一気に、吐き気が込み上げる。あいつが?俺は、あいつの顔を確認していなかった。でも、あいつが、なんだって?木兎さんがこんなにも傷ついてしまった原因である男とすれ違っていたなんて、ページを捲る手が止まり、俺は自分の無力さに苛立ちを覚えていた。なぜ、あの時不思議に思って、あの男のことをもっとちゃんと見ていなかったのか?おかしかったはずだ。確かに、木兎さんは少し周囲に怯えているように見えた。しかし、あれ程までの反応、今まであったか?電車で、他の見知らぬ男にぶつかった時もあったが、あそこまで怯えたりはしていなかった。何故、俺は、気づけなかった?しかも、明後日って……?
俺は急いで、明後日、8日のページを捲った。
○月8日
今日は、赤葦に予定があると言って、あの男に会った。赤葦に嘘をつくのは嫌だったけど、合わないと赤葦にも手を出すかもしれないから。ここに書きたくもない。今日はあの男だけじゃなかった。記憶が、どんどん飛んでゆく。この記憶も、無くなってくれるのかな?
「っ……」
その後のページを捲るが、その後は、俺との思い出の記録で埋め尽くされていた。けれど、どんどん、記憶は無くなっていたようだ。あの日、事故に遭った数日前の時から、殆どの記憶が消えていたようだ。唯一残っていたのが…両親と俺。赤葦のことは絶対に忘れたらダメ!と大きな字で殆どのページに赤ペンライン付きで書いてあった。事故に遭う1日前のページを捲る。そこには俺と木兎さんが楽しそうに笑っている姿が写った写真だった。手の甲に涙が落ちる。涙は、とっくに枯れたはずなのに、俺の目からは止まることなく涙が溢れてくる。
「木兎さん…木兎さん…」
突然、ベットの上に落ちていた木兎さんの携帯から電話の通知音が鳴る。確認してみると、見知らぬ番号からだった。木兎さんの携帯のパスワードは知っていたので、すこし、確認してみることにした。
「赤葦の誕生日を忘れないようにパスワードにする!」
と言っていたことを思い出す。俺の誕生日を入れ、携帯のロックを開き、着信を受け入れた。すると、聞こえてきたのは男の野太い悪声だった。
「光太郎ちゃーん、お兄さん、また溜まってきたんだケド…?来てくれるよね?」
「?!」
誰だ、これ、頭の中をある可能性が過ぎる。まさか…
「なにー無視?あの写真ばら撒いちゃうけどいいの?バレー選手生命終わっちゃうけど…あと、君のチームの子のことだって知ってるんだから」
怒りと困惑で頭が引き裂けそうになる。こいつは、こいつは、
「そーいや、この前のも気持ちよかったよ?赤葦くんに嘘ついてまで俺のとこ来てくれて嬉しかった、君は嫌そうだったけどね。ねーそろそろ喋らない?」
聞こえる汚らしい笑い声。俺は苛立ちと、この男に対する生理的嫌悪に溢れ、吐き気がして、いつの間にか電話を切っていた。
噛み締めた唇から鉄の味がする。俺は、気づけば木兎さんの家から飛び出ていた。息が切れて、呼吸が苦しくなるが、そんなの構わず走り続ける。行く所もないのに。すると、ドンと誰かの肩にぶつかった。少し冷静になり、謝罪をしようとすると、トサカのようなあの髪が見えた。
「黒尾さん…?」
「赤葦??」
病院であった以来だ。俺は黒尾さんに挨拶をした。
「何してたんだ?赤葦、」
「いや…ちょっと…」
ここで黒尾さんは片手に木兎さんの日記をにぎり、手が真っ赤に腫れている俺の姿を見て、何かを察してくれたのだろう。黒尾さんは、俺を自身の家に招いてくれた。少し歩き、家の前までまで着いた。
「ちょっと、他に2人いるけど…」
そう言うと、黒尾さんは、家の玄関の扉を開けた。すると、部屋の奥から声が聞こえてきた。
「黒尾サン、ちゃんとショートケーキ買ってきましたか……?って、赤葦さん?」
黒尾さんの部屋にはゲームをしている月島と孤爪の姿があった。「あ、赤葦…、」と言いながら孤爪は俺に向かって手を振った。
「月島に孤爪…なんで、」
俺は疑問を口にすると、ゲームをやる手を止めて、月島が答えてくれた。
「赤葦さんこそ…って、目大丈夫ですか?なんか赤く…」
「ああ、これね、ごめん、、大丈夫」
「木兎さんのことでしょ?」
突然、今まであまり言葉を発さなかった孤爪の口が開いた。
「その日記…木兎さんのでしょ?なんかみたことあるし、なんか書いてあったの?」
ここで、一度話した方がいいのではないか?そんな考えが一瞬頭をよぎる。ここで、話して、楽になりたい。俺1人に抱えられる問題ではない…しかし、俺の口は動かなかった。
「大丈夫。心配入らないから。黒尾さん、すみません、お邪魔して。失礼しますね」
「ちょ、赤葦…」
俺は一目散に黒尾さんの家を飛び出した。少し走って、黒尾さんの家から離れるとスピードを緩めて歩く。…俺は、自分が楽になりたいからって、木兎さんのことを話そうとした。ダメでは無いか。俺は犯人を、あの男を必ず見つけ出して殺す。あの3人にこのことが知られたら、きっと証拠を集めて警察に行けと言うだろう。しかし、そんなのじゃ生ぬるい。いっても、逮捕されたとして、刑期は10年そこら…巫山戯るなよ。絶対、俺の手で殺してやる。俺は、男の情報を集めた。少し前に、テレビで流れていた男子高校を犯して顔写真が公開されていた男。木兎さんの仇もあいつで間違いないはずだ。
次の日の朝、俺が持っていってた木兎さんの携帯が鳴り始めた。きたか、やっとだ。
「やっほ〜光太郎くん…じゃなくて赤葦くん。」
「よろしくお願いします」
「光太郎くん、死んじゃったんだね、悲しいよ。でも、交通事故なんて…でも、赤葦くん、きてくれたし…」
「みる?光太郎くんの写真…これをみられたく無い為に俺に腰振りに来てたなんて、バカだよね、後輩に手を出すなんて嘘に決まってるのにー」
「ですね…」
「じゃあ早速脱ごっか、全部教えてあげる」
そう言って男は全裸になり、俺の上に乗っかる。
「かわいいね…赤葦くん…腹も割れててきれー」
男は俺の腹を汚い指でなぞった。あともう少し、あともう少し……
「えっちするか…」
部屋に肉のぶつかり合う音がする。男は、俺の上で必死に腰を振っていた。予想以上の嫌悪感が俺を襲う。顔を赤らめ、楽しそうに腰を動かす。そんな男に向かって俺は、隠していたナイフを男の顔面に振り下ろした。
「え?」
ぐちゃり、ぐちょり、先程までの音とは違う、肉が切り裂ける音と男の悲鳴が部屋に響いた。何度も切り付けていくと、いつのまにか男の息が途絶えていた。
「終わった…これで…」
男の血まみれの死体を布団に置いたまま、俺は汚れた体を洗い流すため、シャワーを浴びた。シャワーを浴び、他の服に着替え、ホテルを出ると、見えたのは、満点の星空だった。あの時、木兎さんと行った旅館の時のような景色。また、あの日の記憶が蘇る。最後はここにしよう。ずっと前から決めていた場所があった。少しずつ、事故の日から戻り始めた思い出の中に出てきた海。海は空の星を反射して、輝いていた。微かにだが、覚えている。冷たい風が頬を通り抜ける。これで、終わりだ。今頃はあの男の死体も見つかっている頃だろう。海の水が膝にまで到達する。木兎さん、木兎さん。今すぐに会いに行きますから。首まで水が到達し、体が冷えてくる。
「あっ」
砂の床に足を取られ、転んでしまった。もう、かなりの深さまで来ている。俺は水に沈んだ。体が、急速に冷える。すると、懐かしい声が聞こえた気がした。水中で目を開けると、木兎さんの姿があった。
「やっと会えた…」
けれど、少し悲しそうな顔をしていて、木兎さん…俺は木兎さんのところまで泳いで、抱きしめに行った。木兎さんは、もういない。そんなこと分かりきってるはずなのに、冷たい水の中で、ここだけが、とても暖かく感じた。木兎さんとの思い出の数々が蘇ってくる。あの日、初めて貴方を見た日。貴方について行った日。共に笑い合った日……美しく輝く貴方を見れて、幸せな人生でした。ずっと懐に抱えていた、木兎さんの部屋から持ってきていたユニフォームに語りかける。
「俺、幸せでした。来世も、また貴方と……」
そんな声は、海の奥底に沈んで行った。
赤葦の訃報が届いたのは、あの日、赤葦がうちに来てから5日後のことだった。どうやら、自殺のようだ。海に沈んで行ったらしい。…木兎のユニフォームを抱き抱えて。そして赤葦は死ぬ前に、とんでもないことをやらかしたらしい。海の近くのホテルに置いてあった血まみれの男の死体。警察の鑑定により、赤葦が殺した…で間違いないようだ。その場からは、性行為をした跡も残っていたらしい。被害者男性は、容疑者…赤葦に呼び出されてホテルに入り、殺害をされたようだ。どうして、赤葦が…?そんなことを考えていると、玄関のインターホンが鳴った。扉を開けて出てきたのは中くらいのダンボールを抱えた配達員だった。
「あっ、はい」
「これ、お荷物です。黒尾さんですよね?ハンコをお願いします。」
「はい。ハンコですね、分かりました」
ハンコを押し、荷物を受け取ると、配達員は帰って行った。荷物の確認をすると、送り主は赤葦のようだ。何が入って?ダンボールの中身を見てみると、そこには、木兎の持っていた日記と、封に閉じられた手紙が置いてあった。手紙の中を開けると、そこには赤葦の字があった。
黒尾さんへ
先に謝っておきます。すみません。俺は、人を殺します。木兎さんの仇…と言ったものですかね。まあ、そんなことを言ったって、単なる自己満ですが。一緒に入っていたあの日記。木兎さんの友人だった黒尾さんに、この日記を預かっていて欲しいのです。俺の持っていたものだと分かったら、きっと、警察に見られてしまいますから。それと、俺はもう、この世には居ないと思います。なので、木兎さんのこと、忘れないでください。よろしくお願いします。それと、ありがとうございました。月島や俺の周りの人にも言っておいてください。それでは、さようなら。
「なんだよ…これ…」
俺は手紙を床に置き、木兎の日記を開いた。そこには、想像を絶するようなことが書いてあった。あの木兎が…?強姦…?それの仇を赤葦は打ったのか?自らを犠牲にして。なんで気づくことができなかったのか?木兎のこと。あんなに、そばにいたのに。とんでもない自己嫌悪が俺を襲う。こんなことが、あっていいのだろうか?こんな物語が……。俺はあの日、木兎たちとお揃いで買ったキーホルダーを抱きしめて泣いた。
数年後、あの殺された男のやっていたことが、世間に報じられた。時折り、高校生程度の男児をホテルに連れ去り、脅迫や暴行をして、無理矢理性行為をしていたそうだ。赤葦の行動は、皆から称賛された。けれどもう、あの2人が帰ってくることはない。あと少しで、この事件のことも忘れられてしまうのだろう。………賢い赤葦なら分かるはずだった。木兎が復讐なんかされて、大切な後輩が自殺して、嬉しい訳がないって。けれど、赤葦はやってのけた。俺は、赤葦と木兎の墓に紫苑の花を添える。家に戻り、あの日、赤葦と木兎とツッキーで遊んだ日の写真を見た。この写真で楽しそうにしてるあいつらをみると、どうも涙が出てくる。
「赤葦…木兎…」
呼んでみても、返事は帰ってはこない。ただ、呼び続ける。あいつらのことを……忘れないように。
end
コメント
12件
時差コメ失礼します🙌🏻🙌🏻🙌🏻もうほんとにストーリー性が好きすぎて何回読んでも泣けます😭😭😭 赤足が木兎さんへの忘れられないって気持ち高いの大好きですし、自分を犠牲にしてまで仇を取る赤葦の行動がえぐいほど好き…最後黒尾視点になってるのも泣ける🥹🥹🥹小説で感動とかあんまりしなかったけどこれはしまくりでした💗💗💗もう愛してます‼️
泣きました、天才ですか?小説で泣いた事なんかありませんでした、クソモブはとりま大地獄に堕ちとけと思いましたほんと最高の作品でした!!
いつも楽しく拝見させて頂いてます。小説で号泣したの初めてです、、、ほんと最高の作品ありがとうございます!!