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次の日の朝。
かなは少しだけ髪を巻いてきた。特に理由はないけど、鏡を見てると自然とそうしたくなった。それだけ気持ちに余裕ができた証拠だった。
教室に入ると、いつものようにはるが窓際の席でノートをまとめていた。
「……おはよ、はる。」
その声は、前より少し柔らかくて――はるは驚いたように顔を上げた。
「おはよう、かな……今日、髪巻いてる。かわいい。」
「え、あ……そう? そ、そんなことないし……ばか……」
でも、はるの隣の席に座って、かなは小さく微笑む。
はるの机に肘を乗せて、ほんの少しだけ肩にもたれかかる。クラスメイトがちらちらと見る中でも気にしない。
はるは照れながらも、かなの頭を軽く撫でた。
そんな2人の様子を、教室の端でじっと見つめる男子生徒がいた。
——彼の名前は南 颯真(みなみ そうま)。
明るくて、女子にも人気のあるタイプ。でもどこか本気になれないでいた彼が、目を奪われたのは今のかなの笑顔だった。
少し色気を帯びたその横顔。
いつもはクールで周りを突き放していた彼女が見せる、誰かにしか向けられない甘え。
それが、自分の中の何かを動かした。
「……あの子、誰とでもあんな顔するわけじゃないよな……」
知らず知らずのうちに、そうまはかなに目を奪われ始めていた。
——そして、これが、静かに動き出すもう一つの“揺らぎ”の始まりだった。