テラーノベル
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馨さんの後ろを急いで歩く。
少し開けた通路で集団が作られていた。先頭にいるのは黒い服で全身を包み、頬に黒いタトゥーの入った男。
「…無陀野さん」
馨さんが開いた口からは、やっぱりあの人の名前が聞こえた。
黙っていたことを責めるつもりも非難する気もないけど、四季はそっと並木度の横顔を見上げた。
四季には花魁坂が言っていた偵察部隊も、援護部隊も未だよくわかってはいない。
けれども並木度の行動から推測していけば、偵察隊という物のおおよその予想はつく。
情報を口に出すことをしないのも、常に変えない表情も。意味のある行動なのだろう。
偵察部隊副隊長として…
ならば四季から言うことは何もない。
それよりも、そんな人間に一時でも信用すると言ってもらえた事の方が貴重でありがたい事だと思うし。
「これだけ残して、皇后崎が消えた」
無陀野さんが持ち上げたソレはクシャクシャになった小さい紙。そこにはただ『申し訳ない』とだけ書いてあった。
四季には皇后崎という人がわからない。っていうかここに居る無陀野さんと並木度さん以外は誰が誰なのかさっぱりだ。
さっきは変装していたのか、全く違う人になっている。
でも…
「あの…皇后崎?さんってさっき黒マスクしていた方ですかね…?」
「あ?テメェ誰だよ」
眉ピアスをした青年がガンつけて見つめて来た。
分かる、私も逆の立場ならそう言うよ!!部外者が何言ってんねんって思うよね…ごめん!
と思いながらも、四季は自分の紹介をなぁなぁにして話を続ける選択をした。
「あなたたちと同じ鬼です」
「…皇后崎さんがもし、そのマスクの方なら」
「様子が少々おかしく思えました」
何故鬼だとわかったのか、と周囲がざわめくけれども無視して続けた四季の言葉を聞いた並木度は顎に手を当てて少し思考を巡らせている。
「…最悪のケースをお見越して、動いた方が良いかもですね」
「さっきの件で桃も警戒しているだろうしな」
賛同した無陀野の一言で廊下は一気に小言で埋め尽くされる。
「あいつらが動くぞ…」
「あいつらか…」
「厄介だな…」
練磨区のこと自体ようわかっていない四季は隣に居る並木度に背伸びをして、耳打ちをした。
「俺、練磨のことよくわかんねーんだけど…」
「練馬区の桃太郎ってそんなヤバいの?」
並木度さんは俺の質問に対して、少し微妙な顔をした。
「練馬区担当の桃太郎は…」
「いろんな意味でヤバいね」
「…皇后崎さんって人早く助けに行った方が良いんじゃないかな?」
沈黙が続いた廊下の空気を割くように四季は提案した。
動かないなら何も変わらないことを知ってるからこそ、何事も早めの方が良いと思っている。
もちろん詰めれる場所は詰めるけれども。
「確かに、時間経過的に」
「動くべきですね」
「戦闘部隊に応援要請しましょう」
賛同してくれた並木度に肩を下ろして、詰まっていた呼吸をホッとした途端に気配一つ感じずに声が聞こえた。
「戦闘部隊は動かせねぇぞ」
重心をずらして、戦闘体勢を整えたものの無陀野さんや並木度さんは声の主に眉を少し上げたりするだけだった。
敵じゃない。
そう思いながらも警戒は解かないように、手を背中側に回して小型ナイフのロックを外した。
「お疲れ様です!」
「真澄隊長」
並木度さんの声は平常と変わってもいなかった、ならばこの人は鬼。
隊長ってことは、並木度さんの上司…
戦闘部隊か、偵察部隊か…
「そもそも書き置きしてんだ」
「どうなろうと自己責任だろ」
冷たい人だ。素直にそう思った。
「勝手な行動する奴は勝手に死ね」
けれども言っていることは筋が通っているし、間違いではない。
言い方が…冷たい。
「久しぶりだなぁ無陀野」
並木度さんの背に再度隠れるように一歩下がり様子を見る。真澄隊長と呼ばれた人は無陀野さんに口角をあげて挨拶をしている。けども瞳は蛇のように真っ黒だった。
その真澄隊長って人が言ってたことをまとめると、皇后崎さんは拉致られたこと。一般人が関わってること。そして……練馬の桃ではないと言うこと。
「しかもそいつは一般人を余裕で巻き込むカスだ」
「確かに、そうなると」
「この地区の戦闘部隊は迂闊に動かせないな」
無陀野さんの一声に首を傾げている生徒、静かな廊下に1人の少女のつぶやき声が聞こえた。
「練馬区の桃太郎ではないから、練馬区は動かせない…」
「練馬の鬼が出払えばここを守る鬼がいなくなる……」
俯いて考え込んでいた、何故即座に助けに行かないのか。
いや行けないのか。
真澄隊長さんと無陀野さんの会話で最後のピースがピッタリと重なりハマった。
廊下の空気が変わった。
ーパキリ。
まさに音をつけるならまさにそんな感じ。
無陀野は観察
並木度は感心
真澄は疑心
生徒たちは不審
遊摺部は…下心
そんな目を一斉に向けられているとは知らずに四季は未だ俯いている。
「…無陀野、お前のところのガキか?」
「多少は使えそうなやつがいるじゃねーかよ」
「…いえ、彼女は」
着ている服も距離感からしても違うことはわかってはいたが真澄は、関係性を含め説明させようとそう聞いた。
並木度が訂正しようと声を上げたが、四季は混乱を招き話が複雑化するのを避けようと短く首を横に振った。
「…チッ、まぁ良いそう言うわけで戦闘部隊が動かせねぇ」
「……じゃあ別の所から戦闘部隊を呼べば良いのでは?」
軽く手を挙げた緑髪の青年が、そう提案した。
さっきまで四季のショートパンツから出ている白いナマ足を、これでもかと凝視していたとは思えない顔で。
「その呼んだ部隊の本来の管轄は誰が守るんだ?」
「鬼は桃と違って常時人手不足」
「んなことできねぇ」
ごもっともだな…。内心そう思う。声には出さないけれども。
やはり長く生きて戦場にて闘ってきた人間だからの視野と考えに四季は舌を巻いた。
「まぁ…今回は無陀野が居るからな」
「東京都の戦闘部隊でもエリートだった無陀野無人君が」
まぁそうだろうな。判断力、俊敏性、一度見ただけでも理解できる。
この人がめちゃくちゃに強いってことを。
なんと言うか纏う空気が鋭いナイフのように、ずっと警戒がはられている…。
エリート…戦闘部隊の鬼にあったことは現状ないからその力量がどれほどかは計り知れないが、現状ここにいる誰よりも強いと言うことは予想がつく。
真澄隊長と呼ばれた人はきっと並木度さんの上司…偵察部隊隊長なんだろう。
胸部の不自然な膨らみはナイフだろうか?
そう四季がグルグル考えている間にも話はとんとん拍子に進んで行ったいた。
話を聞いていないわけではないから、多少は耳に入っている。
皇后崎って人を攫った反グレの方々の溜まり場を既に特定してあるとのことだった。
あとは、乗り込むだけ…。
ならば………
「戦闘部隊は動けないが無陀野に動いてもらう」
「馨、お前が一緒に付け」
「分かりました」
言うタイミングは多分今しか無い。ここを逃したら。
息を吸った途端横から声がした。
「おい!待てよ!」
「チッ…んだよ?ガキは黙ってろ」
「俺はここで留守番する気はねぇぞ?」
「それじゃあマジで何しにきたかわかんねぇだろ」
先越されたか…少し肩を落として一通りの話が終わるのを大人しく待っていることにした。
「は?何言ってんだ?」
「現状留守番もできてねぇじゃねぇか、引っ込んでろ」
言葉の切れ味が鋭いなぁ…。この人めっちゃ怖いタイプの人だ…。
俺マジで言えるのかなぁ…。
「いや、やらせよう」
「お前も冗談言うようになったのか?」
「うちは普通の学校じゃ無い」
「実践を積ませた方が効率的だ…」
無陀野さんの言葉が終わった後に真澄隊長さんは短い沈黙の後に舌打ちをした。
「…あの、すみません」
多分ここが話の切れ目。
四季は周囲を目だけで軽く見渡してから、手を挙げた。肘から上を見えるように。
「俺も行かせてください」
「………」
廊下は再度深い沈黙に包まれている。左右からは無陀野さんと並木度さん、真澄隊長さんに睨むように見られて、正面からは無陀野さんの生徒と言われてた人たちからの視線が刺さる。
「お前に至っては部外者だろうが、クソガキ」
「皇后崎さんと同じく子供を助けました」
「だからなんだよ、あ?」
「テメェみたいな素性も知らねぇ奴は、足手纏いになるだけだ」
「力不足は黙ってろ」
真澄隊長さんはツカツカと足音を立てながら近付いて、黙らせるかのように人差し指を鎖骨の少し下に押し付けた。
足手纏い。力不足。その単語を聞いて四季は内心で笑った。
攫われたと聞いた瞬間に、自分も絡んだ人間であるから動かなくてはと思った。
けれどそれと同時にきっと周囲は、静止の声を上げたり、非難をするだろうと。
ならば、それらを押し倒すほどの事を明かせば良いだけだ。
別に言うなと言われてもいない、ただこれを交渉の材料にするのを四季自身憚っていただけだ。
「…多分、俺を連れて行った方が良いよ」
「あ?テメェ、どう言う意味だ?」
「どう言う意味って…」
瞼を閉じ、藍色の瞳を長いまつ毛が隠す。再度見えた時その目は吸い込まれるほどに魅惑的な赤色に染まっていた。
「俺、鬼神の子だから」
大遅刻ぶちかまし込んですみませんでした…
漸く真澄隊長を出せましたァァァァ!!
四季ちゃんが鬼神ってことを暴露するのをめちゃくちゃ書きたかったんですけども、どう書こうかと一生グルグルしていて気付いたら全く筆が進んでなかったです…
結局は原作見ながら、頭抱えて力でゴリ押しでなんとか形にできました…
ほんと漆原先生に感謝尊敬敬愛しかないです…
3000字越えでしたのに見ていただきありがとうございます!
一個質問っていうか、アンケート?なんですけど、四季ちゃんをこのまま1人で行動させるか、羅刹に入らせるかどっちが良いですかね…
羅刹に入らせる場合はいつ入れるのが良いのか…
もしくは練馬区が終わったら完結にするか…
どれが1番良いか主には決めれそうにないんです…
ですので読んでいただいてる皆様のみたい形にしたいな…と思いまして…
お時間がございましたら、答えていただければ嬉しいです…
コメント
36件
待ってください神作すぎると思ったら雨満さんでした🤦♀️🤦♀️先生と生徒の物語もほんとにだいすきです🥲

最高すぎ✨️ 四季ちゃんの観察力・臨機応変な態度かっこよかったし、真澄隊長の登場!どうやって登場するのか楽しみだったから、登場嬉しいし、かっこいい〜! 四季ちゃんの特大の情報を落としたあとみんなの反応がめっちゃ楽しみ♪しかも言い方がかっこいいし、最高だった! もっと言いたいことあるんだけど、上手く文章にできないからめっちゃ直球に言うと、 めっちゃ良かった!最高👍️ 続きも楽しみに待ってる✨️