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船が到着するまで、しばらく間があった。
アジア側の、背後にあるミナレットから日暮れのモアヅィンが流れはじめた。旅人は、今度は耳を傾けている。
知らぬ間に数人の人が座っている待合室が動き出した。二人も彼らの後を追い、待合室を出た。
桟橋の手前で青年は人波から外れた。船の陰から、ギリシャ正教の総本山と、詩的なブルーのモスクの間に太陽が消えるのが見えた。大陸が切れた先のマルマラ海は、空と海の境が消えつつあった。
「行かないのか」
桟橋の前で旅人が言った。
まもなく搭乗時間終了、のアナウンスが流れる。
旅人は、そうか、とだけ言った。
「これからクタイと会ってくる」と青年は言った「あいつ、きっとびっくりするだろうな」
きっと、これまでよりいい友達になれるよと旅人は言った。どうしてそう思うと青年が聞くと、今日僕達知ったよな。分解は統合のためだって、と旅人は言った。そして、ウインクを最後に桟橋を渡っていった。