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全員の視線が男へと向き直る。
割れた城の窓から勝手に入ってきたイチルは、やれやれと呆れるドワーフ二人に「よっ!」と挨拶し、ざわつく一行を集めた。
「ということで、皆様にはこれから少々お手伝いをしていただきたいと思います」
「お手伝いぃ? なんで俺たちが、んなことしなきゃなんねぇんだよ。それよりメシッ!」
「まぁまぁそう言わずに。もし手伝ってくれるなら、それこそ腹いっぱい、……いや、死ぬほどメシを食わしてやるんだけどなぁ……?」
メシという言葉に目を輝かせたロイら子供たちは、一斉に「ヤルッ!」と手を挙げた。
しかしイチルの言葉の重さを知っているウィルとミアは、全員から少し離れ、明後日の方向を向いたまま《自分たちのせいではない》と誤魔化した。
「よし、これでキミらは契約成立と。エミーネ氏にはまた後で別途お話をさせていただくとして、そうですね……。ではまず中に入りましょうか」
イチルが目で合図をすると、ゴルドフが嫌々頷いた。
ワーキャー叫ぶ子供たちとエミーネを先に地下へと招いたイチルは、動かずに残っていたミアとウィルを呼んだ。
「お疲れのとこ悪いが、少しだけ手伝ってもらうぞ。詳細は下で説明する。お前らも先に行って待ってろ」
ゾゾゾと血の気が引いたように真っ青な顔で階段を下りていく二人に手を振り、今度は似たような背格好で互いに腰に手を置いたドワーフの兄弟にニヤリと笑いかけた。
「よぉ、久しぶりだな。まだ生きてたかジジイども」
「よぉじゃねぇよ馬鹿野郎。突然連絡をよこしたと思えば、また面倒事押し付けやがって!」
ゴルドフがイチルの頬を手の甲でゴツゴツと叩いた。同じように肘でイチルの腰を小突いたモルドフも、「いつぶりだ、クソ野郎」と満面の笑みを浮かべて挨拶をした。
「なんだかんだ直接会うのは80年ぶりくらいか。最近は魔道具の開発もしてなかったからな。酒は頻繁に送ってもらってたが、会いに行くとなるとやっぱ面倒だからな」
ハッハッハと笑ったドワーフ二人に腰を叩かれ、イチルはいつぶりかの再開に昔を思い出し、頭を掻いた。
「それにしても驚いたな。まさか本当に魔境が解体されるとは。……しかし俺は世間の噂は信じないタチでな。未だに貴様がやったと思っているのだが。どうだ?」
「んなわけないだろ。あそこは俺の全てだって、いつも言ってたじゃん」
「しかし辻褄が合わん。兄ぃも俺も、絶対貴様の仕業だと噂していたが、本当のところはどうなんだ、あぁん?」
「だから違うっての。……守秘義務があるから細かなことは言えねぇんだけどさ、アレをやったのは……」
『やったのは……?(二人同時)』
「やったのは…………」
『やったのは…………?! (二人同時)』
「内緒に決まってんだろ。いいからさっさと準備しろよ。こっちはただでさえ遅れてんだ」
「だぁ~?!」と頭を抱えたドワーフ二人の肩をパンパンと叩き、イチルは細かい話はまた今度と地下の階段へと二人を押し込んだ。
「早いとこ作業進めてさっさと瓦礫深淵へ戻らねぇと。……ん?」
イチルが階段を降りようとしたところで、もうひとり、見知らぬ男がイチルを凝視していた。男は肩から巨大な剣をぶら下げ、不思議そうにイチルの顔を凝視していた。
「誰だお前。でっかい剣なんか持って。俺に何か用か?」
「用もなにも……。いやちょっと待て、あんた、……さっきの会話」
「会話? ああ、あんなのなんでもないただの挨拶だ、聞き流せ聞き流せ」
「いーや無理だね。俺は確かに聞いたぜ。魔境に、魔道具に、瓦礫深淵。魔境っていやぁ、ここらではあそこの総称みたいなもの。なにもんだいアンタ?」
「別にいいだろ、お前には無関係だ」
「そうはいかねぇ! こちとらガキ二人のせいで随分と予定が狂っちまった。ここへきちまったせいで、予定してた仕事にも穴を開けちまった、このままじゃ戻るに戻れねぇよ」
「それお前自身の責任だろ。ガキどものせいにするなよ」
「どちらにしてもだ! 悪いが何を企んでいるのか見せてもらうぜ。俺の見立てによりゃあ、あの二人はダイアルカス(※異世界で有名な宝石)の原石。俺もちぃと興味が出ちまったんでね、最後まで見届けさせてもらう」
だったらコイツも利用させてもらおうと悪い顔をしたイチルは、うんうんと優しく頷き、男を地下へと招き入れた。そして誰もいなくなったことを見届け、静かに床板をパタンと閉め、誰一人外へ出られぬように魔力で圧着した。
「おぉすげぇ、こんなボロい城の地下に工場みたいな場所があるなんて、すげぇ!」
物珍しさに子供たちが目の色を変えて色めき立つ中、肩をすぼめて静かにしていたウィルとミアの肩を叩いたイチルは、「それでどこまで準備できてる?」と耳元で質問した。
「ひゃ、ひゃい! ま、まだ何もできておりませんが、期日までにはどうにか……」
「ぼ、僕はこれから少しずつ形にしていこうかなぁなんて思っていたところさ。なぁに、僕の手にかかれば一発さ~、い、一発……」
「ほほ~う。ならば完成のイメージを教えてもらおうか。ウィルはフロアの監視機能とモンスターの自動コピー機能、ミアはモンスター強化の自動化と冒険者のフェールセーフ機能の設計だったよな。で、どんな感じ?」
滝のような冷や汗を流した二人は、ガタガタ歯を震わせながら無言を貫いた。
イチルとて、初めから二人に超高難度の設計ができるとは思っていなかった。しかし多少のイメージくらい持っていなければ話にならないと頷いた。
バンッとウィルの尻を叩き、聞き方を少し変え、洞窟でどんな能力を会得してきたかを尋ねた。
「ぼ、僕は、新たに覚えた贋物のスキルでカニの王様になったよ」
「それは前のダンジョンだろ。今回の結果を聞いてるんだ」
「そ、それが……」
「それが?」
「なぜか知らない内に、今度はベアーの王様になってしまってね。新しくベアーの力を手に入れたよ。まだ使ってみたことはないけどさ」
「ベアーぁ? ベアーねぇ……。穴掘りとか?」
「ば、バカにしないでくれたまえ! ベアーといっても普通のベアーではないよ。Cクラスに該当するダンジョンの主、ブロックベアーの能力なのさ!」
「はぁ……。特技は蜂蜜取り?」
「だ、だからそんな単純なものじゃないよ。きっともの凄いパワーで岩や壁をバンバン壊すことができる能力さ!」
「ふ~ん。で、フロアの監視はできるの、できないの?」
今にも泣き出しそうに唇を噛んだウィルは、悔しそうに「アイツが虐めるんだ」とエミーネの袖を掴んだ。エミーネは仕方なくハイハイと頷くと、ウィルに代わって言った。
「ブロックベアーはダンジョンの主だから、恐らくは探査系の能力を持っているはずよ。ウィルのスキルで使えるかどうかは知らないけど、フロアの状況を把握することくらいはできるんじゃないかしら」
「ほう、随分とバカの肩を持つじゃないか。……ならこんなのはどうだろう。キミとそこのバカで、ある一定の広さを遠隔で把握・管理できるような方法を考えてくれたまえ。期間はこれから二日、最終的に魔道具の一機能として落とし込む前提で考えていただけると助かる」
「魔道具の……。それはどのような形でも?」
「ああ、この施設にある道具はどれだけ使ってもらっても構わない。二人で形に仕上げていただけると助かる。もちろん報酬は弾むよ」
イチルの想像したとおりに面白そうねと腕まくりしたエミーネは、まったく想像も付かず呆然とするウィルの肩を掴まえ、さっさと構想を練り始めた。
お誂え向きの博識がいたものだとほくそ笑み、イチルは傍らで他人のふりを決め込んでいたミアの両肩をガシッと掴んだ。